自然界に存在するさまざまな形のエネルギーを電気エネルギーに変換することをいう。現在、発電に利用されているエネルギーからみて各種の発電を大別すれば、水の位置エネルギーによる重力エネルギー、燃焼や太陽による熱エネルギー、化学反応を使って取り出す酸化還元エネルギー、原子核の核分裂あるいは核融合反応に伴う原子力エネルギー、太陽の光や風力、海流、潮汐(ちょうせき)力などの自然エネルギーである。以下項目を分けて説明する。
(1)水の位置エネルギー 河川あるいは湖沼など水の位置エネルギーは、太陽のエネルギーで雨、雪、風が発生し、雨、雪となって運ばれることによってできる、河川、瀑布(ばくふ)あるいは湖沼などの大量の水が保有している重力エネルギーである。位置エネルギーの差を水流に変えて水車を回して水力発電に利用している。揚水発電は、逆に軽負荷時の電気エネルギーで水を高いところにくみ上げて水の位置エネルギーとして貯蔵し、ピーク負荷時に電気エネルギーに変換する方法で、水の位置エネルギーの変化を利用している。
(2)熱エネルギー 石炭、石油、天然ガスなどの地下に埋蔵された燃料の燃焼による熱エネルギーは、太古の魚類や植物の不完全酸化によってできた化石燃料を燃焼することによって発生する熱のエネルギーである。火力発電に利用されている。
(3)原子力エネルギー ウラン、プルトニウムなどの核分裂しやすい原子燃料が核分裂に際して発生する熱を利用するエネルギー。水素などの軽い元素が高温・高圧下で核融合してヘリウムに変わる際に発生する核融合エネルギーは太陽のエネルギー源である。すでに核分裂原子力は発電に利用されており、核融合は無限のエネルギー源であることから期待されているが、1997年にヨーロッパで1万6000キロワットの核融合出力を発生させることに成功しているものの、持続時間はわずか1秒程度であった。
(4)自然エネルギー 風、太陽、潮汐力などの自然現象から得られるエネルギー。主として太陽からのエネルギーである太陽光、太陽熱、風力、海流、潮汐力などを利用して発電する。これらは自然界のエネルギーで総量は十分あるが密度が低く、偏在しており、経済的にエネルギー源になるかどうかが問題である。天候によっても影響を受け不安定である。
(5)地熱エネルギー 火山、温泉など、地球内部のマグマのもつ熱エネルギーである。この熱を利用する地熱発電は比較的安定な電力を生み出す自然エネルギーである。高温岩盤から熱を取り出す技術の進歩によりコストが下がり経済的にも有力なエネルギー源として注目されている。火山の多い中央アメリカのコスタリカでは総電力の大きな部分が地熱発電によってまかなわれている。
(6)化学エネルギー 電池は、物質のもつ化学エネルギーを利用する。物質の電解液中での酸化反応を使って電気を取り出す一次電池と、その逆反応を使って電気エネルギーを化学エネルギーで貯蔵する二次電池がある。燃料電池は水素ガスを直接燃焼させないで触媒によって酸化させて化学反応によって電気エネルギーに変換する。
[嶋田隆一]
水力発電所の発電方式は、落差を得る構造、機能、建物形状などによって分類できる。構造上では水路式、ダム式およびダム水路式に分けられ、機能上では流れ込み式(自流式)、調整池式、貯水池式および揚水式に分けられる。水力発電の代表的な方式である水路式は河川の流水を取り入れるため、河川の流れにほぼ直角方向に水をせき止める取水ダムがあり、そのすぐ上流の河岸に水を取り入れる取水口を築造してある。取水口から取り入れた水を水路によって発電所真上のヘッドタンクまで導いて落差をつくり、これを水圧管を経て水車に送り、水のもつ位置エネルギーを機械エネルギーに変えて発電機を回転させ、電気を発生する。使用後の水は放水路によってふたたび河川に放流される。ヘッドタンクには余水吐きを設け、異常な洪水などで流水が規定の水位を越えたとき、水を河川に放流するようにしている。これらの設備のうち、取水口の直後からヘッドタンクの入口までを導水路と称し、トンネル、暗渠(あんきょ)などが用いられる。
[道上 勉・嶋田隆一]
火力発電所(汽力発電所)は、搬入された液化天然ガス(LNG)や重油を受け入れ貯蔵するための貯蔵タンク、燃料を燃焼させて蒸気を発生させるボイラー、蒸気によって回転エネルギーを得る蒸気タービンおよび電気を発生する発電機、変圧器などの電気設備がある。これらの設備のうち、貯蔵タンクとボイラーは通常屋外に設置され、蒸気タービンと発電機は屋内に収容されている。火力発電所の種類は、使用する燃料、原動機、および電力系統の運用上の役割によって分類することができる。
使用する燃料で分けると次のようになる。
(1)石炭専焼火力発電所 ボイラーで石炭を燃焼し蒸気を発生させて、タービンと発電機の回転により電気を発生させる。この発電所は広い貯炭場や石炭粉砕機、集粉器などの燃料設備が多く、灰処理設備、灰捨て場所、機械式・電気式集塵(しゅうじん)器を必要とする。このため発電所用地が広くなり、所内動力も大きい。1985年(昭和60)ごろから、石炭の資源量が注目されて、石油にかわって海外炭を利用した発電所が多くなってきた。
(2)重油・原油専焼火力発電所 石炭のかわりにボイラーで重油・原油を燃焼させる。重油タンク、重油ヒーター、高低圧重油ポンプなどの燃焼設備を必要とするが、貯炭場や石炭粉砕機などの燃料設備、機械式集塵器および灰捨て場所などは不用となる。このため発電所用地が狭くてよく、所内動力も少なく、一般に、発電所熱効率が石炭専焼火力よりも高くなる。
(3)ガス専焼火力発電所 ボイラーで天然ガスを燃焼させる発電所で、LNGを貯蔵するタンクやLNGポンプ、および気化器などの特別の設備が必要である。燃料のLNGは95%以上がメタン成分で、硫黄(いおう)分をまったく含まず、硫黄酸化物による大気汚染もないので発電用燃料として最適である。ただし燃焼ガス中に含まれる多量の水蒸気によってボイラー効率が若干(1~2%)低くなる。
(4)混焼火力発電所 石炭と重油・原油、重油・原油とガスなどを混合してボイラーで燃焼させる発電所である。燃料設備が二重になるので設備費が高くなるが、使用燃料の選択幅が広くなり、大容量のボイラーに多く採用されている。
使用する原動機で分類すると、蒸気タービンを使用する汽力発電所、およびガスタービンを利用するガスタービン発電所に分けられる。また、熱効率が高いことから、ガスタービンと汽力発電を組み合わせたコンバインドサイクル発電所が、多く建設されている。
一方、電力系統の運用上の役割からは、負荷曲線のベース負荷を供給する発電所をベース負荷火力発電所、中間負荷を供給する発電所を中間負荷火力発電所またはミドル負荷火力発電所、ピーク負荷を供給する発電所をピーク負荷火力発電所とよんでいる。一般に、ベース負荷には高効率大容量の火力発電所が、中間負荷火力またはミドル負荷火力には中容量の火力発電所が採用され、ピーク負荷火力には低効率小容量の火力、負荷追従性のよいガスタービン発電所が用いられる。また、非常用予備発電として内燃力発電、ガスタービン発電が用いられる。
[道上 勉・嶋田隆一]
原子力発電所の構成は、汽力発電所とほぼ同じとなっている。つまり、汽力発電所のボイラーに相当する部分が原子炉に入れ替わっただけで、残りの部分は汽力発電所とほぼ同じ構成である。ただ、原子炉の安全性と放射性物質の取扱いを考慮して広い敷地の中に発電所が位置しているのが通常である。原子力発電所に実際に用いられている原子炉には、冷却材に気体を用いるガス冷却型(代表的な原子炉として黒鉛減速炭酸ガス冷却型)、減速材および冷却材として軽水を用いる軽水型(代表的な原子炉として加圧水型と沸騰水型)などがある。
(1)ガス冷却型原子炉(GCR:Gas Cooled Reactor) 原子炉の冷却材として高圧ガスを用い、熱交換器を介して蒸気を発生させてタービンを駆動する発電方式である。コールダーホール改良型、改良型ガス冷却炉などがある。コールダーホール改良型は黒鉛減速炭酸ガス冷却型ともよばれ、天然ウランを原子燃料とし、マグネシウム合金を燃料被覆材に用い、減速材と反射材に黒鉛を使用し、原子炉の熱を取り出す冷却材に炭酸ガスを使用している。日本初の商用原子力発電炉として1966年(昭和41)に営業運転を開始した東海発電所の原子炉がこの型であった(1998年運転終了)。改良型ガス冷却炉はコールダーホール改良型をさらに改良したもので、酸化ウランのペレットをステンレス鋼の細い管に入れ、これを集合させたものを燃料要素とし用いている。これにより冷却ガスの温度を上昇させることができるので、熱交換器として貫流ボイラーの蒸気サイクルを採用でき、汽力発電なみの蒸気条件となる。
(2)加圧水型軽水炉(PWR:Pressurized Water Reactor) 燃料として数%の低濃縮ウランを、減速材と冷却材に水(軽水)を使い、冷却材の水が沸騰しないように原子炉全体を圧力容器の中に入れ、炉内を160キログラム/平方センチメートル(約16メガパスカル)程度に加圧している。また、発電用の蒸気を発生する蒸気発生器(熱交換器)が設置され、原子炉側を一次系、蒸気サイクル側を二次系と称している。
(3)沸騰水型軽水炉(BWR:Boiling Water Reactor) 原子燃料、減速材および冷却材は加圧水型と同じであるが、原子炉の内部で水を沸騰させてそれを直接蒸気タービンに送り出す構造になっている。つまり、原子燃料から受けた熱によって冷却材の水を沸騰させ、炉心上部に設置されている気水分離器で蒸気と水に分離したのち、蒸気を直接蒸気タービンに送る。蒸気タービンで仕事をした蒸気は復水器によって復水となり、その水は給水ポンプによって原子炉に戻され、気水分離器で分離した水と混合して、炉心周辺部を下降し、再循環ポンプおよび原子炉に内蔵されているジェットポンプで駆動され炉心に戻る。この形の蒸気サイクルは、汽力発電所のボイラーが原子炉にかわったのと同じサイクルとなっており、高圧タービンからの排気が再熱されないこと、タービンに湿分分離器があること、給水系に脱気器を設けずに復水器の脱気能力をあげていることなどが異なっている。
日本では東海発電所の廃止以降、すべての原子力発電は軽水炉である。加圧水型と沸騰水型の出力量はほぼ半々となっている。
[道上 勉・嶋田隆一]
その他の発電としては、燃料電池発電(水素の酸化を電池として利用する)、太陽発電(太陽熱発電と太陽光発電がある)、MHD発電(高温燃焼ガスを強力な磁界の中を通過させ、磁束を切ることにより発電させる)、海洋発電(波力発電、潮汐発電、温度差発電がある)、風力発電、地熱発電、熱電発電、振動発電(容量は小さいが振動エネルギーを圧電素子で発電する)などもある。
[道上 勉・嶋田隆一]
需要(負荷)曲線のどの部分を水力、火力および原子力発電に分担させるかは安価な電気を発電させるうえできわめて重要なことである。需要は時々刻々と変化しているため、各種発電所はこれに即応できるとともに、運転する発電所全体でみて発電原価がもっとも安くなければならない。水力発電は負荷の追従性が優れ、始動・停止が容易であるが、1985年ごろから多く使用されている揚水発電は、よりコストの安い原子力などの夜間の余剰電力を貯蔵して昼に集中して使う、いわゆるピークシフト用に使われる。効率は送電損失を考慮すると約70%程度である。水力発電は負荷曲線のうち負荷変動するピーク負荷部分を分担することが最適となる。次に、原子力発電は燃料費が安価なため発電原価は安いので、負荷曲線のフラットな部分、つまりベース負荷部分を分担することに適している。また、石油火力発電所は原油の値上がりによってオイル・ショック以降建設されず、石炭火力発電、さらに炭酸ガス排出が少ない天然ガス火力発電に重点が移っている。これら大容量の火力発電所は都市近郊に立地でき、設備面からは原子力発電と同様ベース負荷運転を行うことが望ましいが、化石燃料を使用しているため発電原価が高いこともあり、原子力発電で分担した残りの部分、つまり負荷曲線の中間負荷部分を分担している。なお、火力発電のなかでガスタービン発電は、始動・停止に優れており、ピーク負荷を分担するのに用いられる。
[嶋田隆一]
力学的エネルギー,熱エネルギー,核エネルギー,その他のエネルギーを電気エネルギーに変換すること。大規模な発電は現在のところ水車や蒸気タービンなどの原動機を利用して発電機を回転して行うものが主体であって,水力発電,火力発電,原子力発電などと呼ばれる。水力発電は水の高低差を利用して水車によって発電機を回転させるもの,火力発電は石炭,石油,天然ガス(LNG)などの化石燃料をボイラーで燃やして得られる高温・高圧の蒸気でタービン発電機を回転させるもの(厳密にはこれは汽力発電といい内燃機関などを利用する他の火力発電と区別している),原子力発電は火力発電の化石燃料の代りに核燃料を使用し核分裂反応の熱エネルギーで蒸気を発生してタービン発電機を回転させるものである。
日本において電気が全エネルギー消費量の中に占める割合はおおよそ40%で今後もそのシェアは増す傾向にある。1995年度における発電電力量は全国で約8700億kWhであって,内訳は原子力33%,LNG火力22%,石油火力18%,石炭火力13%,水力10%,その他となっている。歴史的にみると,明治,大正からつねに水力発電が主体で火力発電は少なく,いわゆる水主火従であったが,昭和30年代に入って安価な石油を燃料とした大容量,高効率の石油火力発電所が盛んに建設されて高度経済成長期の電力供給を担うようになり,1963年になって火力発電が水力発電を上回り火主水従時代に入った。しかし,これもあまり長く続かず73年の石油危機以降は状況が一変した。電気は国の基礎エネルギーであり低廉で安定した供給を確保しなければならない。石油危機以降は,安定供給の確保,経済性の観点から,既設石油火力のLNG火力,石炭火力への転換,大容量LNG,石炭専焼火力の建設が積極的に行われ,エネルギー源の多様化が図られている。LNG火力は硫黄分を含まないクリーンなエネルギー源として,都市周辺に有利である特徴を持つ。また,最近では,ガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせることにより,より高い熱効率が得られるコンバインドサイクル発電の建設が積極的に行われている。コンバインドサイクル発電は,比較的小型のガスタービンと蒸気タービンの複数構成となるため,起動停止に要する時間が短く,出力調整能力に優れているという特徴を併せ持つ。石炭火力は,石炭が石油に比べて偏在していないこと,資源量も豊富なことから,今後とも開発が続けられるであろうが,石炭のもつ環境問題や輸送面での欠点を克服すべく石炭ガス化等の技術開発も重要である。原子力発電は昭和40年代に入って出現したが,少量で莫大なエネルギー源となる核燃料の特性から準国産エネルギーとみなされ,CO2の発生もなく,また発電コストも安いこともあり,その後急速に拡大し,今後とも発電の中核的役割を担うこととなろう。水力発電は開発地点が中小規模化してきているが,国産エネルギーとして今後も着実に開発されよう。揚水式発電はピーク供給力として必要な適当量の開発が行われよう。このようにして将来の発電は原子力が主体となり,これにLNG,石炭,水力が加わり,石油は減少するものと思われる。
ガスタービン発電は火力発電の一種で数万kWまでのものがピーク負荷用や非常用として使われる。内燃機関発電はディーゼル発電の例のように非常用予備,離島,移動用などの分野で気軽に使用され,数千kW以下のものである。
風力発電は,風車によって発電機を回転させるもので,ほぼ実用化の域にあり,風状のよい場所から導入が進められている。
地熱発電は地下の高温蒸気を取り出し蒸気タービンを動かすもので,地熱の賦存地域に限られるが,火山国である日本では石油に代わるエネルギーとして開発が進められている。波力発電は小規模であるが,一部で実施されている。潮力発電はフランスで実用されているが日本にはない。太陽熱発電は技術開発されたものの日本では商業化にはいたらなかった。MHD発電,熱電子発電,熱電気発電,温度差発電などいずれも研究開発中か小規模特殊用途である。
電池は,ナトリウム-硫黄電池のように新型の電池の研究が行われている。小容量であるが,需要地近傍に分散配置できる利点があるので,電力貯蔵機能に期待している。燃料電池は燃料と酸化剤を連続的に供給することによって発電を継続できる直接発電装置であり,リン酸型燃料電池はビル等への分散配置用として,また,溶融炭酸塩型や固体電解質型はガスタービンと組み合わせた大規模電源用として研究が行われている。また太陽電池は半導体素子に太陽光をあてて直接電気をとりだす装置であり,電力用としては小規模のものが使われている。その他,小型なものでは電灯光でも作動する電卓等に用いられている。
→火力発電 →原子力発電 →水力発電 →電力
執筆者:竹之内 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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