朝鮮人民軍(読み)チョウセンジンミングン

デジタル大辞泉 「朝鮮人民軍」の意味・読み・例文・類語

ちょうせん‐じんみんぐん〔テウセン‐〕【朝鮮人民軍】

北朝鮮の軍隊。1948年創設。朝鮮労働党委員長を最高司令官とし、陸軍海軍空軍および弾道ミサイル運用を担う戦略軍で構成される。総兵力は推定約120万人(2014年現在)。北朝鮮人民軍北朝鮮軍

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「朝鮮人民軍」の意味・わかりやすい解説

朝鮮人民軍
ちょうせんじんみんぐん

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の正規軍。日本のマスメディアでは北朝鮮軍の通称も用いられる。

 最高司令官は金正恩(キムジョンウン)。陸軍、海軍、空軍・反航空軍、戦略軍、特殊作戦軍の5軍を軍種とする。戦略軍は、弾道ミサイルの運用などを担当。階級としては、金日成(キムイルソン)、金正日(キムジョンイル)、金正恩のみに授与された共和国元帥のほか、人民軍元帥、次帥、大将、上将、中将少将などがある。朝鮮労働党の軍隊であるとされ、総兵力は約120万人と推定される。労農赤衛隊、赤い青年近衛(このえ)隊と称する民兵をあわせると500万人以上になる。軍人は、建設工事などに労働力として動員されることも多い。

 1948年2月8日創設時の最高司令官は崔庸健(チェヨンゴン)。朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)直後の1950年7月4日に金日成が最高司令官となった。1978年以降は、金日成が満洲において抗日遊撃隊である「朝鮮人民革命軍」を組織した日とされる1932年4月25日が朝鮮人民軍創建記念日になった。1912年生まれの金日成が20歳の時に軍を創建したとの説明であり、1945年10月の党創建や1948年9月の建国よりも伝統があるとされた。しかし、2018年1月にふたたび創建日が2月8日に戻され、朝鮮人民革命軍と明確に区別された。2020年5月には、4月25日の朝鮮人民革命軍創建日も公休日に定められた。

 1962年12月、金日成は経済建設とともに国防建設を進めるという「並進路線」を提示すると同時に、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という「四大軍事路線」を提示した。その後、韓国との体制間競争のなかで、軍事力増強が重視された。1990年代以降、金正日は「先軍政治」を掲げ、軍の役割はさらに高まった。金正日政権後期からは、人民軍総政治局長、総参謀長、人民武力相(国防相に相当)の三者が重視され、バランス型人事がとられた。

 金日成存命中の1991年12月、金正日が最高司令官に推戴(すいたい)された。1993年4月には「国家主権の最高軍事指導機関」である共和国国防委員会の委員長(国防委員長)にも推戴されている。冷戦終結という逆風のなかで、後継者が軍を掌握することを急いだものと考えられる。金正日死去直後の2011年12月には、その「遺訓に従って」金正恩が最高司令官に推戴された。二代目、三代目の最高指導者いずれもが党や国家の最高職位に先んじて軍の最高司令官についたことになる。

 2016年5月、第7回党大会で改正された朝鮮労働党規約では、朝鮮人民軍は「偉大な首領金日成同志が抗日革命闘争の炎のなかで自ら創建され、偉大な金日成同志と金正日同志が無敵必勝の強軍として強化発展させられ、敬愛する金正恩同志が導かれる革命的武装力である」とされた。「首領の軍隊、党の軍隊、人民の軍隊」と位置づけられ、「すべての政治活動を党の領導の下で進める」ことも明記された。すでに金日成政権期において人民軍内に政治将校制度が確立し、思想検閲を担う総政治局が重視されるなど、朝鮮人民軍は党中央委員会によって完全に掌握されていた。

 北朝鮮憲法第102条では、「国務委員会委員長は、朝鮮民主主義人民共和国武力総司令官になり、国家のいっさいの武力を指揮統率する」とされ、第59条では、「朝鮮民主主義人民共和国の武装力の使命は、偉大な金正恩同志を首班とする党中央委員会を決死擁護して、勤労人民の利益を保護し、外来侵略から社会主義制度と革命の獲得物、祖国の自由と独立、平和を守ることにある」とされる。「武装力」の核心である朝鮮人民軍が最高指導者を擁護する存在であることが法制化されたのである。

[礒﨑敦仁 2020年10月16日]

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