子宮内膜炎とは、子宮内腔をおおっている子宮内膜の炎症のことです。
細菌感染による炎症が原因になります。感染経路は、上行性感染によるものが大部分ですが、まれにリンパ行性、血行性、下行性(腹腔内から卵管を介して)感染も認められます(図5)。
下行性感染を起こすものでは
月経が定期的にある女性では、子宮内膜の機能層は周期的にはがれ落ちるので、細菌が侵入してきても月経時に排出されてしまうこともあります(図6)。閉経後や分娩後、流産後の女性では周期的な子宮内膜の
下腹部の不快感、下腹部痛、微熱などの症状が多いのですが、
内診により、子宮に圧痛が認められます。炎症がさらに付属器や骨盤内にまで拡大すると付属器領域やダグラス
子宮内膜炎は、急性と慢性とに分類できます。急性子宮内膜炎は、子宮内膜の機能層に感染が起こっているもので、月経時に機能層が
慢性子宮内膜炎は、感染が子宮内膜の基底層まで波及する場合で、月経時に基底層が排出されないため感染は慢性化します。基底層に残る細菌は、再生されてくる機能層で再度感染するため、経過は慢性化します。
結核性子宮内膜炎や老人性子宮内膜炎では慢性に経過します。老人性子宮内膜炎では、子宮
起炎菌が特定されている場合には、その菌に感受性のある抗生剤を使用します。起炎菌が特定されるまでの間は、通常、広域スペクトル(効果の範囲が広い)の抗生剤を使用します。また、消炎薬を併用することもあります。流産後や分娩後では子宮収縮薬を併用することで子宮内腔に残った組織の排出を促すこともあります。子宮瘤膿腫を形成している場合には、頸管を開大し、うみを排出する必要があります。
下腹部痛や異常な
竹内 亨
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
子宮体内膜炎ともいう。細菌が子宮頸管を上行して子宮体内膜に達して炎症を起こすものの総称で,急性子宮体内膜炎が代表的疾患である。原因菌は連鎖球菌,淋菌,ブドウ球菌,大腸菌,そのほか嫌気性菌などであり,典型的かつ臨床症状の重篤なものに産褥(さんじよく)性子宮内膜炎がある。子宮内膜炎の誘因には,流産,人工妊娠中絶,産褥子宮感染,性交による淋菌感染,婦人科的手術または子宮内操作,IUD挿入,タンポン挿入,放射線治療などがある。症状は,細菌の毒性が弱いときには比較的軽度であるが,毒性が強いときには重篤な症状を呈し,炎症が子宮筋層に波及して子宮筋層内膜炎となる場合や,さらに激しいものは敗血症を招くものもある。診断は,発熱,下腹痛,血性または膿性帯下,子宮の腫大,圧痛,白血球増加などにより容易である。治療は,安静,抗生物質,子宮収縮剤の投与を行う。頸管閉塞がある場合は拡張を行い,貯留物を誘導し,IUDなどの異物がある場合はこれを除去する。結核性子宮内膜炎は,結核菌感染による慢性子宮内膜炎で,卵管結核からの下行性感染によって起こり,20~30歳の若年婦人に多い。老人性子宮内膜炎は,子宮の老人性萎縮のため,子宮頸管が狭小化して閉鎖することにより分泌物が貯留し,大腸菌などの上行感染により生ずる子宮留膿腫であり,慢性に経過する。周期性の下腹痛があり,子宮体癌でも同様の症状をみる場合があるので,これとの鑑別を要する。子宮頸管内膜の感染症である子宮頸内膜炎は,症状として帯下の増加がみられ,頸管カタルと呼ばれる場合もあり,慢性頸内膜炎がその代表である。原因は子宮体内膜炎とほぼ同様であるが,そのほかに体質異常,自律神経失調症,子宮腟部糜爛(びらん)などを有する婦人に起こりやすいとされている。症状は子宮体内膜炎より軽度であるが,なかには難治性のものもある。治療法は原因により異なる。
執筆者:塚原 嘉治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…子宮は生理的には小骨盤腔のほぼ中央に位置し,前傾前屈の位置をとっているのが普通であるが,位置異常として子宮が病的に後転する子宮後屈症,子宮が全体として前後左右に位置を変える子宮転位,また子宮が上下方向へ移動する子宮上昇や子宮脱などがある。子宮体内膜の炎症には急性子宮内膜炎があり,連鎖球菌,淋菌,大腸菌などが原因菌となり,分娩,流産,人工妊娠中絶,IUDなどが誘因となる。炎症が進行し,子宮筋層へ及ぶと子宮筋層内膜炎となり,症状はいっそう強くなる。…
※「子宮内膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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