入札(読み)ニュウサツ

デジタル大辞泉 「入札」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐さつ〔ニフ‐〕【入札】

[名](スル)物品の売買、工事の請負などに際して契約希望者が複数ある場合、金額などを文書で表示させ、その内容によって契約の相手を決めること。また、契約希望者が、その文書を提出すること。競争入札。いれふだ。「業務の委託先を入札で決める」「護岸工事に四社が入札する」

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精選版 日本国語大辞典 「入札」の意味・読み・例文・類語

いれ‐ふだ【入札】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 多数の買い手、工事請負人がある場合、それぞれの見積り価額を書いた紙を提出させ、その結果を見て買い手、請負人を決めること。また、その見積り価額を書いた用紙。にゅうさつ。競売。せりうり。
    1. [初出の実例]「百両も二百両も積置皆入札を入、是を買とる」(出典:慶長見聞集(1614)三)
  3. 江戸時代村役人や住職などを選ぶ際、名前を記して投票した用紙。また、一般に投票すること。〔書言字考節用集(1717)〕
  4. 頼母子(たのもし)(=無尽)で、二回目以後の取り人を決めるとき、各自の希望取り金額を書かせ、一番安い金額を書いたものに決定すること。主として関西で行なわれた方法。また、その取り金額を書いた用紙。
    1. [初出の実例]「又者終り迄掛続兼候もの者相対次第入札いたし掛金高を請取相退」(出典:徳川時代警察沿革誌(1884‐91)三)

にゅう‐さつニフ‥【入札】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 工事の請負や物品の売買・貸借などに関して、最も有利な条件を示す者と契約を結ぶため、多数の競争者に見積価額を書いた紙を提出させ、その結果を見て相手を決めること。また、その見積価額を書いた用紙。いれふだ。
    1. [初出の実例]「神仏さへ入札になる〈近政〉 おさあひのまもり袋を拵へて〈同〉」(出典:俳諧・玉海集(1656)附句)
  3. 役員などを選挙するとき、名前を記す札。また、それによって人を選挙すること。いれふだ。
    1. [初出の実例]「入札の法撰挙人各其意に従て大統領とし或は副統領とせんと欲する者姓名を札子に記るして箱に投し終て之を開き」(出典:西洋事情(1866‐70)〈福沢諭吉〉初)

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改訂新版 世界大百科事典 「入札」の意味・わかりやすい解説

入札 (にゅうさつ)

契約の内容について多数人を競争させ,そのうち契約主体にとって最も有利な内容を提供する者との間に契約を締結する契約方式を競争契約というが,この競争契約の際競争に参加する者に文書によって契約の内容を表示させることを入札という。競争契約の方法として,ほかに,口頭によって競争するせり売りがあるが,入札はせり売りと異なり,競争者はお互いに他の者の表示する内容を知ることができない。したがって,競争者が慎重に契約の内容を定めることができる点で,巨額の取引等に適した方法であるとされている。

 国の締結する契約は,原則として,数において競争者を限定しない一般競争契約によることとされ(会計法29条の3-1項),競争は原則として入札の方法により,とくに必要がある場合に例外的にせり売りの方法によることが認められている(29条の5)。特定相当数の者を指名して競争させる指名競争契約によることができる場合も,入札の方法が原則である(29条の3-3項,29条の5-1項)。また,地方公共団体が契約を締結する場合も,一般競争入札を原則としている(地方自治法234条)。このように,競争契約は,国や地方公共団体の契約締結方式の原則とされ,その方法として入札が原則とされているのは,相手方の選定にあたり公正が確保できることと,競争者に契約内容を慎重に決定させることができるところに主たる理由がある。

 その反面,一般競争入札は,特別の資格を問題にせずだれもが入札に参加できることから,契約の履行が確実に期待できる等の契約条件にふさわしい者(信用できる相手方)が必ずしも落札するとは限らないので,思わぬ損害を被ることがあるとする短所が強調されて,法規定とは異なり,制限付きの一般競争入札(競争入札参加者資格の加重的要件を定めうることを認める〈予算決算及び会計令〉73条および地方自治法執行令167条の5の2参照)または指名競争入札が中心となってきた。しかし,公共事業をめぐるゼネコン等による一連の不祥事に鑑みて,国の場合は7億3000万円以上,特殊法人の場合は24億3000万円以上の工事に係る調達について一般競争入札を採用することとした(1994年1月18日閣議了解〈公共工事の入札・契約手続の改善に関する行動計画について〉)。都道府県および政令指定都市にも,24億3000万円以上の公共事業について一般競争入札を採用することが要請され,現在では多くの都道府県および政令指定都市がこれよりも低い金額で一般競争入札を採用している。

 競争入札の趣旨を生かすために,たとえば,公正な競争を妨げたり,公正な価格を害しもしくは不正の利益を得るために連合した者は,その事実があった後2年間,一般競争および指名競争から排除される(〈予算決算及び会計令〉71条,98条)。いわゆる談合入札連合入札)の場合の制裁規定であるが,談合入札はいわゆる談合罪としてこれとは別に刑法上処罰を受ける場合もある(刑法96条の3)。

 なお,入札という用語は,租税滞納処分の手続において,差押財産を換価するための公売に付す場合の一方法(国税徴収法94条)や,民事執行法の定める強制執行における売却の一方法としても用いられている(民事執行法64条,134条)。
競争契約
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「入札」の意味・わかりやすい解説

入札(にゅうさつ)
にゅうさつ
a written bid

競争売買(1人対多数の交渉による売買取引)の一方法。買い手が1人のとき2人以上の売り手が各自の最低販売値段を書面で申し込むか、売り手が1人のとき2人以上の買い手が各自の最高購入値段を書面で申し込む方法が入札であり、前者の場合はすべてのなかで最低販売値段を申し込んだ者が売り手に、後者の場合はすべてのなかで最高値段を申し込んだ者が買い手に決定する。この決定者を落札者という。あらかじめ入札者に一定の資格を課して制限する場合(指定入札)と、公募する場合(公告入札)とがある。また、落札決定基準として値段についてあらかじめ最高または最低の金額を指定しておく場合(指値(さしね)入札)と、指定しない場合とがある。入札売買は多数者が書面によって競争的に値段を表示するので、相対(あいたい)売買(売り手と買い手の2人の交渉による売買)に比べて公正かつ合理的である。このため、官庁や企業が多額の物資を購入したり払い下げるとき、工事の請負をさせるときなどは、入札が原則となっている。一般に行われる入札の手続は、公告、予定価格(指値)の決定、入札保証金の納付、入札、開札からなっている。指値入札が行われる理由は、売買契約の履行に際して、工事・製造・品質・数量に不正を生み出すような不当な値段を入札させないようにするためである。公の入札の際、偽計もしくは威力を用いて公正を害する行為をすると、入札妨害罪もしくは談合罪(刑法96条の3)になる。なお、入札に似た競争売買に競売(けいばい)があるが、口頭で買い受けを申し込む点で入札と異なる。

[森本三男]


入札(いれふだ)
いれふだ

人物、金額、可否などを記した用紙を投票し、人選、売買価格(請負(うけおい)額や頼母子(たのもし)の落札額も含む)、集団の意志などを決定する方法。「にゅうさつ」とも読み、入簡(いれふだ)とも書く。とくに近世では人選のため広く行われた。武家では織田信長、豊臣(とよとみ)秀吉などが戦功者の選出や「にげ札」として臆病(おくびょう)者を密告させるのに行ったとされ(『山鹿(やまが)語類』)、また加藤清正(きよまさ)は母衣(ほろ)の勇者を選出するのに諸士に入札を行わせたといわれる(『翁草(おきなぐさ)』)。一方寺院では檀林(だんりん)などの住持を決定するために行い、朝廷では楽人(がくじん)の課試の優劣を定めるため行われることがあった。村落では村役人の選出や盗人の摘発に行われた。近代でも明治新政府は三等官以上の入札で左大臣、議定(ぎじょう)、参与、知事などを選出したことがある。

[白川部達夫]

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百科事典マイペディア 「入札」の意味・わかりやすい解説

入札【にゅうさつ】

契約の内容につき多数人を競争させて最も有利な内容を表示した者と契約を締結する場合(競争契約)に,競争に加わる者に文書によって契約の内容を表示させること。入札が申込に,落札が承諾に該当する。入札は封書でなすのが普通。買いは最低値,売りは最高値が原則。せり売りと異なり申出額が公開されず,競争者が慎重に決定し得るから,大規模の建設工事の請負等に適する。会計法は,国の締結する契約は原則として入札によると規定。入札者を特定しない一般競争入札と,指名する指名入札がある。
→関連項目談合

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「入札」の意味・わかりやすい解説

入札
いれふだ

売買の契約などに当たり,競争して札を入れること。落札者が契約することになるが,江戸時代には幕府が品物の払い下げや工事の請負いなどに入札を採用した。また民間でも入札は行なわれており,村役人の選挙に用いられることもあった。現代では,「にゅうさつ」と呼ばれているが,その仕組みは同じである。最近の大規模工事などでは,企業体などと称して関連企業が連合して入札を行なうことも多い。入札に当たり事前に話し合って落札者を決めることを談合と呼ぶ。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「入札」の解説

入札
いれふだ

「にゅうさつ」とも。入簡とも。売買・請負・人選やさまざまな意志決定に際して投票を行うこと,またその投票用紙。古代~近代に幅広く行われたが,とくに近世では各地で村役人を入札によって選んでいる。このとき札には被選挙人の名前だけを記すのみでなく,投票者の名前を明記することもあった。このほか講集団での当選者や土木工事の請負業者・官有物の払下げ先なども入札によって決定した。

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世界大百科事典(旧版)内の入札の言及

【建設業】より

…そして業者は,製造業者のようなコスト面より受注という販売面で競争する傾向が強いわけである。 受注方式には,特命受注と入札とがある。特命方式は,発注者が特定の業者に工事を直接依頼するもので,官公庁工事では原則としてなく,民間工事だけで行われる。…

【商品市場】より

…一定の場所に商品の売手と買手が集まって取引する商品市場は,これに対して具体的な商品市場あるいは組織商品市場と分類できる。特定の日に開かれる木材,家畜などの(いち),干しシイタケ,鰹節,干しのり,荒茶などの入札会,野菜,果実,魚介,生花を中心とする卸売市場,原糸,大豆,ゴム,砂糖などを取引する商品取引所などがそれである。具体的な市場は,法律に基づいて特定の場所(施設)で一定のルールに従って継続して取引する商品取引所や卸売市場(中央,地方)のように高度に組織化された市場と,入札会,せり市,席上(せきじよう)取引,荷受市場など組織化の度合が比較的低い市場に分けられる。…

【せり(糶∥競り)】より

…せり売りには買手が値をせり上げていく〈せり上げ〉と,売手が値をせり下げていく〈せり下げ〉があるが,せり下げはオランダ,ベルギーなど一部で行われたところから,別名オランダぜりDutch auctionと呼ばれるように,特殊な物品,特殊なケースに限られる(街頭のバナナ売りなど)。せりの一般的な形態はせり売りだが,買手が1人で,2人以上の売手が競争して最も安値を付けた売手のものを買うのを〈せり買い〉といい,建築工事の請負や官公庁の調度品入札などにみられる競争入札(入札)はせり買いの一種である。この両者の方法を取り入れ,多数の売手と多数の買手が互いに有利な値段を求めてせり合って値段を決める方式を競売買(きようばいばい)と呼び,商品取引所での中心的な売買仕法である。…

※「入札」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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