江戸末期の剣術家、北辰(ほくしん)一刀流の開祖。名は観(かん)、字(あざな)は成政(なりまさ)、屠龍(とりゅう)と号した。陸前国(宮城県)栗原(くりはら)郡花山(はなやま)村(同郡荒谷(あらや)村、気仙郡気仙村との説もある)の郷士、千葉忠左衛門成胤(幸右衛門成勝)の次男に生まれ、7、8歳のころから父について家伝の北辰流を習い、その偉才ぶりを発揮した。15歳のとき一家は江戸を目ざして出郷、水戸道中松戸宿(千葉県松戸市)に落ち着き、父は浦山寿貞(うらやまじゅてい)と号して馬医に、周作兄弟は同地出身の中西(なかにし)派一刀流の浅利又七郎義信(あさりまたしちろうよしのぶ)のもとに入門した。やがて非凡の才を認められて、江戸の宗家(そうけ)中西忠兵衛子正(つぐまさ)に学び、寺田宗有(てらだむねあり)、白井亨(しらいとおる)、高柳又四郎らの指導を受けて、修行3年で免許皆伝を許された。1820年(文政3)27歳のとき、北関東から東海地方への廻国(かいこく)修行を試み、各流各派の長短得失を知り、伝統的な一刀流兵法を改組する必要性を痛感し、22年北辰・一刀両流をあわせ、さらに創意を加えて北辰一刀流を標榜(ひょうぼう)し、日本橋品川町に道場を開き、玄武館(げんぶかん)と称した。
その柔軟性に富んだ教授法と昇段制の簡略化など、優れた道場経営でたちまち人気を博し、門人が急増したため、1825年の秋には、神田お玉が池の儒者東条一堂(とうじょういちどう)の瑤池塾(ようちじゅく)に隣接する旗本某の屋敷を買い求めて移転した。さらに一堂の没後はこれを買収して、道場の規模を広げ、一族子弟門人中にも優れた剣客に恵まれて、玄武館は江戸町道場の随一とうたわれた。周作には4人の男子があり、長男奇蘇太郎(きそたろう)、次男栄次郎、三男道三郎、四男多門四郎のいずれも資質に恵まれたが、とくに栄次郎はすばらしい腕前の持ち主で、神道無念流練兵館(れんぺいかん)斎藤弥九郎(やくろう)の長男新太郎、鏡新明智(きょうしんめいち)流士学館桃井春蔵(もものいしゅんぞう)の養子直正(なおまさ)(4代)と並び称された。また実弟で玄武館を補佐した定吉も剣名が高かった。門人としては、海保帆平(かいほはんぺい)、井上八郎、大羽藤蔵(おおばとうぞう)、森要蔵(もりようぞう)、また水戸の渡辺清左衛門、小沢寅吉らが有名であった。幕末の清河八郎(きよかわはちろう)、坂本龍馬(りょうま)らも同門の出身である。
[渡邉一郎]
幕末の剣客で,北辰一刀流の流祖。字は成政,号は屠竜。陸奥国栗原郡荒谷村(現,宮城県古川市)に獣医の次男として生まれ,15歳のとき江戸近郊の松戸に移り,16歳のとき小野派一刀流の浅利又七郎義信の門に学んだ。師の世話で旗本の喜多村石見守正秀に仕えるかたわら剣に精進し,宗家の中西忠兵衛子正(たねまさ)に入門,高柳又四郎,白井亨,寺田五郎右衛門など当代の名剣士とともに修業し,その非凡な才能に磨きをかけた。他流試合を通じて各流の長短得失を学んだ結果,伝統的な一刀流兵法にも改める点のあることを感じ,みずからの創意工夫を加えて北辰一刀流をうち立てた。その後,流儀の宣伝弘布をかねて諸国を巡歴し,他流試合を通じて自信を深め,江戸に帰って玄武館を開いた。近代的な教授法と昇段制の改革などによって門人は急増し,神田お玉ヶ池の道場には多くの優秀な人材が集まり,江戸随一の道場の名声を得た。海保帆平,井上八郎,森要蔵,塚田孔平などの名剣士や,清川八郎,坂本竜馬など幕末に活躍した人物も千葉一門である。
執筆者:中林 信二
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(早乙女貢)
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1794~1855.12.13
江戸後期の剣客,北辰一刀流の創始者。諱は観。陸奥国栗原郡花山村の北辰夢想流を唱える家に生まれ,旗本喜多村氏に仕えた。剣術を小野派一刀流の浅利義七に学び,その後独立して北辰一刀流を創始。江戸日本橋品川町に道場玄武館を開き,のち神田お玉が池に移った。天保年間に水戸弘道館に出張教授した縁で水戸藩士に登用され,1841年(天保12)には高100石,馬廻役に取り立てられ,中奥まで進んだ。
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…幕末に隆盛した剣術流派。流祖は千葉周作。周作は一刀流を中西忠兵衛子正(たねまさ)およびその門人浅利又七郎義信から学び,免許階級制や技術体系を近代的な形に改革して北辰一刀流とした。…
※「千葉周作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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