医学的には頸部リンパ節結核tuberculouscervical lymphadenitisといい,結核性頸部リンパ節炎ともいう。表皮に近い頸部のリンパ節にみられる結核性炎症。肺に感染した結核菌が肺門リンパ節の病巣からリンパの流れによって直接頸部リンパ節に運ばれるか,あるいは肺結核の病巣から気管支を通って扁桃に運ばれた結核菌がリンパを介して頸部リンパ節に侵入して起こる。初期には1個または数個の頸部リンパ節がそれぞれに孤立してはれる(これを初期腫張型という)が,やがてリンパ節周囲炎が起こるとリンパ節は癒着して腺塊を形成し,自発痛・圧痛を伴うようになる(浸潤型)。腺塊は弾力性を失って硬くなる(硬化型)が,リンパ節の内部で壊死が起こり膿瘍化すると,ときに強い疼痛がみられ,局所は発赤する(膿瘍型)。さらに膿瘍が自壊したり,小切開の後に潰瘍をつくったり,瘻孔(ろうこう)を形成したりすると難治性となる(潰瘍瘻孔型)。非特異性リンパ節炎,悪性疾患との鑑別のためには,細菌検査,細胞診,組織診を行う必要がある。初期腫張型,浸潤型,硬化型では抗結核剤がよく効くが,膿瘍型,潰瘍瘻孔型では外科的な切除が必要となる。
→結核
執筆者:三上 理一郎
スクロフラscrofulaといわれた病気に与えられた病名。今日ではスクロフラといえば結核性頸部リンパ節炎をさし,頸部のリンパ腺が結核菌に侵され,はれて固まり,いわゆる腺塊をつくり,さらに皮膚が自壊して難治の潰瘍を残す疾病をいう。しかし,古くはその用例はまちまちで,結核性体質一般を意味することが多く,広く〈腺病〉といわれてきた。英語のscrofulaはラテン語のscrofa(〈牝豚〉の意)の縮小形scrofulaに由来し,頸の腺腫張と無力的な表情などの病態が豚を連想させるからという説などがある。この腺病が結核症であることがわかるのは19世紀になってからである。中世から近世にかけてのヨーロッパでは生活環境の理由もあって,これが流行し,当時のいわゆるローヤル・タッチ(王の触手療法)の対象となり,〈王の病king's evil〉といわれた。
日本では,瘰癧という言葉は,平安時代の《医心方》の巻十六にみられるが,古来日本でいわれた瘰癧がはたして結核性頸部リンパ節炎であったか,あるいは別のリンパ腺によるいわゆる〈ぐりぐり〉であったかは判然としない。来日宣教師のフロイスなども述べているように,ヨーロッパで多発していた瘰癧は,日本ではあまりみられなかったと思われる。
執筆者:立川 昭二
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…また胸膜炎,腹膜炎,心囊炎の一部も血行性転移によって起こる。(3)リンパ行性転移 リンパの流れにのって結核菌が運ばれてできる病変として,胸膜炎や結核性頸部リンパ節炎(瘰癧(るいれき))がある。 血行性転移で腎結核が起これば,ここから尿管を通って管内性に広がって膀胱結核が起こることがある。…
…王の呪術的機能を示すものとして知られる。対象となった病気は瘰癧(るいれき)とそれに類似した病気で,〈王の病いking’s evil〉といわれた。イギリスでは17世紀のスチュアート朝,フランスでは18世紀のルイ王朝の時代にもっとも盛んに行われ,いずれも儀式化し,チャールズ2世は毎年4000人に,ルイ15世は戴冠式で2000人に触れたといわれる。…
※「瘰癧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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