厚生労働大臣の免許を受けて傷病者や褥婦(じょくふ)に対する療養上の世話、または診療の補助を業とする者をいう(保健師助産師看護師法における定義)。
2001年(平成13)「保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律」(平成13年法律第153号)により、それまでの「看護婦」「看護士」は「性別による相違をなくする名称の統一」として「看護師」と改められ、2002年3月より施行となった。
看護を職業として確立させたのは、イギリスのフローレンス・ナイチンゲールである。それ以前の看護活動は宗教色が強く、尼僧や僧侶(そうりょ)が教義の実践として行ったものであったが、ナイチンゲールは1854年のクリミア戦争での活躍を契機に、看護を宗教から分離させ、教育制度を整えて職業として確立させた。日本でこの教育制度を導入して看護婦教育所を発足させたのは1886年(明治19)で、2年後の88年に教育を受けた看護婦が誕生した。第二次世界大戦後、社会の諸科学の進歩、医学の急速な進歩発展のなかで、看護教育の水準向上が必要となり、1948年(昭和23)に「保健婦助産婦看護婦法」が公布された。また、この法は1968年の改正(昭和43年法律第84号)をもって男性看護士を誕生させた。従来男性は「看護人」とよばれていたが、これによって教育、免許、資格など看護婦と同様になった。職域も、中心であった精神科病院から1968年以降は一般病院に拡大され、小児病棟、高齢者病棟、救急部門、手術室などではその特性を十分に発揮し、社会から期待されている。また男女共学校の増加とともに教員として活躍する者も増加してきている。
看護師になるためには、高等学校卒業後、文部科学大臣の指定した学校または厚生労働大臣の指定した看護師養成所で、看護師になるために必要な学科を3年以上修めたのち、看護師国家試験に合格しなければならない。すでに准看護師の免許をもっている者の場合は、免許取得後3年以上の業務経験を経たのち(高等学校卒業者は経験年数不要)、前述の学校または養成所で2年以上修学すれば前者と同様に看護師国家試験受験資格が得られる。外国の看護学校を卒業した者、あるいは外国で看護師免許を得た者は、厚生労働大臣が国家試験に合格した者と同等以上の資格があるとみなした場合、日本においても看護師として認められる。また看護師は高い倫理性が要求される職業であるから、罰金以上の刑に処せられた者、業務上の犯罪または不正行為のあった者、心身の障害により業務を適正に行うことができない者、麻薬、大麻(たいま)またはアヘンの中毒者は、不適当とされて免許が与えられない。また免許が与えられた者でも、これらの条件に抵触する場合は免許取消しや業務停止などの処分を受ける。
日本で4年制の看護大学が誕生したのは、1952年(昭和27)であったが、その後大学開学は遅々として進まなかった。しかし、保健医療の概念の変化、少子高齢化に伴う福祉政策の進展、社会の高学歴化などによって看護はその独自の機能を認められつつあり、活動の場も病院にとどまらず、地域、家庭、学校、産業、福祉施設などへと拡大されてきている。そのような時代の要請のなかで1992年(平成4)以降、教育形態が、養成所から大学、大学院へと急速に設置変更、増設されてきている。2008年3月末に大学は158校となり、大学院も比例して開設が進められ、今後も増設が見込まれている。
大学院開設によって1996年に専門看護師が誕生した。これは、日本国の保健師、助産師、看護師のいずれかの免許をもち、看護系の大学院修士課程(専門看護師教育課程設置院)で、看護分野を履修して卒業し、看護経験5年以上のうち専門分野看護3年以上の経験者が、認定試験を受けて認定される。特定の看護領域において高度な専門知識と技術をもち、実践能力、指導能力の高い看護師である。専門性により臨床家、教育者、管理者、コンサルタント、研究者として、癌(がん)看護、精神看護などの10分野にわたって活躍している。
また、より実務的な専門家として、認定看護師も1997年に誕生した。こちらは学歴を問わず、実務経験5年以上でそのうち3年以上の特定分野経験をもつ者が、6か月の専門教育を受け認定試験を受ける。救急看護、皮膚・排泄ケア等、19分野にわたっているが、拡大が予定されており、癌放射線治療看護分野が2010年に誕生する。認定看護師はチーム医療のなかで、より患者サイドに立つ重要な役割を果たしている。1999年には認定看護管理者も誕生した。
なお、日本看護協会は国際看護師協会(ICN)に加入しており、1977年(昭和52)に東京で国際看護師協会第16回大会を開催した。
[山根信子]
『厚生省医務局看護課編『教育と実務のための看護関係法規集』(1972・厚生問題研究会)』▽『土曜会歴史部会著『日本近代看護の夜明け』(1973・医学書院)』▽『小林富美栄・久保庭和子編『ICNと日本看護協会』(1977・日本看護協会出版会)』▽『J・A・ドラン著、小野泰博・内尾貞子訳『看護・医療の歴史』(1978・誠信書房)』▽『金子光著『保健婦助産婦看護婦法の解説』第47版(1992・日本医事新報社)』▽『看護行政研究会監修『看護六法』各年版(新日本法規出版)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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