精選版 日本国語大辞典 「序破急」の意味・読み・例文・類語
じょ‐は‐きゅう ‥キフ【序破急】
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日本の芸能用語。雅楽の舞楽における当曲(とうきよく)の楽章を代表する序・破・急の三つの語が合成されて熟語となったもの。舞楽の各演目は,前奏,舞人の登場,当曲の奏舞,舞人の退場という4部分から構成される。そして左方(さほう)の舞楽においては,そのうちの当曲の部分は,ふつう一ないし四つの楽章からなり,二つ以上あるときには,序,破,急,詠,囀(てん)/(さえずり)などの楽章名で呼ばれる。とくに,序・破・急は,その三つ全部がそろうことはまれであるにしても,しばしば用いられ,しかも順序はけっして前後しない。まず序は,伴奏の唐楽が非拍節的リズムであるのが大きな特徴で,管楽器は,序吹きと通称する吹き方によって,ゆったりとうねるような旋律を奏する。この序が当曲に含まれるとすれば,必ず冒頭に置かれるのは前述のとおりだが,舞楽全体としては,けっして冒頭ではないので注意を要する。序に対して,破は拍節的リズムの延(のべ)あるいは只(ただ)という拍子,急は同じく早(はや)という拍子の唐楽を伴奏に舞われる。破,急それぞれの速度が緩から急に変化し,破全体よりも急全体の方がテンポが速いとは必ずしもいえない。同じ舞楽でも右方(うほう)の場合には,序という名の楽章はなく,破,急の拍子も,左方のそれとは異なっている。
序・破・急という三つの構成部分を認識することは,室町時代においては,雅楽以外の分野においても,かなり広く行われていたようである。たとえば二条良基は,《筑波問答》において〈楽にも序・破・急のあるにや。連歌も一の会紙は序,二の会紙は破,三,四の会紙は急にてあるべし。鞠にもかやうに侍るとぞ其の道の先達は申されし〉と述べ,心敬の《ささめごと》には〈万道の序・破・急〉という表現がある。芸能の分野では,観阿弥から〈一切(いつさい)の事(じ)に序破急あれば,申楽もこれ同じ。能の風情を以て定むべし〉との教えをうけた世阿弥は,能一曲の構成について,ワキ登場の段を序,シテ登場を破一段,シテ・ワキ応対を破二段,シテの物語から中入りを破三段,後ジテの場面の全体を急であるとし,また,番組編成についても,初番目を序,二番目を序の名残,三番目からを破とするなどと述べ,やがて,初番目が序で二,三,四番目が破の一,二,三段,五番目が急と説明されるようになる。世阿弥はさらに,〈一舞・一音の内〉や〈舞袖の一指,足踏の一響〉〈見所一見〉などにまで,序破急を説く。
しかし,これら美学的思考と結びつけられた序破急はもちろん,能1曲の構成や番組編成上の序破急にしても,舞楽から取り入れたのはその言葉だけであり,芸能の構造そのものの直接的な影響を受けたわけではないと考えるのが穏当である。舞楽においては,序破急という熟した用語は用いられないといってよいが,ほかの分野では,これが完全に一つの単語として,速度の漸急の意味で用いられることがあり,緩急変化や強弱変化を意味する場合もある。さらには,時間性を持たない造形芸術などまで,序破急の有無が指摘されることもある。
執筆者:蒲生 郷昭
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日本の芸能に共通する理念の一つで、曲や劇の構成上の3段階をさす語。そのもとは雅楽の一曲を構成する三つの楽章をいい、序は緩やかな導入部、破は内容豊かな展開部分、急は急テンポの終章に相当する。この理念は能に入り、一曲の歌舞の展開と一日の上演曲目の配列との二様に適用されるようになる。一曲については序の舞、破の舞、急の舞の三段展開で、能の大成者世阿弥(ぜあみ)は『風姿花伝』において「一切の事に序破急あれば申楽(さるがく)もこれ同じ」と明文化した。さらに『三道(能作書)』の冒頭には「序・破・急の三体を五段に作りなして、さて詞(ことば)を集めて、曲を附けて書連ぬるなり」とする。破をさらに破の序、破の破、破の急の3段に分けたのである。一日の演目もこれに準じて五番立てとされた。『習道書』に「能の序破急の事、脇能(わきのう)は序なり、二番・三番・四番は破にて、事を尽して、五番目は急にて果てて」一日の能はなると記されている。『花鏡(かきょう)』にはさらに具体的な詳述がある。
この序破急の理念は下って浄瑠璃(じょうるり)に入り、初め6段または12段だった浄瑠璃の、時代物五段、世話物三段という劇的構成への進展を促した。このように序破急は日本の伝統芸能を貫く構成原理といえるが、西洋でもアリストテレスが『詩学』においてギリシア悲劇の完結性を「初めと中と終わりのあること」と定義したように、劇構成には東西を問わずみられる共通の理念である。浄瑠璃の五段展開は、ローマ劇やフランス古典劇の金科玉条とされた五幕形式に比較されよう。しかも世阿弥が「一切の事に序破急あれば」といったように、「起承転結」の語と同様、演劇・芸能に限らず人生そのものを含めてあらゆる物事に通じる基本的な理念である。
[河竹登志夫]
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[リズム]
雅楽曲のリズムには非拍節的なものと拍節的なものとがあり,神道系祭式芸能では前者を静(しず)拍子,後者を揚(あげ)拍子ということがある。大陸系の楽舞では,非拍節的リズムは序破急(後述)の〈序〉の部分,および〈音取(ねとり)〉,〈調子〉(〈品玄(ぼんげん)〉〈入調(にゆうぢよう)〉),〈乱声(らんじよう)〉などにみられるが,リズム型そのものを表す用語はない。拍節的リズムは〈~拍子〉といって区別され,代表的なものに早(はや)拍子,延(のべ)拍子,只(ただ)拍子,八多良(やたら)拍子の4種がある。…
※「序破急」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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