枕詞(読み)マクラコトバ

デジタル大辞泉 「枕詞」の意味・読み・例文・類語

まくら‐ことば【枕詞/枕言葉】

昔の歌文、特に和歌に用いられる修辞法の一。一定語句に冠してこれを修飾し、または語調を整える言葉。普通は5音、まれに3音・4音などのものもある。「あしひきの」「たらちねの」「ひさかたの」など。冠辞
前置きの言葉。
寝物語枕物語
二つならべて―ぢゃ」〈西鶴大矢数
[類語]掛け詞縁語序詞

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精選版 日本国語大辞典 「枕詞」の意味・読み・例文・類語

まくら‐ことば【枕詞・枕言葉】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 古代韻文、特に和歌の修辞法の一種。五音、またはこれに準ずる長さの語句で、一定の語句の上に固定的について、これを修飾するが、全体の主意に直接にはかかわらないもの。被修飾語へのかかり方は、音の類似によるもの、比喩・連想や、その転用によるが、伝承されて固定的になり、意味不明のまま受け継がれることも多い。この修辞を使用する目的については、調子を整えるためといわれるが、起源ともかかわって、問題は残る。起源については諸説があるが、発生期にあっては、実質的な修飾の語句や、呪術的な慣用句であったと思われる。古くは、冠辞、諷詞、発語、歌枕などとも称され、序詞(じょことば)などを含んでいうこともある。「山」にかかる「あしひきの」、「光」にかかる「ひさかたの」など。
    1. [初出の実例]「道といはんれうに、玉ぼこといふごとくなる詞を、枕ことばと可心得なり」(出典:落書露顕(1413頃))
  3. 転じて、前おきのことば。
    1. [初出の実例]「どうみても枕言葉(マクラコトハ)がおおくてせりふやつし実ともにながし」(出典:評判記・難波立聞昔語(1686)山下半左衛問)
  4. 寝物語。
    1. [初出の実例]「独寝の枕詞ぞ恨みなる」(出典:大観本謡曲・菊慈童(室町末))
  5. ( 「古今集仮名序に「それまくらことば、春の花匂ひ少くして」と意味不明のことばがあり、それが真名序に「臣等詞少春花之艷」とあるところから ) 臣下のことば。
    1. [初出の実例]「臣等言(マクラコトバ) 臣下言也」(出典:伊京集(室町))
  6. 語調を整えたり、あるものの性質や実態をよく表わしたりするために冠することば。
    1. [初出の実例]「こはとは、諸事の枕言葉(マクラコトバ)なり。たとへば、こは何をしなんすへ、こはあきれへすにへなどの類なり」(出典:洒落本・魂胆惣勘定(1754)上)

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改訂新版 世界大百科事典 「枕詞」の意味・わかりやすい解説

枕詞 (まくらことば)

おもに和歌に用いられる古代的な修辞の一つ。和歌においては5音1句に相当する句(4音や6音もある)をなし,独自の文脈によって一つの単語や熟語にかかり,その語を修飾しこれに生気を送り込む。一首全体に対しても,気分的・象徴的に,または声調上・構成上に,微妙な表現効果をもたらす。枕詞の起源は古代の口誦詞章のきまり文句で,そのうち最も重要なのは神名や地名にかぶせる呪術的なほめことばである。記紀歌謡において枕詞を受ける単語や熟語の半数以上が固有名詞であるのは,その辺の消息を示すものにほかならない。のちのちまで枕詞のかかり方が固定的,習慣的,伝承的でありつづけながらなお有機的に働くのも,そのためである。枕詞は平安朝に入ってからは使われることが少なくなっていく。

 枕詞のかかり方は,同音・類音のくり返しや懸詞(かけことば)によるものと,意味の上で説明したり形容したり比喩したり連想を働かせたりするものと,さまざまであるが,すでにかかり方の不明となった慣用句も多い。これらはすべて神託などの呪術的な古代的発想法から展開してきたものなのである。枕詞と似た和歌の修辞に序詞(じよし)があって,両者はその長さの違いや文脈の性格の違いによって区別されているが,個々の例では区別のつきにくいものもある。本質を異にする両者が混雑を生じたものか,本質を同じくする両者が別々に発達したものか,両説があるが,古代人が枕詞と序詞とを明確に区別した形跡はない。柿本人麻呂は,古い枕詞を新しく解釈し直して用いたり,新しい枕詞を作ったり,用言を修飾する枕詞を多用したりして,枕詞の発達に大きく貢献した万葉歌人であるが,その作品〈玉藻刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ〉(《万葉集》巻三)の〈玉藻刈る〉〈夏草の〉という枕詞は,実景を描いたかと思わせるほど一首全体に対して大きな表現効果をもっている。なお,老・病・死をうたった山上憶良は,枕詞をほとんど使っていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「枕詞」の意味・わかりやすい解説

枕詞
まくらことば

主として和歌に用いられる修飾句。通常は一句五音で、一首の主想表現と直接の意味的関連がなく、被修飾語(被枕詞)だけを修飾する。被修飾語へのかかり方は慣習的、固定的で、一定の枕詞が一定の語にかかるのを普通とするが、類似の語に拡大してかかる場合もある。古くは和歌に限らず、諺(ことわざ)や神託などにおいて、神名、人名、地名にかかる例があり、それがもっとも原初的なものと思われ、本来被枕詞を呪的(じゅてき)にほめたたえる詞であったらしい。それが徐々に呪性を失い、意味もわからなくなってゆくにつれて、二義的に解釈され単なる修飾句や声調を整えるための修辞となったのであろう。万葉時代はほぼ二義的段階のもので、平安時代以後はいちだんと形式化してゆき、種類も少なくなる。

 その分類は、(1)枕詞と被枕詞との接続関係によるもの、(2)被枕詞の性質によるもの、(3)枕詞の性質によるもの、とする3種が考えられているが、(1)が一般的である。(1)はさらに〔1〕形容、比喩(ひゆ)、説明など意義に関するもの―「葦(あし)が散る 難波(なにわ)」「沖つ鳥 鴨(かも)」など、〔2〕懸詞、同音反復など、音に関するもの―「玉櫛笥(たまくしげ) 二上山(ふたかみやま)」「ちちのみの 父」などに分ける。(2)は被枕詞を、〔1〕固有名詞―「そらみつ 大和(やまと)」、〔2〕普通名詞―「あしひきの 山」、〔3〕用言―「咲く花の うつろふ」、などに分けてみて、枕詞の修飾機能や時代を重視する分類である。(3)は枕詞の素材がいかなる性質のものかによる分類である。(1)~(3)を相互に関連させつつ、その起源、本質などが考えられている。

[橋本達雄]

『福井久蔵著『枕詞の研究と釈義』(1927・不二書房/再版1960・有精堂出版)』『土橋寛著『古代歌謡論』(1960・三一書房)』

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百科事典マイペディア 「枕詞」の意味・わかりやすい解説

枕詞【まくらことば】

主として古代の和歌に用いられた修辞法の一種で,独自の文脈によって習慣的・固定的に特定の語句にかかり,これを修飾し,句調を整える役割を果たす語。多く5音節からなる。〈ひさかたの〉(光),〈あしびきの〉(山),〈飛ぶ鳥の〉(飛鳥(あすか))など。
→関連項目歌枕序詞レトリック

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「枕詞」の意味・わかりやすい解説

枕詞
まくらことば

修辞法の一つ。文意全体とは直接には無関係に一語のみを一般的に修飾する用法をいう。この点は序詞と同じであるが,序詞がその場に応じて一回的に用いられるのに対して枕詞が固定性,社会性をもつ点,序詞の音数が不定であるのに対して枕詞は5音 (七五調の場合は7音,いずれも1音程度の出入りはある) 1句に限られる点は相違する。発生的にも,序詞が歌謡の発想様式からきているのに対して枕詞はほめ詞に起源をもつとみられている。枕詞から被枕詞へのかかり方には一般的形容,一般的比喩,懸詞,同音もしくは類音反復によるものなどがある。枕詞は韻文のみならず散文でも用いられ,またその語義やかかり方が不明になってもなお用いられ続ける例もある。

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世界大百科事典(旧版)内の枕詞の言及

【序詞】より

…主想部のある語句を導き出すために機能しつつ,一首中で主としてイメージ,音楽性の面を分担する。機能,役割は〈枕詞〉によく似ているが,〈枕詞〉が原則的に5拍であるのに対して,〈序詞〉は7拍以上または2句以上からなり,さらに,〈枕詞〉が慣用的,固定的であるのに対して,創造的,個別的である点で異なる。つまり〈序詞〉は,一首の勝負のしどころ,個性の発揮のしどころであって,その点で修辞法の一つとはいえ,歌人たちがその開発,発明に多大の努力を費やしてきた,和歌の本質にかかわる重要な部分なのである。…

※「枕詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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