翻訳|polymorphism
同一種の生物集団に形態やその他なんらかの形質について異なった2種類以上の個体が共存することを多型という。雌雄の区別がある生物では,大きさ,形,色などが違うことが多く,この場合を性的二型sexual dimorphismという。これに対してハチやアリのような社会性昆虫では違った働きをする個体が共存しており,これを社会的多型social polymorphismという。またアゲハチョウやジャノメチョウなどでは季節によって違った斑紋をもつものがあるが,これは季節的多型seasonal polymorphismと呼ばれる。ヒトのABO血液型の場合のように,多型的な形質が遺伝的なものである場合は遺伝的多型genetic polymorphismと総称される。
ある集団を考えると,毎代突然変異により変り者が生じるから,厳密にいえば2種類以上の遺伝子型がほとんどつねに存在することになるが,変異体が低い頻度でしか存在していない場合には遺伝的多型と呼ばない。遺伝子頻度にして約1%以上の変異が存在するときに遺伝的多型という。遺伝的多型のうち平衡多型balanced polymorphismはヘテロ接合体がいずれのホモ接合体よりも自然淘汰に有利である(これを超優性という)ため,2個の対立遺伝子が環境の変動がないかぎり安定して共存し続ける場合で,ショウジョウバエの逆位染色体の多型がその例である。かつて自然淘汰に有利であり,集団の大部分を占めていた遺伝子も環境変化などにより不利となれば,遺伝子頻度は減少する。その減少途中を観察すると集団は多型的である。これを推移的多型transient polymorphismといい,ガの類の工業暗化の場合に,増加しつつある黒色遺伝子と減少しつつある白色遺伝子が共存しているのがその例であるが,十分時間がたてば多型的でなくなると考えられる。このような一時的な多型は自然淘汰に対してほぼ中立である遺伝子の頻度が,機会的浮動により偶然1%を超える場合にも生じる。
執筆者:大西 近江
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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