顎口虫症(読み)がくこうちゅうしょう(英語表記)Gnathostomiasis

六訂版 家庭医学大全科 「顎口虫症」の解説

顎口虫症
がくこうちゅうしょう
Gnathostomiasis
(感染症)

どんな感染症か

 前述したイヌ糸状虫症(しじょうちゅうしょう)イヌ回虫症(かいちゅうしょう)と同様に幼虫移行症のひとつで、主に淡水魚を生食して感染します。

 顎口虫にはいくつかの種類がありますが、成虫はイタチイノシシなどの野生動物の胃に寄生しています。幼虫はカエルヘビ、川魚の筋肉内に寄生していて、これらを生で食べると幼虫がヒトの体内に入り、さまざまな症状を起こします。

症状の現れ方

 ライギョドジョウヤマメマムシなどを生で食べて1カ月ほどすると、皮膚の下を虫が動き回り、みみずばれやこぶのようなものができます。場所は、最初のうちはおなかや腰が多いですが、決まっているわけではありません。こぶは自然に消えて、また別の場所に現れたりします。

 虫が腸管壁にもぐり込むと、激しい炎症のせいで腸閉塞(ちょうへいそく)のような症状を起こすことがあり、この時は激しい腹痛、吐き気嘔吐が起こります。まれに虫が眼のなかに入ることもあります。

検査と診断

 特徴的な移動性のこぶやみみずばれがあれば顎口虫症を疑い、食べた物を聞き出して診断します。血液中の好酸球(こうさんきゅう)が増えていることが多く、抗体検査も有効です。皮下を虫が動いている時は、治療を兼ねて外科的に切除し、虫を探して形態から診断します。

治療の方法

 外科的に取れそうな場所にいるなら摘出しますが、体の深いところにいる場合は駆虫薬(くちゅうやく)(メベンダゾール)を内服します。外科的に虫が取れても1匹だけとは限らないため、やはり駆虫薬をのみます。

病気に気づいたらどうする

 移動性のこぶやみみずばれが現れたら、皮膚科か外科を受診します。心あたりのある食品を食べたあとに激しい腹痛に襲われたら、消化器外科医のいる総合病院を受診します。

 いわゆる食事としてではなく、酒の(さかな)強壮剤民間療法などで口にしていることもあるので、よく思い出してください。いずれにしても、川魚やカエル、ヘビなどを十分に加熱せずに口にしたあとで何らかの症状が現れたら、医師にそのむねを伝えましょう。

丸山 治彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「顎口虫症」の解説

がくこうちゅうしょう【顎口虫症 Gnathostomiosis】

[どんな病気か]
 顎口虫といわれる寄生虫の幼虫によるもので、ライギョやドジョウなどの川魚を生(なま)で食べることで感染します。
 顎口虫は体内に入っても成虫とはならず、幼虫が皮膚や皮下組織に入ってあちこちに移動します。そのため、皮膚爬行症(ひふはこうしょう)(症状参照)をおこします。
[症状]
 虫の動きにそって皮膚の腫(は)れが線状にみられます。これが皮膚爬行症です。腫れた部分は赤くなり、熱感とかゆみを感じ、好酸球(こうさんきゅう)という白血球(はっけっきゅう)の一種が浸潤(しんじゅん)(しみ出す)してきます。
 ときには幼虫が脳や眼球(がんきゅう)に迷入して、脳炎や失明(しつめい)などの重い症状をおこすことがあります。
[検査と診断]
 腫れた部分から幼虫が摘出(てきしゅつ)できれば診断がつきますが、虫の動きが速く、つかまえることがむずかしいため、実際には血清反応(けっせいはんのう)を調べて診断します。
[治療]
 外科的に虫体を摘出できればよいのですが、虫の動きが速く、実際にはむずかしいため、メベンダゾール、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジンなどの薬のほか、抗アレルギー薬や消炎剤が使われます。
[予防]
 ライギョなどの川魚はよく火をとおしてから食べることです。また、ドジョウの「おどりぐい」はやめることです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

内科学 第10版 「顎口虫症」の解説

顎口虫症(線虫症)

 顎口虫の終宿主はイヌ,ネコ,ブタなど哺乳動物であり,その胃壁などで成虫となる.有棘顎口虫Gnathostoma spinigerum,G. hispidum,G. doloresi,G. nipponicum,G. binucleatumの5種類の顎口虫がヒトに感染症を発症する.顎口虫症は顎口虫の幼虫が寄生した中間宿主(ライギョ,フナ,コイ,ドジョウ,ナマズ)を生食することにより感染する疾病である.特に有棘顎口虫は淡水魚類が主要感染源であり,生食習慣のある日本とタイが流行国である.成虫は12.5(10~30)mm大であり頭部に小棘が列状に生えている.ヒトは終宿主ではないため成虫になることができず,幼虫のまま皮下を移動し爬行部位の皮疹・浮腫などの症状(線状爬行疹,creeping eruption)や移動性皮下腫瘤 (mobile erythema)を引き起こす.これらの症状が数日で消退しまた別の場所に発症する.[立川夏夫]
■文献
Farid Z, Patwardhan VN, et al: Parasitism and anemia. Am J Clin Nutr, 22: 498-503, 1969.
Stolk WA, de Vlas SJ, et al: Anti-Wolbachia treatment for lymphatic filariasis. Lancet, 365: 2067, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「顎口虫症」の意味・わかりやすい解説

顎口虫症
がくこうちゅうしょう
gnathostomiasis

イヌ,ネコなどに寄生する顎口虫の虫卵が水中で孵化し,ライギョ,ドジョウなどの淡水魚類に食べられ,ヒトがそれを生食することによって感染する。幼虫が皮下に寄生して発病し,皮膚腫脹が現れる。内臓に侵入すると重篤な症状を呈する。治療には虫体摘出が試みられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「顎口虫症」の解説

顎口虫症

 各種の動物,特に,淡水魚類の生食により,その筋肉内に潜む,顎口虫類[Gnathostoma spinigerum]の被嚢幼虫を取り込むことにより感染する幼線虫移行症の一つ.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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