シビリアンコントロールの訳語で、政治が軍事に優越するとの民主主義国家の基本原則。日本では軍部が政府や国会の役割をなおざりにして独走した結果、太平洋戦争などを招いた戦前への反省から、国民の意思に基づき自衛隊を運用するとされている。憲法は首相や国務大臣を文民に限ると規定。首相は自衛隊の最高指揮権を有する。自衛隊の組織や予算は国会の議決で決まり、外部からの武力攻撃に対応する防衛出動など自衛隊の行動も国会承認を必要としている。
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宣戦・講和の権限、軍事費の決定、軍隊の最高指揮権は、軍人にではなく、文民、具体的には内閣総理大臣、防衛大臣、さらには国民代表たる国会議員の会議体である国会にある、という考え。英語ではシビリアン・コントロールcivilian controlというが、同様な趣旨のものとして文民優越制civilian supremacyという言い方もある。文民統制の思想は、古くはピューリタン革命期に、ハリントンが自由と独裁は両立しないとしてクロムウェルの軍事独裁を批判したことにみられる。イギリスが長年の間、常備軍を保有しなかったのは、そうした思想に基づくものと思われる。
第二次世界大戦前の日本においては、文民統制の思想はなかった。大日本帝国憲法(明治憲法)では、陸・海軍の統帥権(11条)、軍隊の編制(12条)、宣戦・講和(13条)、戒厳(14条)の権限は天皇に属し、これについては、帝国議会も内閣も関与できなかったからである。このことが、軍閥、軍国主義の形成を生み、1931年(昭和6)の満州事変から敗戦に至るまでの悲惨な十五年戦争に突入する要因となったことはいうまでもない。戦後は憲法第9条によって戦争放棄、軍備の否認が規定され、文民統制の思想そのものが必要なくなったかに思えた。しかし、1950年の朝鮮戦争の勃発(ぼっぱつ)を契機に、自衛隊が発足したため、文民統制がふたたび問題となった。
日本では、文民統制はまず憲法第66条2項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」という規定に基づいてなされている。ここで文民とは軍人ではないという意味に解され、第二次世界大戦後の自衛隊は軍隊ではないとされているから、実際には旧軍人とくに職業軍人が軍人に該当する。かつて岸信介(のぶすけ)内閣発足のときに元海軍大将・参議院議員野村吉三郎を防衛大臣にあたる当時の防衛庁長官に任命しようとして、文民規定に抵触し取りやめになった事例がある。また軍事予算に関する決定は国会が議決し、国防に関することや緊急事態に関する重要事項は、内閣総理大臣を議長とする、外務・財務大臣、防衛大臣などからなる安全保障会議(1986年に国防会議を改組設置)が取り扱うという点で、日本においても文民統制の思想が制度上保障されているとみてよい。
世界各国の憲法のなかには、「国防」「軍の編制」などについて編や章を設けているものがあり、軍の最高指揮権は一般に行政府の長に与えられているが、アメリカのように、戦争宣言の手続や軍の編制、予算制定の権限を連邦議会に与えている国もある。しかし、いずれにせよ、文民統制はそれ自体では、軍機構の巨大化、核戦争の危機などは防止できず、ここに文民統制の限界がある。
[田中 浩]
(根本清樹 朝日新聞記者 / 2008年)
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…それに伴い,膨大な軍需産業がアメリカ経済の中で大きな地位を占めるにいたり,〈軍産複合体〉の存在が指摘されるようになる。
[統帥と文民統制]
合衆国憲法の下で,大統領は全軍の最高司令官として,合衆国防衛の最高責任者の地位にある。より具体的には,文民である国防長官,また軍事専門家から構成される統合参謀本部の補佐をうけ,大統領は,陸・海・空軍および海兵隊,州兵の全国組織である護国軍National Guard,沿岸警備隊Coast Guardを統轄,指揮している。…
…また議会は,軍隊に対する1年ごとの支出予算制度を確立し,軍法制度も1年ごとに承認する慣例をつくった。こうしてイギリスでは,軍隊の議会による〈文民統制〉方式が定着した。さて,19世紀末までは内閣が陸海軍を統制し,さらに防衛政策にも責任をもったが,そのままでは軍事技術の飛躍的発展や戦略の変化に対応できなくなり,1902年に〈帝国防衛委員会(CID)〉が設立され,平時におけるイギリス防衛政策の最高諮問機関(議長は首相)として,第2次世界大戦の直前まで機能した。…
…〈文民統制〉と訳す。一般的には軍人は文民civilianの権力に服従すべきことを意味するが,巨大な常備軍を備える現代国家において,シビリアン・コントロールの意味するところは一義的でない。…
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