(読み)しゃく

精選版 日本国語大辞典 「癪」の意味・読み・例文・類語

しゃく【癪】

〘名〙
胸部または腹部におこる一種のけいれん痛で、多く女性にみられる。医学的には胃けいれん、子宮けいれん、腸神経痛などが考えられる。仙気。仙痛。さし込み。しゃくつかえ。
※言経卿記‐文祿二年(1593)五月一二日「くりへ風藤之粉五服遣了。積之薬也」
滑稽本浮世床(1813‐23)二「あげ句の果は発(おこ)りもしねへ癪(シャク)と号して、三日ばかりふて寝をする」
② (形動) 気に入らなくて、腹が立つこと。また、そのさま。かんしゃく。いかり。→癪を言う
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「どくどくしく云なさるけれど癪(シャク)な事はいはねへはな」
[語誌](1)「癪」は国字。「しゃく」は「積」の呉音から。女性特有(まれに美男子や女形にも)の病で辛苦の積もりによって起こるものと解されていた。その心因性の要素が拡大して「癪が上る」「癪にさわる」「癪を言う」などの言い方が生まれた。
(2)類似の病に「癇(かん)」があるが、こちらは子供におこるものをいう。ともに、体内にいる虫がおこすと信じられていた。二つをあわせた「癇癪」は、もっぱら気に障って腹をたてることをいう。

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デジタル大辞泉 「癪」の意味・読み・例文・類語

しゃく【×癪】

[名]胸や腹が急に痙攣けいれんを起こして痛むこと。さしこみ。
[名・形動]腹が立つこと。不愉快で、腹立たしいこと。また、そのさま。「いちいちなことを言う」
[補説]「癪」は国字。
[類語]痙攣けいれん引き付けかんの虫悔しい口惜くちおしいうらめしい腹立たしい残念無念心外しんがい喧嘩早い喧嘩っぱや癇癪かんしゃく癇癖癇性ヒステリック虫気怒り腹立ち憤り怒気瞋恚しんい憤怒ふんど・ふんぬ憤懣ふんまん鬱憤うっぷん義憤痛憤悲憤憤激憤慨ふんがい立腹激怒逆鱗げきりん憤ろしい腹立たしい業腹ちゅうっ腹やけっ腹悲憤慷慨短気気短短慮せっかち性急気早気が短い気忙しい直情径行逆上高ぶるのぼせる激するかっとなるいきり立つはやり立つのぼせ上がる血迷う血走る怒りっぽい切れる瞬間湯沸かし器むかむかむくれるおこいか憤る八つ当たりいじけるひねくれるすねるひがむねじけるねじくれるふくれる気色けしきばむむかつくむかっとむっとむしゃくしゃむらむらくしゃくしゃ不快不愉快不機嫌不興憮然仏頂面虫の居所が悪い風向きが悪い胸糞が悪い気を悪くするつむじを曲げるはらわたが煮え返るへそを曲げる怒り狂う腹立つ腹が立つ小腹が立つ腹を立てる怒り心頭に発する小癪こしゃくしゃくに障る冠を曲げる堪忍袋の緒が切れる向かっぱら業を煮やす青筋を立てるわなわな虫唾むしずが走る反吐へどが出る

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改訂新版 世界大百科事典 「癪」の意味・わかりやすい解説

癪 (しゃく)

近代以前の日本の病名で,当時の医学水準でははっきり診別できないまま,疼痛のともなう内科疾患が,一つの症候群のように一括されて呼ばれていた俗称の一つ。単に〈積(せき)〉とも,〈積聚(しやくじゆ)〉ともいわれ,また疝気と結んで〈疝癪〉ともいわれた。平安時代の《医心方》では,陰陽の気が内臓の一部に集積して腫塊をなし,種々の症状を発すると説かれ,内臓に気が積んで腫瘤のようなものができて発症すると考えられ,癪には日本人に多い胃癌(がん)などもあったと思われる。徳川家康死因となった〈腹中の塊あるいは積〉というのは,この胃癌にあたると推定される。いっぽう,江戸時代の《譚海》などに〈胸へさし込みて〉という表現があるように,疝気がおもに腹部,下腹部の疼痛を主症とするのに対し,癪はおもに胸部の疼痛を暗示するものが多く,たとえば心筋梗塞や滲出性肋膜炎などが考えられ,また発作的な痙攣をともなう女性のヒステリーなどの精神性疾患も含まれていたと考えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「癪」の意味・わかりやすい解説


しゃく

女性にみられる胸や腹のさし込むような激痛をいい、医学用語の仙痛に相当する俗称。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「癪」の意味・わかりやすい解説

癪【しゃく】

腹部,ときに胸部に起こる発作性の激痛の古い呼称。疝痛とほぼ同義。原因としては胆石症,胆嚢炎,尿路結石症,胃腸管のけいれん等の疾患が考えられる。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【胃痙攣】より

…胃痙攣は,このような症状に対する呼名であって,疾患名ではない。古くいわれた〈癪(しやく)〉もこれに当たる。原因として,急性胃炎,消化性潰瘍,胆石症,膵炎等々多くの疾患が挙げられる。…

【癌】より

…しかし今日環境癌あるいは職業癌と呼んでいる癌について,その発癌の経緯を正確につきとめたのは,ロンドンのセント・バーソロミュー病院の外科医P.ポットであった。 日本では,江戸時代に癪(しやく)・積聚と呼ばれた内科疾患に,胃癌のような悪性腫瘍が含まれていたと思われる。膈噎(かくいつ)といわれた食道狭窄症には食道癌もあったし,舌疽(ぜつそ)といわれたものはほとんどが舌癌であったと思われるが,江戸時代にもはっきり認識されていたのは,華岡青洲の麻酔手術で名高い乳癌であった。…

【心臓】より

…その後の医書にも心臓病にふれている個所があるが,正確な診断はできなかった。江戸時代には胸部の疼痛を伴う病気を(しやく)と総称していたが,この中には心筋梗塞や狭心症も含まれていたと思われる。 ヨーロッパの近代医学で心臓と大動脈の病気についての知識が進歩したのは18世紀以後のことで,フランスのビユサンスRaymond Vieussens(1641‐1716)は大動脈弁閉鎖不全症,僧帽弁狭窄症,心囊水腫などについて,イタリアのランチシGiovanni Maria Lancisi(1654‐1720)は動脈瘤について,イギリスのヘバーデンWilliam Heberden(1710‐1801)は狭心症について病理解剖および臨床医学的に記述した。…

【胆石】より

…胆道系(胆囊,肝内および肝外胆管)において,胆汁成分から生じた固形物質を胆石という。ただし,微小で無構造の砂状物質は胆砂と称し区別している。胆石の存在する部位により,胆囊胆石,胆管(肝外胆管)胆石,肝内(肝内胆管)胆石に分類される。そのうち,胆囊胆石が最も頻度が高く,胆石症cholelithiasisという名称は,一般に胆囊胆石症のことを指す。
[胆石の頻度]
 胆囊胆石の保有率は年齢とともに高くなり,女性に多い。…

※「癪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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