梨地(読み)なしじ

改訂新版 世界大百科事典 「梨地」の意味・わかりやすい解説

梨地 (なしじ)

蒔絵まきえ)技法の一種。金粉を蒔いた地のことで,その名はナシの皮に似ているところからきており,中国では日本の梨地のことを灑金(さいきん)と呼んだ。梨地用の金粉は梨地粉といい,その製法は金の地金を鑢(やすり)ですりおろしたいわゆる鑢粉鋼板の上に散布し,その上に太い針を3~4本ならべ,こてで針を圧しながらころがすと,鑢粉は平らにのびて平目粉(ひらめふん)ができる。これをさらに圧して不整形にちぎれたものを篩(ふるい)にかけて大小数種に分けたものが梨地粉である。梨地の手法は漆塗の上に梨地粉を蒔き,漆を塗ってかわかしたのち,粉が露出しない程度に木炭でといで仕上げるのであるが,粉の蒔き方で淡蒔(うすまき),中蒔,濃蒔,斑(まだら)梨地,雲梨地,清梨地などができる。また,平目粉をまず蒔いたのち梨地粉を蒔いた鹿の子梨地,金箔を置いた上に刑部(ぎようぶ)梨地粉(不整形な大きめの梨地粉)を一粒ずつすきまなく置いた刑部梨地と呼ぶものもある。梨地はふつう地蒔(じまき)に用いるが,文様中に部分的に応用して装飾効果をあげることが安土桃山時代に流行した。これを絵梨地という。
蒔絵
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「梨地」の意味・わかりやすい解説

梨地
なしじ

蒔絵(まきえ)の地蒔(じまき)の一種。梨の肌に似ていることからの名称蒔絵粉(ふん)は製法によって精粗、形状の異なりが生じるが、これに使用する梨地粉は平目粉(ひらめふん)をさらに平らに圧延して薄く細かにしたもので、漆を薄く塗った上にこれを蒔き、乾燥後、透漆(すきうるし)を塗って十分に乾かし、粉の露出しない程度に朴炭(ほおずみ)で研ぎ出して滑らかにする。鎌倉時代に始まり、室町時代に発達して厚梨地という語も出現する。桃山時代には文様のなかに取り入れられた絵(え)梨地が流行し、金溜地(きんためじ)と対照的に使用されて色彩効果をあげ、とくに高台寺(こうだいじ)蒔絵によくみられる。江戸時代には手法も多様化し、すきまのないように蒔く詰(つめ)梨地、斑文(はんもん)状に表した村(むら)梨地、平目粉を混ぜる鹿(か)の子(こ)梨地、金箔(きんぱく)を置く刑部(ぎょうぶ)梨地などが現れた。ちなみに、中国の灑金(さいきん)は梨地のたぐいである。

[郷家忠臣]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「梨地」の意味・わかりやすい解説

梨地
なしじ

蒔絵技法の名称。梨子地とも書く。器物表面に漆を塗り,金,銀,錫などの梨地粉を蒔き,その上に透明漆を塗って粉の露出しない程度にとぐ技法。梨の肌に似ているところからこの名があり,鎌倉時代に始った。のちに各種の梨地が工夫され,粉の蒔き具合によって名称が異なる。すきまのないように蒔く詰梨地,金箔を置く刑部 (ぎょうぶ) 梨地,文様中に梨地を用いる絵梨地,雲形,霞形などを表わす叢 (むら) 梨地などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の梨地の言及

【蒔絵】より

…金銀の代用として錫,銅,真鍮,アルミニウムなども近代になって用いられた。粉の種類には丸粉,半丸粉,平目粉(刑部(ぎようぶ)平目),梨地(なしじ)粉,平粉,消粉などがある。おのおの粗細があり,丸粉でみると1号(細)から15号(粗)まであり,おもに3号以下は平蒔絵に,8号以上は研出(とぎだし)蒔絵に用いられる。…

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