雄の動物が産生し体外に放出する,精子を含んだ液体を一般に精液というが,ヒトでは性交,手淫,夢精などの性的興奮のもとに男性尿道口から射出される液体で,射精液ともいわれる。ただし,死体にみられる精液の漏出は生前の性的興奮を意味するものではない。以下ヒトの精液について述べる。1回の射精量は年齢,射精頻度などにより異なるが,2~3日の禁欲で2~3mlである。精液は弱アルカリ性で,成分としては果糖が多く(200~500mg/dl),その他クエン酸,亜鉛などが含まれている。射精直後の精液はクリの花のような特有のにおいがあり,乳白色で不均一な液である。しかし,20分くらいで前立腺分泌液中のタンパク質分解酵素により均一な液となる。精液はその90%内外を占める精漿と細胞成分としての精子とから成る。精子は男性の生殖細胞で,正常精子数は1億/ml前後であり,4000万/ml以下は乏精子症,ほとんど精子のないものは無精子症といわれる。精子はオタマジャクシ状で,頭部,頸部,中片,尾部の4部分に区分され,全長50~70μmである。精子は睾丸中の精細胞が増殖発育したものであるが,睾丸内ではまったく運動性はなく,副睾丸(精巣上体)管をとりまく筋肉の収縮と弛緩によって生じる管内陰圧により副睾丸へ吸引輸送される。ここでは精子は糊状であるが特有のにおいはない。精漿は精囊,前立腺,尿道球腺(カウパー腺)などの副生殖腺からの分泌液で,精子の栄養源である。精囊の分泌液はゼリー状であり,前立腺分泌液は乳白色で精液特有のにおいをもち,精子の運動を活発にする。また,尿道球腺分泌液は粘稠性に富む。
精液の検査は男子不妊症の診断に不可欠で,精液量,精子数,運動率,奇形率,精子活性率などが問題となる。その他,精液の存在検査が法医学の分野で行われている。
法医学の領域では強姦事件などの性的犯罪事件において,腟内ならびにその他の身体各部,着衣その他の物件に精液が認められるか否かの検査が必要である。最も確実な検査法は顕微鏡によって腟内容物や物件の滲出液から精子を検出することである。精液には前立腺由来の酸性ホスファターゼがきわめて多量に含まれているので,この酵素の証明も精液の可能性を示唆する。無精子症者の精液でもこの酵素は検出される。その他,特殊な試薬による結晶析出の有無,蛍光の有無で精液である可能性があるか否かを判定する方法がある。
執筆者:小磯 謙吉+若杉 長英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
性交、手淫(しゅいん)、夢精などによって男子尿道から射出される液で、精巣(睾丸(こうがん))、精巣上体(副睾丸)、精管、精嚢(せいのう)、前立腺(せん)および球尿道腺などの分泌物が混合したものである。大きく分けて二つの要素よりなる。その一つは精液の大部分を占める液体成分(精漿(せいしょう))であり、他の一つはごく一部を占める細胞成分(精子)である。精巣の精細管でつくられた精子は精巣網に集まり、精巣上体の中を通過する間に成熟して精巣上体尾部に蓄えられ、性交その他によって性感が高まると精管の蠕動(ぜんどう)運動により速やかに精管膨大部へと送られ、性的興奮が最高に達すると精嚢分泌液や前立腺分泌液とともに尿道外に射出される(射精)。精子は射出されるまで運動していない。精子は妊娠成立にもっとも重要な因子であるが、精漿もまた精子への栄養を与えたり妊孕(にんよう)能力を与えたりする重要な生理作用を有する。精液はクリの花を思わせる一種独特の臭気を有する乳白色の分泌液で、射出直後は漿液性の前立腺分泌液とゲル状の精嚢分泌液が混在しその間に精子がみられるが、常温に30~40分くらい放置しておくと液化して均一になる。1回の射精液量は普通2~6ミリリットルであり、WHOでは2ミリリットル以下を精液過少症または精液減少症、精液がまったく出ないのを無精液症といい、不妊の原因となる。また6ミリリットル以上を精液過多症という。一方精子数は精液1ミリリットル中に2000万以上あるのが正常(WHOの基準)で、これ以下を乏精子症、まったく精子の認められないものを無精子症といい、これらも不妊の原因となる。このほか妊娠に関与する因子として精子の運動率(50%以上が正常、WHO基準)や精子の形態(50%以上が正常形態、WHO基準)などがある。
[白井將文]
雄性生殖器において生成された精子とこれを浮遊させる精漿とよばれる体液をあわせていう。精子と精漿の割合、精漿の成分は動物の種類や個体によって異なる。生殖時には交尾によって雌性生殖器の分泌物と混合し希釈される。ただし体外受精の水生動物(魚、ウニ、ホヤなど)では、陸水、海水などの環境水に放精され希釈される。精子はこれによって初めて受精能や運動能を獲得する場合が多い。未希釈のまま体外に取り出したものをドライ・スパームdry spermという。精漿は、無機イオンのほかに、前立腺や貯精嚢などに由来するタンパク質、プロスタグランジンなどの生理活性物質、果糖などのエネルギー源物質を含む。ただし、エネルギー源をグリコーゲン(頭足類など)やクレアチンリン酸(ウニなど)の形で精子中に蓄えているものもみられる。
[馬場昭次]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…複合管状腺で,20~30本の導管が尿道に向かって出ている。腺の上皮細胞は単層ないし2列の円柱上皮で,タンパク質に富む乳白色で特有のにおいのある分泌物を多量に出す(精液の色やにおいは主として前立腺の分泌物による)。上皮の外側の結合組織内に大量の平滑筋を有するのが特色で,その収縮により前立腺の分泌物が尿道に放出されるだけでなく,この平滑筋の収縮によって射精管からの精液の放出や前立腺内の尿道からの精液の放出が行われる。…
※「精液」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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