放射線分解(読み)ホウシャセンブンカイ(英語表記)radiolysis

デジタル大辞泉 「放射線分解」の意味・読み・例文・類語

ほうしゃせん‐ぶんかい〔ハウシヤセン‐〕【放射線分解】

放射線影響により物質中の分子分解すること。γガンマ照射によって水が水素過酸化水素生成するなど。ラジオリシス

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精選版 日本国語大辞典 「放射線分解」の意味・読み・例文・類語

ほうしゃせん‐ぶんかいハウシャ‥【放射線分解】

  1. 〘 名詞 〙 放射線の働きで引き起こされる化合物の分解。

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改訂新版 世界大百科事典 「放射線分解」の意味・わかりやすい解説

放射線分解 (ほうしゃせんぶんかい)
radiolysis

物質に放射線が照射されると,放射線のエネルギーが物質に吸収され,その結果イオンや励起状態,ラジカルなどが生成する。これらの化学種は反応性に富み,物質系の化学結合切断や組換えをひき起こし,化学反応を誘起する。放射線照射後,活性種の生成から化学反応に至る一連の過程において,化学結合の切断や組換えなどに至る過程を,化合物の分解という面を強調して放射線分解と呼ぶが,放射線分解の結果ひき起こされる放射線化学反応との区分を明確にすることは困難であり,放射線化学反応を含めた広い意味で使われることも多い。

種々の化合物について放射線分解の研究が行われているが,最も理解が進んでいるのは水に関してである。水の放射線分解は一般に(1)式のように書くことができる。

ここでe⁻aqは,イオン化によって水分子からたたき出された電子が周囲の水分子との衝突によってその運動エネルギーをしだいに失い,熱エネルギー程度となったとき,周囲の水分子を水和,配向した状態にあるもので,水和電子と呼ばれる。H,OHは水分子の化学結合が切断した結果生ずるラジカルであり,水和電子とともにきわめて反応性に富んだ化学種である。(1)式は,照射後きわめて短時間の間に起こるスパー内での反応を免れた化学種として,H,OH,e⁻aqがあり,スパー内反応生成物として,H2とH2O2があることを表している。もし水中に他の溶質が存在すれば,上記化学種は溶質との反応をひき起こす。他方,溶質を含まない純水の場合には,上記化学種は相互の間で反応を繰り返し,安定な生成物として,H2,O2とH2O2を生成する。

 (1)式で示される化学種の生成量は放射線の種類に依存し,LET(エルイーテイー)の小さい放射線の場合,相対的にH,OH,e⁻aqの収量が増すが,LETの大きい放射線では逆にH2とH2O2の収率が増大する。これは,LETの大きい場合,スパー内反応の寄与が相対的に増加するためと考えられ,このようなLETの違いによる反応性の相違をLET効果と呼ぶ。

放射線分解過程を研究する有力な手法に,パルス放射線分解(またはパルスラジオリシス)法がある。これは光化学の分野で開発されたせん光分解法(フラッシュフォトリシス)を放射線化学の分野に適用したもので,加速器からの強力な粒子(通常は電子)の短いパルスを照射し,試料中に生成する短寿命活性種の挙動を物理化学的手法によって追跡し,その同定を行うとともに反応性を調べるものである。追跡手法としては電導度測定,電子スピン共鳴光散乱,発光測定など種々あるが,光吸収法が最も広く利用されている。この手法は1960年代初期に使用され始め,水の放射線分解によって生ずる水和電子e⁻aqの存在を立証して注目を集めた。当時マイクロ秒(10⁻6秒)オーダーあるいはそれ以上の寿命をもった活性種しか追跡することができなかったが,加速器と電子計測器の進歩により,最近ではナノ秒(10⁻9秒)やピコ秒(10⁻12秒)オーダーの寿命のものでも追跡できるようになった。

高分子化合物に放射線を照射すると,二つの高分子鎖の間に化学結合を生ずる橋架けと高分子鎖を形成する原子間の化学結合が切れる切断が起こる。高分子の分子量は前者によって増大し,後者によって減少する。放射線照射によって橋架けと切断のどちらが起こるかは,照射条件に大きく影響される。高分子を真空中固体のまま照射すると,ポリエチレンポリプロピレンポリ塩化ビニルなど高分子の主鎖構造をで表すことができるタイプのものでは,橋架けが切断に優先し(橋架け型),ポリイソブチレンやポリメタクリル酸メチルなどで表せるタイプのものでは切断のみが起こる(分解型)。橋架け型に属するポリプロピレンやポリ塩化ビニルも空気中で照射すると切断が橋架けに優先する。これは,放射線照射によって高分子に生成するラジカルが酸素と反応してペルオキシドを形成し,高分子鎖の切断反応を誘起するためと考えられている。切断が優先する場合には,分子量の低下とともに高分子の劣化が進むので,放射線環境下で,このような材料を使用する場合には大きな問題となる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「放射線分解」の解説

放射線分解
ホウシャセンブンカイ
radiolysis

広義には,放射線が物質に作用した結果起こる化学変化を総称していうが,放射線の作用によって分解反応が起こり,分解生成物を生じる場合をさすことが多い.ただし,分解反応のみならず,結果として重合体あるいは異性体を与える場合にも用いられる.放射線の物質への作用は,
(1)ごく初期の物質による放射線エネルギー吸収過程とそれにただちに続いて起こる過程(物理的段階)と,
(2)これと一部分重複してこれに続く原子,分子のイオン化,励起,およびこれらと周囲の原子,分子との相互作用(物理化学的段階),
(3)さらにこれらの中間体がすべて熱平衡化してしまったのちに,続いて起こるラジカル反応などの化学変化(化学的段階),
とに分けられる.(1)を中心に研究を行うのが放射線物理学であり,(2)に中心をおいて(1)および(3)をも含めて化学的効果を研究するのが放射線化学である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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