均等待遇(読み)きんとうたいぐう

改訂新版 世界大百科事典 「均等待遇」の意味・わかりやすい解説

均等待遇 (きんとうたいぐう)

労働関係において,労働者がなんら合理的理由によることなく労働条件等につき使用者から差別的な取扱いを受けないことをいう。一般には,労働基準法3条が〈使用者は,労働者の国籍信条又は社会的身分を理由として,賃金,労働時間その他の労働条件について,差別的取扱をしてはならない〉と定めることによりこの原則を明らかにしている。これは,憲法にうたわれている〈法の下の平等〉原則(14条)を労働関係について具体化したものである。いわゆる労働法の分野においてかかる均等待遇原則を定めたものとしては,このほかにも公務員労働者の勤務条件についての差別的取扱いを禁じた国家公務員法(27条),職業安定機関による職業紹介や職業指導に際しての差別的取扱いを禁じた職業安定法(3条),それから組合員資格の得喪に関する差別的取扱いを禁じた労働組合法(5条2項5号)などがある。

 労働者の均等待遇をめぐっては,〈思想信条による差別〉と,女性労働者に対する賃金差別,結婚退職制,さらには若年定年制(差別定年制)などの〈性による差別〉が,とりわけ重要な法律問題を提起する。前者については,たとえば三菱樹脂事件の例に見られるように,政治的信条を理由に労働者の採用を拒否するような場合には,使用者の〈採用の自由〉の問題や,また〈採用〉ということが労働基準法3条にいう〈労働条件〉に含まれるかといった法律問題ともかかわって採用時における思想信条による差別の救済をきわめて困難なものにしている。他方後者性差別については,労働基準法3条に定める差別的事由(理由)に性別文言がなく,また労働基準法4条も単に賃金に関しての性差別を禁止するだけといった法的不備が雇用における男女平等の実現を阻害してきた。このような法規定上の欠陥を補うため,裁判所はこれまで憲法上の平等原則(14条)や民法上の〈公序法理〉(90条)を適用することによって,女性労働者に対する種々の差別的取扱いを救済するのが通例であった。しかし,こうした救済方法はそれなりに評価しうるものの,言ってみれば一時しのぎのものであって,そこにはおのずから限界があった。その意味で,雇用における男女の実質的平等を真に実現させるためには,何よりもまず〈機会の均等〉を保障することを目的とした立法制定といった,より根本的な面からの解決がはかられる必要があった。この点,近時の諸外国の立法例(たとえば,アメリカ合衆国の1964年公民権法第7編,イギリスの1975年性差別禁止法など)は,このような観点から雇用上の男女平等の実現を要求している。

 日本でも1985年に男女雇用機会均等法が制定され,翌86年より施行されている。しかし,同法は女性労働者に対する不利益取扱だけを規制の対象とし,また募集・採用や配置・昇進に関する不利益取扱の規制を事業主の努力義務にとどめ,さらに紛争解決のための調停の開始を一方の申請ではなく,双方の同意に基づかせるなど,多くの問題点を含み,その実効性が十分ではなかったこともあり,1997年6月の大幅な改正を受けて,99年4月より施行されるところとなった。
女性労働
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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