理知的な反省が加えられる以前の直接的な経験、すなわち、あとからつけ加えられた概念、解釈、連想、構成などの不純な要因をあたう限り排除することによって得られた原初的な意識状態をさす。おそらくは幼児がもつと思われる、自と他、物と心といった区別が生ずる以前の未分化で流動的な意識のことをいう。
この純粋意識を基礎に置く哲学には、マッハおよびアベナリウスの経験批判論、ジェームズの根本的経験論、ベルクソンの純粋持続の哲学などがあげられる。これらは実証主義から形而上(けいじじょう)学までその立場に違いはあるものの、新カント派などにみられる主知主義的傾向およびデカルト以来の物心二元論に対する根本的な批判の姿勢を有することにおいて軌を一にする。とくにジェームズは、純粋経験をもっとも基本的な実在としてとらえ、いっさいの観念や理論をこの直接所与、多即一の流動的実在から説明しようと試みた。わが国では西田幾多郎(きたろう)が、ジェームズや禅仏教の影響下に、主客未分、認識とその対象とがまったく合一した意識状態を純粋経験と名づけ、それを自己の哲学の出発点に据えた。
[野家啓一]
『W・ジェイムズ著、桝田啓三郎他訳『根本的経験論』(1978・白水社)』▽『西田幾多郎著『善の研究』(岩波文庫)』
…1877年ウィンデルバントの後任としてチューリヒ大学教授に招聘され,没年までそこで教鞭をとった。経験批判論の創始者として〈純粋経験〉に基礎を置く徹底した実証主義を唱え,マッハとともに後の論理実証主義の展開に大きな影響を与えた。主著は《純粋経験批判》全2巻(1888‐90)および《人間的世界概念》(1891)であるが,独特の用語と難解な記号法をもって書かれているため,マッハの思想に比べて人口に膾炙(かいしや)しなかった。…
…石川県に生まれ,1894年東京大学哲学科選科を卒業,96年に金沢の第四高等学校講師,次いで教授となった。そのころから,物心両面の苦悩のうちに参禅の経験を重ねたが,やがて当代の日本に広い影響を与えていたT.H.グリーンの理想主義的人格主義倫理学やW.ジェームズの純粋経験の哲学にも学びつつ,主客未分の〈純粋経験〉の世界を実在の根本実相と観ずる立場に到達した。それを論述したのが《善の研究》(1911)であり,この書は,近代合理主義,理想主義と,現実の日本の非合理的情念,実利主義との間で近代的自我の確立に苦しんでいた当代の青年に,衝撃的な影響を与えた。…
※「純粋経験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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