預金や融資といった通常の銀行業務に加え、個人や企業などが持つ財産を信託の設定によって移転させ、管理・運用する業務を行っている。遺言書の保管や執行など相続に関する業務や、企業の株主名簿を管理する証券代行、不動産の売買仲介も手掛ける。巨額の資金を運用する機関投資家の側面もあり、企業の株主総会で議案に賛成するかどうかでも注目されている。
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信託業務を兼営する普通銀行のうち、信託業務を主業とするもの。設備資金または長期運転資金などの貸出業務も行える長期金融機関である。
信託銀行の業務は、銀行業務、信託業務、併営業務の三つに整理できる。銀行業務は普通銀行の行う預貸業務や為替(かわせ)業務をさす。信託業務は「財産を信託の設定により受託者に移転させて、その財産を管理・運用すること」(信託協会による説明)である。具体的には、財産を信託する委託者が、財産の管理や運用を受託者である信託銀行に依頼する。受託者は委託者の意向に沿って信託された財産の管理や運用を行う。そこから生じた利益を受け取ることを委託者から指定された受益者に利益を渡していく仕組みである。信託される財産は多岐にわたるが、代表的なものは金銭、株や債券といった有価証券、不動産、金銭債権などである。併営業務としては、相続関連、不動産売買の仲介、証券代行などがある。このように、信託銀行は、個人向け、企業向けに幅広くサービスを取りそろえている。
歴史的には、とくに1952年(昭和27)以降に個人貯蓄を基盤に発展した貸付信託(受託した金銭を貸付で運用する信託業務。現在は新規募集が停止されている)は、信託銀行発展の原動力であり、それによって長期金融分野で長期信用銀行と並んで重要な地位を占めた(長期信用銀行は1990年代後半から2000年代前半に消滅)。さらに1960年代から急速に発展した年金信託(企業年金や国民年金基金の資産運用にかかる信託業務)によって機関投資家としての機能も拡大させた。
1985年以降の金融自由化のなかで、外資系銀行が続々と信託銀行を設立して信託業界に参入し、さらに1993年(平成5)以降、銀行、信託、証券による子会社方式による相互乗入れが可能になり、数多くの信託銀行が設立された。信託銀行数増加に伴う競争激化のなかで、既存の信託銀行の業界での生き残りをかけた合併、銀行と経営統合による共同持株会社の設立が進んだ。
金融庁によると2020年(令和2)3月時点では、兼営信託金融機関は53機関となっている。機関数は増加傾向にあり、とくに2010年代ごろより高齢化に伴う信託サービスを顧客に提供していく多角化を進める地方銀行の参入が増えている。
[平田英明 2020年10月16日]
『吉村正男著『日経産業シリーズ 信託銀行』(1988・日本経済新聞社)』
信託業と銀行業を兼営する銀行で,長期金融機関でもある。高利回りの貯蓄商品を取り扱う金融機関としても知られている。信託銀行の前身は,1922年に制定された信託業法により営業免許を得た信託会社である。信託会社は第2次大戦前長期金融機関としての地位を誇っていたが,戦後顧客であった資産家層が崩壊し,主力商品であった長期貯蓄の金銭信託がインフレーションにより不振を続けたため苦境に陥った。そのため短期金融業務により局面の打開を図ろうとして,48年に当時の信託会社6社(安田,三井,三菱,住友,日本,第一)は名称を信託銀行と改称して,これまでの信託業務のほかに銀行業務を併営することになった。しかし支店数が少ないため銀行業務の併営のみでは十分でなく,52年に創設された貸付信託によってようやく経営の安定を得,以後再び長期金融機関としての道を歩むことになった。金融機関としての特色は,普通銀行は動的な営業性預金をおもに扱い短期の金融が中心であるのに対し,信託銀行は長期貯蓄である貸付信託や金銭信託を主として扱っているので長期の金融が中心である。また戦前の信託会社は資産家層の財産運用機関の性格が濃かったが,信託銀行は貸付信託を中心に大衆の貯蓄機関としての性格が強くなっている。なお法律上は信託銀行の名称はなく,1943年に制定された〈普通銀行等ノ貯蓄銀行業務又ハ信託業務ノ兼営等ニ関スル法律〉により,普通銀行が信託業務を兼営する形になっているが,実際上は信託業務と関連の付随業務が主業務である。なお,信託銀行には上記の6社(第一は1962年中央と改称)と東洋(1959設立)の7社がある(1996年末現在)。
→信託
執筆者:山田 昭
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