兵士(読み)ひょうじ

精選版 日本国語大辞典 「兵士」の意味・読み・例文・類語

ひょう‐じ ヒャウ‥【兵士】

〘名〙
① いくさびと。つわもの。へいし。
令義解(718)軍防「凡兵士各為隊伍。〈謂。五十人為隊也。五人為伍也〉」
曾我物語(南北朝頃)九「夜番のひゃうじは何の用ぞや」
② 寺院などで輸送や警固にあたること。また、その役の者。
古今著聞集(1254)一二「用途をもたせてつかはしけり。小殿を兵士のためにそへてつかはしけるに」

へい‐し【兵士】

〘名〙 (古くは「へいじ」とも)
徴集されて戦争に出る者。軍隊で、士官の指揮をうける者。いくさびと。つわもの。兵卒。ひょうじ。〔日葡辞書(1603‐04)〕 〔旧唐書‐職官志〕
令制で、兵役に徴発された農民。正丁のうち三分の一が徴発され、軍団に配属された。ひょうじ。

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デジタル大辞泉 「兵士」の意味・読み・例文・類語

へい‐し【兵士】

《古くは「へいじ」とも》
軍隊で、士官の指揮を受ける者。兵隊。兵卒。
律令制で、兵役に徴発された農民。正丁せいていのうち3分の1が徴発され、軍団に配属された。ひょうじ。
[類語]軍人兵隊兵卒つわもの戦士闘士戦闘員従卒士卒将卒精兵弱兵雑兵ぞうひょう新兵初年兵古兵ふるつわもの老兵敵兵・敗残兵・伏兵番兵歩哨斥候歩兵騎兵砲兵工兵水兵海兵セーラー憲兵

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改訂新版 世界大百科事典 「兵士」の意味・わかりやすい解説

兵士 (ひょうじ)

古代の軍団制のもとに徴発された21~60歳の正丁男子の基本的呼称。7世紀後半から大宝律令の成立期にかけていわゆる律令軍制が整備され,正丁男子を対象とした徴兵制が施行された。現存する古代の戸籍のうち大宝2年(702)次の御野(美濃)国戸籍,筑前・豊前・豊後国戸籍では兵士を他の力役と区別し,兵役対象者を特別枠で確保したが,養老5年(721)次の下総国戸籍ではそうした区別は消滅し,力役の一形態として徴発されている。この間に,律令以前の兵制から正丁徴発による兵士制,あらたな人民編成に対応した兵制へと移行したのであろう。日本古代の兵士の軍役は国内上番,征行,衛防(衛士(えじ),防人(さきもり))の3種に大別される。基本任務は国府,兵庫,鈴蔵,関剗など国内要害の地の衛守であったが,そのほか修理(兵庫,城隍,器仗,堤防),防援(蕃使,囚徒,軍物),追捕,行幸護衛,官船看守などの雑使と武芸訓練が課せられた。律令の兵事に関する規定である軍防令は,体系的なものでは養老令が現存しているが,唐軍防令との比較において基本的相違が指摘される。それは,唐令が〈衛士〉に関する規定を中心にしているのに対して,日本令が衛士の用語を兵士と改めている点である。これは,唐府兵の基本任務が都城守衛の衛士であったのに対して,日本が国内上番の兵士役を中心に軍役を組みたてたことによるものである。兵士徴発については,軍防令兵士簡点条の末尾に〈同戸の内に三丁毎に一丁を取れ〉とあることから,正丁3丁につき1丁の率で徴発されたのではないかと考えられている。持統期では4丁につき1丁の割合で徴発され,8世紀には1戸に1人の比率と3丁につき1丁の割合とを基礎にして行われていたと考えられている。しかし軍防令簡点条,同簡閲戎具条は兵士点兵率そのものを示す条文ではなく,この問題は今後の検討が必要である。兵士制は軍団を前提として運営されたが,792年(延暦11)陸奥,出羽,佐渡,大宰府管内地域を除いて廃止され,平安期の兵士制は国府を中心に新たな制度へと移行していった。
軍制
執筆者:

平安時代に五位以上の貴族の家に抱えられた兵士。律令制下では私兵所有は認められなかったが,現実には中央貴族や地方土豪はかなりの私兵を所有し,これが軍団兵士による国家軍制を支える役割を果たしていたことは,藤原広嗣の乱の経過などでも知られる。10世紀の承平・天慶の乱に際し,政府が諸家から兵士の交名(きようみよう)を提出させて宮門警備などにあてて以来,諸家兵士は公認のものとなる。摂関・院・親王家および天慶の乱後に軍事貴族として登場した源平両氏などは,特に多くの私兵を抱え,日常的に館の宿衛や出行の際の身辺警固などにあてた。諸家兵士の給源はおもに畿内近国を中心とする地方領主層であるが,その編成方法としては,私的な家人および家礼関係によるものや家領荘園からの動員のほか,雇傭関係にあるものも少なくなかったようで,《明衡往来》には参議藤原某の兵士借用の要請にこたえた前将軍平の書簡がみえる。源氏や平氏などの都の武者は,こうした兵士供給の機能をもっていたのである。

平安時代に国を単位として動員された兵士。934年(承平4)7月に海賊追捕に向かう兵庫允在原相安が,〈諸家兵士〉とともに率いていた〈武蔵兵士〉を初見とする(《扶桑略記》)。天慶の乱では兵士を進む(提供する)べきむねの官符が国々に発せられており,現実に近江,美濃,尾張などの兵士の閲兵が行われた。これ以後の大きな反乱事件では,近隣の諸国に兵士徴発の官符が出され,任命された追討使は途中で彼らを集めて征討に当たるのが常であった。これらの諸国兵士は律令制の公民兵士ではなく,国ごとに定員がきめられていた健児(こんでい)でもない。〈武勇の人〉〈武勇に堪うるの者〉といわれるような特定の階層の出身であり,多くは国内の小領主であった。そうした特定階層による兵士という点では,883年(元慶7)海賊防御のために勇敢な浪人224人を要害の地に配置した備後国の〈禦賊兵士〉は,その源流といえよう。《今昔物語集》などにみえる〈国の兵共(つわものども)〉もこの諸国兵士であるが,鎌倉幕府の成立によってこの制度は廃止される。

荘園の機構を通じ,夫役として徴発された兵士。12世紀に入ると,年貢など上納物の輸送警固のために荘園内部で〈兵士粮料〉〈兵士米(ひようじまい)〉を課したり,領家が宿直警固のために荘園から〈兵士〉を上番させたりする事例も多くなる。1191年(建久2)の〈長講堂領目録〉にみえる〈門兵士〉もこれである。こうした〈兵士役〉は荘官や荘民に対する夫役の一種であったが,彼らの給養のために〈兵士免田〉を置いたところもある。また荘園領主がこうした〈荘園兵士〉を,私的な戦闘に動員した事例も知られている。1180年(治承4)源頼朝の東国政権が作られると,これに対抗するために平氏は〈天慶の例〉と称して諸家の荘園から兵士を徴集したが(《玉葉》),やがてこれは畿内近国の寺社領に拡大されて兵士・兵粮米の徴集が1183年(寿永2)の大きな政治問題となり,翌年の源範頼・義経などの入京によって停止された。以後,兵粮米の徴集は武家政権のもとでも実施されたが,荘園兵士が宣旨などによって公的に動員された事例は知られていない。
執筆者:

兵士 (へいし)

兵士(ひょうじ)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「兵士」の解説

兵士
へいし

「ひょうじ」とも。律令制での軍団の兵員。原則的には正丁(せいてい)から徴発され,種々の武具や軍糧としての糒(ほしいい)・塩を納め,年間数十日の国内上番の任務についた。有事には出征し,一部は衛士(えじ)・防人(さきもり)に派遣された。庸(よう)と雑徭(ぞうよう)を免除されたが,負担が重く,役夫として駆使されることも多かったので,しだいに兵役忌避が増えて8世紀後半には弱体化した。唐・新羅との緊張もゆるんだことから,792年(延暦11)辺要諸国を除いて廃止され,残った諸国でもやがて制度は消滅した。

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普及版 字通 「兵士」の読み・字形・画数・意味

【兵士】へいし

兵卒。

字通「兵」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の兵士の言及

【軍隊】より

…しかし有能な者,功績のあった者には進級をはやめるとか,二階級進級の特別措置がとられる。 軍隊は,幹部である将校,下級幹部である下士官,軍の大部を構成する兵士から成る。古代と中世における軍隊指揮官はおおむね貴族であり,職業的将校として育つ余地はなかった。…

【兵士】より


[軍団兵士]
 古代の軍団制のもとに徴発された21~60歳の正丁男子の基本的呼称。7世紀後半から大宝律令の成立期にかけていわゆる律令軍制が整備され,正丁男子を対象とした徴兵制が施行された。…

【徭役】より

…身体障害者(残疾)や父母の喪中の人に対して徭役を免除するという律令の規定も,実役を免除することに主眼があったと考えられる。なお徭役という言葉は,いわゆる徭役労働一般の意味でも用いられており,古代では,歳役や雑徭のほかに,地方の里から交替に2人ずつ中央に徴発されて雑役に従事する仕丁や,功食は支給されるが官によって強制的に雇傭される雇役(こえき)などがあり,兵士も実際には徭役の一種と観念されていた。広義の徭役労働は,古代だけでなく中世・近世にも存在していたが,古代では賦役(広義の税)のなかで,徭役労働の占める比重が高かったと考えられる。…

※「兵士」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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