[1] 〘副〙
①
物事の状態、様子、作用などを疑問に思い、ためらったり問いかけたりする意を表わす。
(イ) (
文中に用いて) どう。どのように。どんなふうに。
※
書紀(720)継体二四年・
歌謡「韓国
(からくに)を 以柯儞
(イカニ)言
(ふ)ことそ 目頬子来たる」
(ロ) (あとを省略し、
文末に用いて) どうか。どんなか。どうしたのか。どうだろうか。どうしようか。
※
万葉(8C後)四・六四八「相見ずてけ長くなりぬこの頃は奈何
(いかに)幸
(さき)くやいぶかし
吾妹」
② 物事の原因、理由、方法などを疑問に思い、聞きただしたりする意を表わす。
(イ) (文中に用いて) なぜに。どのように。どういうわけで。どうして。
※
落窪(10C後)二「いかにの給へるならんと歎けば」
(ロ) (文末に用いて) なぜか。どういうわけか。どうしてだろうか。
※
山家集(12C後)下「待ちつる
甲斐なく、いかにと申しければ」
③
結論がわかっている場合、反語の意を表わす。どのように…か。どうして…か(そんなはずはない。できない)。
※竹取(9C末‐10C初)「かくかたき事をばいかに申さん」
④
限度がわからないくらいにと、強調し詠嘆する意を表わす。
(イ) (多く後に推量の表現を伴って) 程度や状態のはなはだしさを推測していう。どんなに。どれほど。
※
伊勢物語(10C前)一一三「ながからぬ命のほどに忘るるはいかに短き心なるらん」
(ロ) (後に逆接の語を伴って) はなはだしく逆接的な前提条件であることを表わす。どれほど。いくら。なんぼ。
※詞花(1151頃)恋上・二二六「我が恋は蓋身かはれる
玉櫛笥(たまくしげ)いかにすれどもあふかたぞなき〈よみ人しらず〉」
⑤ 驚き呆れる気持、意外感、感動などを表わす。「こはいかに」
(イ) (文中に用いて) なんと。なんとまあ。
※後撰(951‐953頃)恋一・六〇〇「ながらへてあらぬまでにも事の葉のふかきはいかにあはれなりけり〈よみ人しらず〉」
(ロ) (文末に用いて) なんということだ。どうだろうね。
※平家(13C前)七「武家のちりあくたとかくべき様はいかに」
⑥ わからない、または表現しにくい状態を、そのまま不定の状態として表わす。引用文中に用い、間接話法の性質が強い。どうこう。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「いかになり給にきとか人にもいひ侍らん」
[2] 〘感動〙 相手に呼びかけることば。なんと。もし。これこれ。
※万葉(8C後)七・一二三五「浪高し奈何(いかに)楫取り水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき」
[語誌]本来、「いかなり」の連用形。状態や理由についての疑問を表わす(一)が、基本的な用法。(二)は、相手の状態を尋ねる疑問表現としての用法が、形式的に拡大されて、呼びかけに転用されたもの。