これまでは,公海とは,いずれの国の領海または内水にも含まれない海洋のすべての部分を意味した。しかし,1982年に成立した国連海洋法条約のもとで新たに群島水域と排他的経済水域の制度が認められたので,今日では,公海とは,いずれの国の内水や領海,群島水域,排他的経済水域にも含まれない海洋のすべての部分である(これら新規水域の設定により,公海はこれまでより30%狭くなったといわれる)。
公海では〈公海自由の原則〉が適用される。この原則は永い慣行によって確立した国際法の基本原則の一つであった。ヨーロッパの中世末期から近世初頭にかけてポルトガルとスペインが広大な海洋の領有を主張したのに対し,オランダやイギリスなどが海洋の自由を主張し激しく対立したが,その後しだいに後者の主張が一般に認められるに至った。1609年に出版されたグロティウスの《自由海論》は,海洋自由の主張に理論的基礎を与えた。
公海自由の原則は,第1に,いずれの国家も公海を領有し排他的に支配することを許されないということを意味する(海洋法条約89条)。いわば,国家の帰属からの自由である。第2に,この第1の意味からの当然の帰結として,いずれの国家も,原則として,外国の権力的な支配を受けることなく,公海を自由に使用することが認められており,これを,とくに公海使用の自由の原則として区別することもあるが,一般には,両者を含めて〈公海の自由〉と呼ばれる。
公海使用の自由には,航行の自由,上空飛行の自由,漁獲の自由,海底電線および海底パイプラインを敷設する自由,人工島その他の設備を建設する自由,科学的調査の自由などが含まれる(87条)。このほかに,演習や兵器の実験に使用する軍事的利用の自由も伝統的に認められている。ただし,これらの自由を行使する場合には,他国の利益に合理的な考慮を払うことが必要である。
公海において,船舶に対して管轄権を及ぼしうるのは原則として旗国(船籍国)だけであり(旗国主義。〈旗国法〉の項を参照),他の国の管轄権が船舶に及ぶことは原則として排除されている。公海秩序の維持や沿岸国の安全の保護のために必要な場合に,例外的に船舶に対し他国の管轄権が及ぶことが許されるのであり,海賊行為,継続追跡(追跡権),臨検,海洋汚染の防止などがその例である。
最後に,国連海洋法条約の下で,公海自由の原則は著しく制約されるに至ったことが指摘される。排他的経済水域の新設,深海底資源開発のための国際制度の樹立,海洋環境汚染の防止,公海生物資源保存のための規制措置などがその主要なものである。
→海洋法
執筆者:尾崎 重義
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地球上の海洋から、いずれかの国の排他的経済水域、領海、内水または群島国家の群島水域に属する海域を除いた残りの部分を、公海という。公海には公海自由の原則が適用される。この原則は、公海がどこの国の領域にもならないという領有禁止と、すべての国が自由に公海を使用できるという使用の自由の二つの内容からなっている。使用の自由のなかに、航行の自由、上空飛行の自由、海底電線と海底パイプライン敷設の自由、人工島と設備建設の自由、漁獲の自由、科学的調査の自由などがある。公海はどこの国の領域でもないので、公海上にある船舶は、その所属する国家(旗国)の排他的管轄権のもとに置かれて、その船舶には旗国の法令が適用され、また旗国の裁判権に服する。これを旗国主義という。もっとも、公海の秩序維持のために、海賊行為を行う船舶、奴隷運送を行う船舶、海賊放送に従事する船舶、国旗を濫用する船舶に対して、他国の軍艦、軍用航空機および政府の公務に従事する船舶・航空機が干渉することを認められている。また、沿岸国の内水、領海、接続水域、排他的経済水域または大陸棚において、沿岸国の法令に違反し停船命令を無視して公海上へ逃走する外国船舶に対しては、沿岸国の軍艦、軍用航空機、政府の公務に従事する船舶・航空機がこれを追跡して公海上で捕まえることも許される(継続追跡)。これらは旗国主義の例外とされる。
[高林秀雄]
『小田滋著『海洋法 上巻』(1979・有斐閣)』
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(岡佳子)
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…最近の海洋利用は質量ともに目覚ましいものがあるが,それを反映して海洋法の規制する範囲も多岐に及んでいる。すなわち,(1)公海,領海,排他的経済水域などの水域で構成される海洋秩序,(2)海洋や海峡における航行や上空飛行の問題,(3)生物資源や鉱物資源などの開発の問題,これに関連して大陸棚や深海底などの新たな法制度,(4)海洋汚染,海洋環境保護の問題,(5)海洋の科学的調査,海洋技術の開発と移転の問題などである。海洋法は,国際法のなかでも最も古い歴史をもつ分野であるが,〈海洋法Law of the Sea〉という言葉が用いられたのはごく最近である。…
※「公海」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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