日本語文法の用語。〈文を,言語として不自然にならない限りで,最も細かく区切った場合の各部分〉などと定義される。たとえば〈太郎は/荷物を/しっかり/抱えた〉という文の,/で区切られた各部分をいう。この文を四つに区切れと言われれば,まず誰でも上のように区切るに相違なく,直観的にもごく自然な言語単位である。文節の切れめには音の休止を置きうるが,一般に,文節内部には音の休止を置くことなく,一つの文節はひと続きに,一定のアクセントをもって発音される。つまり発音上の最小単位といえるような性格をもつが,また文法上も有効な概念であり,たとえば,終助詞を置きうる所と,文節の切れめとは,一般に一致する(上例に可能な限り終助詞(たとえば〈ね〉)を入れてみると,〈太郎はね/荷物をね/しっかりね/抱えたね〉となり,まさに〈ね〉の後が文節の切れめにほかならない。文を文節に分けるには,これが最も簡便な目安である)。日本語の単語は,〈(それ自身あるいはその活用形が)単独で文節をなしうるか否か〉によって,自立語(詞)と付属語(辞)とに大別され(後者はいわゆる助詞・助動詞,前者はそれ以外),1文節は,自立語1語で,あるいはその後に付属語1語ないし数語が伴われる形で,構成される。
連続した二つ以上の文節が一つのまとまりをなすと見られるとき,これを〈連文節〉という。上例では,〈しっかり抱えた〉〈荷物をしっかり抱えた〉が連文節(また文全体も連文節)である。このように文節・連文節は単語と文との中間の言語単位と位置づけられ,ヨーロッパ諸言語の文法などにいう〈句〉に近い。文節・連文節という概念は橋本進吉の提唱によるもので,橋本はこの両概念をもとにシンタクス(文の構造)の基礎的な研究にも及んでいる。たとえば,上文の構造は,のように,文節(各下線)と連文節(各[ ])に基づいて把握できるというわけである。こうした橋本の分析は基本的には高く評価すべきものだが,ただし,文によっては今一つ説得力に欠ける場合もある。たとえば〈親と子のきずなは固い〉は,同様の方式に従えば,と分析されることになるが,実はこの文では,〈の〉は〈子〉だけでなく〈親と子〉全体を,また〈は〉は〈きずな〉だけでなく〈親と子のきずな〉全体を受けるわけだから,文節にこだわらずに,むしろ,
と分析すべきである(ここでは,内側の二つの[ ]は文節でも連文節でもない),というような異議が唱えられることになる。時枝誠記(ときえだもとき)は,こうした趣旨を含む,文節によらないシンタクス(自ら〈入子(いれこ)〉式と名づける)を提唱,以来,国語学界や教育界の一部で,文節式と入子式の優劣をめぐる論議などが行われてきたが,最近の言語学の研究成果も踏まえつつ考えると,いわばいずれの分析方式も必要,というべきようである。文節に基づく分析だけですべて文の構造を説き尽くすことはできないまでも,文節という概念が有用なものであることは,まず否定できないところである。
執筆者:菊地 康人
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日本文法の用語で、単語と文との中間にある言語単位をいう。橋本進吉の文法論における用語であるが、学校文法を通じて一般に流布している。橋本によれば、「文節」は、文を実際の言語としてできるだけ多くくぎったもっとも短い一句切(ひとくぎ)れで、たとえば「今日もよいお天気です」という文は、「今日も」「よい」「お天気です」の三文節からなるという。「文節」は一つまたは二つ以上の単語からなるが、文を直接に構成する成分は単語でなく、この「文節」であり、単語が文節を構成し、文節が文を構成するという関係になる。したがって、文の構成は、文節相互の関係として説明され、すべて二つの文節の結合関係に還元されると考えられるが、意味の側からみると、文節の結合したものを一つのものとみて、それが他と結合するとみるべき場合がある。たとえば、「この兄と弟は」は、「兄と」と「弟は」の二文節がまず結合し、これと「この」という文節が結合するとみられる。このように、二つ以上の文節が結合して意味的なまとまりを有するものを、橋本は「連文節」とよび、この「連文節」の概念で文の構造を説明しようとした。
なお、「赤い花が咲く」において、「文節」の考え方では、「赤い」が「花が」を修飾すると説明されるが、「赤い」は「花」だけを修飾しているとみられることなどから、「文節」を構文論の基礎に置くことを疑問視する見方もある。
[山口佳紀]
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