蟇股(読み)ひきまた

精選版 日本国語大辞典 「蟇股」の意味・読み・例文・類語

ひき‐また【蟇股】

〘名〙 鏃(やじり)の先を二股にして、その内側に刃をつけたもの。
読本椿説弓張月(1807‐11)残「当社神宝に、鎮西八郎為朝の箭の根あり。蟇股(ヒキマタ)なり」

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改訂新版 世界大百科事典 「蟇股」の意味・わかりやすい解説

蟇股 (かえるまた)

社寺建築において,虹梁(こうりよう)や頭貫(かしらぬき)・台輪(だいわ)の上にあり,頂部に斗(ます)をおいて棟木や桁・通肘木(とおりひじき)を受ける繰形(くりがた)付きの幅広い材をいう(社寺建築構造)。カエルが足を広げた形に似ているところからこの名がある。はじめは,虹梁上上方荷重を受ける構造材として1枚の厚い板から造られていたが,平安時代後期装飾材として組物(くみもの)(建築組物)と組物の中間におく厚みの薄い輪郭だけのものが現れ,以後これが大いに発達する。前者を板蟇股,後者を本(ほん)蟇股または刳抜(くりぬき)蟇股という。本蟇股は初期には左右の脚を別々の斜材で造っており,いくらか構造材としての機能を残していたが,鎌倉期ころから1枚の板をくりぬき,両脚間に唐草などの彫刻を入れるようになる。時代とともに中の彫刻は複雑になり,厚みも増して,桃山時代には輪郭からはみ出るものがでてくる。蟇股は時代の特徴が最もよく表れており,建立年代を判定する上によい手がかりとなる。
執筆者: 日本の板蟇股の起源は中国にある。おそくも漢時代(前2世紀~後3世紀初めころ)から北魏(5世紀)ころまで使われた梧(ご),すなわち直線的な杈手(さす)が,6世紀半ばから曲線的な人字形を呈して8世紀まで続く。同じ系統の人字形は日本の法隆寺金堂の勾欄(こうらん)下に現れている。曲線の杈手は唐代(7~10世紀)に一転して種々な曲線の板蟇股をうみ出し,それが10~11世紀の遼の木造建築に継承された。別に板蟇股の上に斗束(ますづか)を立てたものも広く利用されたが,日本では唐招提寺講堂に唯一の例があるのみで,しかも後の改造の結果になるといわれている。〈営造法式〉に見える駝峰(だほう)は北宋の板蟇股の一つのタイプを示すもので,同じ系統のものが近世にまで及んでいる。しかし日本の刳抜蟇股の祖形が中国にあるか否かはまだ明らかではなく,ただ近世になると煩雑な遺例が多少みられるにすぎない。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蟇股」の意味・わかりやすい解説

蟇股
かえるまた

社寺建築で柱の頂部をつなぐ頭貫(かしらぬき)と軒下の桁(けた)との間や、梁(はり)上に置かれる部材。カエルが股(また)を開いたような形をしているのでこの名がある。古代の蟇股は一木の厚い板でつくられ、梁の上に置かれて上の材料を受ける構造材であったが、平安時代後期から頭貫と桁の間にも入れられ、装飾化する。このときから輪郭を左右対称に2本の木でつくられたが、やがて一木をくりぬいてつくられるようになり、内部に飾りとして唐草が入れられる。中世になると内部の飾りが多様になり、近世になると動植物が彫刻されて華麗になる。厚板だけのものを板蟇股、内部をくりぬいたものを本蟇股という。

[工藤圭章]


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「蟇股」の解説

蟇股
かえるまた

寺社建築に用いられる,台形の斜辺に繰形(くりかた)をつけたような材。板蟇股と本(ほん)蟇股がある。板蟇股は虹梁(こうりょう)などの上において棟木(むなぎ)や天井桁(げた)をうける構造材で,奈良時代から使われた。はじめは厚くて丈が低かったが,のちには丈の高いものもある。本蟇股は組物(くみもの)の中備(なかぞなえ)に用いる装飾材で,板蟇股の内部をくり抜いて蛙が足を開いたような形となり,平安後期から例がある。内側の彫刻は,時代とともにしだいに複雑となり,桃山時代にはさらに厚みを増し華麗になった。蟇股は時代の特徴をよく表していて,建立年代判定の手がかりとなる。

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百科事典マイペディア 「蟇股」の意味・わかりやすい解説

蟇股【かえるまた】

二つの横材の間におく束(つか)の一種で,上方の荷重をささえるとともに装飾ともなる。カエルが脚を広げた姿に似ているところからこの名がある。厚板の左右に曲線の繰形を施した板蟇股は奈良時代からあるが,内部をくりぬいた形の本蟇股は平安末期に始まり,のち彫刻装飾が加わるようになり,桃山時代以降その装飾性はますます重視された。蟇股の曲線と彫刻は建築年代判定の基準の一つ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蟇股」の意味・わかりやすい解説

蟇股
かえるまた

和様建築で,梁や頭貫 (かしらぬき) 上にあって上の荷重を支える材。蛙股とも書く。梁上にあるものは厚い板状でこれを板蟇股という。平安時代からカエルが足を開いたような形のものができ,これを本蟇股という。初め内部には装飾がなかったが,のちに簡単な中心飾りができ,植物文,さらに動物文がつき,透かし彫から立体的なものまでが生れた。

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世界大百科事典(旧版)内の蟇股の言及

【建築装飾】より

…絵様は元来,彫像や画像の下図の意味であるが,建築部材の表面に彫られまたは描かれた文様をもいう。古代では構造がそのまま意匠となり,装飾のためだけの部材はほとんどなく,斗栱(ときよう)を雲形につくったり,板蟇股(いたかえるまた)(蟇股)に刳形をつけ,基壇や仏壇の嵌板(はめいた)に格狭間(こうざま)をつける程度であった。平安時代後期には本蟇股が装飾材として組物間に置かれ,やがてその中に唐草などの透彫(すかしぼり)彫刻がつけられ,装飾性を増すようになる。…

※「蟇股」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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