原語は梵語 abhibhava で、「克服する」の意。伏滅、勝伏とも訳す。仏教で衆生を教え導くための二つの方法の一つで、煩悩の克服を主眼とする。普通はもう一つの方法「摂受(しょうじゅ)」(衆生の善をおさめとって導く)の前段階と解されるが、日蓮は邪智謗法の横行する末法の世には折伏こそがふさわしいとした。
破折調伏の意で,摂受(しようじゆ)の対語。仏教における化導弘通(けどうぐづう)の方法で,摂受が相手の立場や考えを容認して争わず,おだやかに説得して漸次正法に導くことであるのに対して,折伏は相手の立場や考えを容認せず,その誤りを徹底的に破折して正法に導く厳しい方法で,摂受は母の愛に,折伏は厳しいながら子をおもう父のいましめにたとえられる。摂受,折伏ともに《勝鬘(しようまん)経》にみえるが,これを重要問題としたのは法華仏教で,中国法華仏教の大成者智顗(ちぎ)は,法華経安楽行品(あんらくぎようぼん)における他人の好悪長短を説かないことをもって摂受とし,《涅槃(ねはん)経》にみえる正法を護持するために武器をもち,正法を誹謗毀訾(きし)する者を斬首することをもって折伏とした。これによれば,法華経が摂受,涅槃経が折伏になるが,智顗はまた,法華仏教は折伏の方法によって権教(ごんぎよう)を破折するものであると規定している。日本において,これを継承展開させたのが日蓮である。日蓮も,化導の方法に摂受,折伏のあることを認めるが,邪智謗法(ほうぼう)の者の充満する末法においては,折伏を優先することを強調,実践し,智顗が安楽行品を摂受の依拠としたのに対して,同経常不軽菩薩品(じようふきようぼさつぼん)にみえる常不軽菩薩が迫害をうけ,それにたえながら人びとを救おうとしたことをもって,折伏実践の典型とした。日蓮の折伏実践は,折伏がよびおこす迫害を甘受することにより自己の過去の重罪を消すことができるという懺悔滅罪(ざんげめつざい)の意識に支えられていたから,迫害受難はいっそう折伏実践を行わせることになった。この折伏の化導法は,中世日蓮宗において,宗論(しゆうろん)という形をとって発現された。しかし,戦国大名による宗論禁止やとりわけ織田信長による安土宗論で日蓮宗が敗退させられたことを契機として,しだいに摂受重視に転換していき,幕藩体制下では摂受中心にならざるをえなかった。のちにこの折伏の方法をとったのは,幕末・明治維新期における長松日扇の仏立(ぶつりゆう)講と第2次大戦後における戸田城聖の創価学会である。
執筆者:高木 豊
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仏教における教化法。摂受(しょうじゅ)の対語。衆生(しゅじょう)教化の方法に摂受、折伏の2種があり、折伏は相手の悪を指摘し屈伏させて正信に導き入れる方法、摂受は相手の善を受け入れ、摂(おさ)めとって、徐々に浅から深へと導いていく方法。『勝鬘経(しょうまんぎょう)』十受章にこの摂折(しょうしゃく)二門の原拠がある。中国隋(ずい)代の天台智顗(ちぎ)は『摩訶止観(まかしかん)』10下において「夫(そ)れ仏法に両説あり。一に摂、二に折。安楽行(あんらくぎょう)(品(ほん))に不称長短といふは是(こ)れ摂義なり。大(般涅槃(はつねはん))経に執持刀杖乃至斬首(しゅうじとうじょうないしざんしゅ)といふは是れ折義なり」と述べ、両経の化儀(けぎ)(教化の方法)を相対して、法華(ほっけ)は言説布教であるから摂受、涅槃は武力による破折のゆえに折伏とする。また『法華玄義』九上に「法華は折伏、権門(ごんもん)の理を破す……涅槃は摂受、更(さら)に権門を許す」とあり、両経の教理を相対して、前述の説とは逆に、純円の法華を折、雑円の涅槃を摂と判じている。また六祖湛然(たんねん)の『法華文句記(もんぐき)』の不軽品(ふきょうほん)釈は、法華のなかでも安楽行品14は摂受、常不軽菩薩品(じょうふきょうぼさつほん)20は折伏である理由10をあげる。
日蓮(にちれん)は『開目抄』下で「無智悪人の国土に充満の時は摂受を前とす。安楽行品のごとし。邪智謗法(ほうぼう)の者多き時は折伏を前とす。常不軽品のごとし」と述べて、末法の世の日本国は邪智謗法の国であるから、折伏を用いよと説いた。日蓮が他宗を責めた有名な四箇格言(しかかくげん)、すなわち念仏無間(むげん)(念仏は無間地獄に落ちるもの)、禅天魔(禅は天魔の行為)、真言亡国(真言は国を滅ぼすもの)、律国賊(律宗は国賊)はその一表現である。
[浅井円道]
『田中智学著『折伏とはなにか』(1968・真世界社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…謗法からの布施供養はその邪を正すべき相手からの施物である。受容すると,邪を正す〈折伏(しやくぶく)〉の根拠は失われる。謗施の不受はこうして生まれ,不施はこれに付随して生じた。…
※「折伏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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