(読み)カイ

デジタル大辞泉 「懐」の意味・読み・例文・類語

かい【懐〔懷〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]カイ(クヮイ)(漢) [訓]ふところ なつかしい なつかしむ なつく なつける おもう いだく
〈カイ〉
胸中にいつまでも思いをいだく。心にいだく思い。「懐疑懐旧懐古感懐述懐所懐素懐坦懐たんかい追懐抱懐本懐
中に包みいだく。「懐石懐胎懐妊
だき込んで手なずける。「懐柔
ふところ。「懐剣懐紙懐中懐炉胸懐
〈ふところ(ぶところ)〉「懐刀懐手内懐
[名のり]かぬ・かね・きたす・たか・ちか・つね・もち・やす

ふところ【懐】

衣服を着たときの、胸のあたりの内側の部分。懐中。「受け取った金をにしまう」
前に出した両腕と胸とで囲まれる空間。「横綱のに入り込む」
周りを山などに囲まれた奥深い場所。「山のを切り開く」
外界から隔てられた安心できる場所。「親ので不自由なく育つ」「大自然のに抱かれる」
物の内部。内幕。「敵のに飛び込む」
持っている金。所持金。「他人のをあてにする」「と相談する」
胸の内の考え。胸中。「を見透かす」
[類語](1胸部胸腔きょうこう胸郭きょうかく胸板むないた胸間きょうかん胸元むなもと胸先むなさき胸倉むなぐら胸壁バストチェスト

ほほ【懐】

ふところ。懐中。
「文を受け取り―に入れ」〈仮・竹斎・上〉

かい〔クワイ〕【懐】

心中の思い。「を述べる」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「懐」の意味・読み・例文・類語

なつかし・い【懐】

〘形口〙 なつかし 〘形シク〙 (動詞「なつく(懐)」の形容詞化。古くは、身近にしたい、馴れ親しみたいの意を表わし、後世、多く懐旧の思いをいうようになる)
[一] 心がひかれ、離れたくないさま。愛着を覚えるさま。魅力的だ。慕わしい。
(イ) 人、人の心や姿をはじめ、音・香などを含め、広い対象についていう。
万葉(8C後)一六・三七九一「秋さりて 山辺を行けば 名津蚊為(なつかし)と 我れを思へか 天雲も 行きたなびく」
※大鏡(12C前)一「御心ばへいとなつかしう、おいらかにおはしまして、世の人いみじう恋申めり」
(ロ) 衣服が、着馴れて程よくのり気がとれて、からだになじんでいるさま。
源氏(1001‐14頃)夕霧「なつかしき程の直衣に、色こまやかなる御衣(ぞ)のうち目」
[二] (中世以後に生じた意味) 過去の思い出に心がひかれて慕わしいさま。離れている人や物に覚える慕情についていう。
※光悦本謡曲・羽衣(1548頃)「雁金のかへりゆく、天路をきけばなつかしや」
※俳諧・続猿蓑(1698)上・今宵賦(支考)「幾年なつかしかりし人々の」
なつかし‐が・る
〘他ラ五(四)〙
なつかし‐げ
〘形動〙
なつかし‐さ
〘名〙
なつかし‐み
〘名〙

ふところ【懐】

〘名〙
① 着物と胸とのあいだ。懐中。ふつころ。
書紀(720)允恭七年一二月(北野本訓)「密(しのひ)て懐中(フトコロのうち)の糒(かれいひ)を食(くら)ふ」
② 比喩的に、あたたかく迎え入れてくれる所、情をかけ庇護してくれる所の意。膝下。
※栄花(1028‐92頃)月の宴「童なる君のとのの御ふところはなれ給はぬぞ」
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「そこをば、ふところといふばかりにほしたて奉りしかば」
④ 相撲などで、前に出した両腕と胸とで作られる空間。「ふところが深い」
⑤ 物などに囲まれて奥深くなったところ。
※源氏(1001‐14頃)蜻蛉「山のふところより出で来たる人々のかたほなるは」
⑥ 内部。内幕。また、心の中。考え。了簡。
※浮世草子・色里三所世帯(1688)下「問ずがたりに此所の太夫たちの懐をうちあけていへり」
⑦ 所持金。財産。また、それらの都合。金回り。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「なまいちまいといはぬところはよほどあやしいふところと見へたり」
⑧ 鼓の胴の乳袋(ちちぶくろ)の内部。
浄瑠璃語りなどが語る際に、声に力を込めやすくするために下腹あたりに入れる、小石を詰めた枕のようなもの。ちからまくら

な‐つ・く【懐】

[1] 〘自カ五(四)〙 (馴れ付くの意。後世「なづく」とも) 馴れて付き従う。馴れ親しむ。親しみよる。慕う。
※万葉(8C後)六・一〇四九「名付(なつき)にし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きしまさる」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「猫はまだよく人にもなつかぬにや、綱いと長くつきたりけるを」
桐一葉(1894‐95)〈坪内逍遙〉三「去就定まらぬ天下の諸侯当家になづきしたがふべきか」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒なつける(懐)

な‐つ・ける【懐】

〘他カ下一〙 なつ・く 〘他カ下二〙 (後世「なづける」とも) なつくようにする。親しみなつかせる。てなずけて従わせる。
※万葉(8C後)五・八三七「春の野に鳴くやうぐひす奈都気(ナツケ)むとわが家(へ)の園に梅が花咲く」
※浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)三「己に靡き従ふ者には、〈略〉金子を与へなつくる故」
※小公子(1890‐92)〈若松賤子訳〉前編「自分の後を継ぐ可きものを懐(ナヅ)けて置くは」

なつかし‐・む【懐】

〘他マ五(四)〙 なつかしく思う。親しく思い出す。なつかしぶ。
※書陵部本公任集(1044頃)「なつかしみ袂にかかる梅がかをかぜにしられぬことをこそ思へ」
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「随分心に母を恋(した)い姉妹を懐しむ者があっても其を表するのを憚って」

かい クヮイ【懐】

〘名〙
① ふところ。
② 心の内。思いや考え。「懐を述べる」
※伊沢蘭軒(1916‐17)〈森鴎外〉二八「茶山の事は蘭軒の懐(クヮイ)に往来してゐたと見えて」 〔詩経‐小雅・谷風〕

ふつころ【懐】

※書紀(720)允恭七年一二月(図書寮本訓)「密(しのひ)に懐(フツコロ)の中の糒(ほしひ)を食(くら)ふ」

なつかしび【懐】

〘名〙 (動詞「なつかしぶ(懐)」の連用形の名詞化) なつかしく思うこと。また、馴れ親しむ気持。親愛の情。なつかしみ。
※浜松中納言(11C中)二「我をばさまことなるものにたゆみて、うらなくなつかしひを通はい給ひしに」

なつかしん‐・ず【懐】

〘他サ変〙 (「なつかしみす」の変化したもの) 馴れ親しむ。慕う。〔書陵部本名義抄(1081頃)〕
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中「権威をもって人を従へんよりは、しかじ、柔かにして人になつかしんぜられよ」

なず・く なづく【懐】

[1] 〘自カ五(四)〙 ⇒なつく(懐)
[2] 〘他カ下二〙 ⇒なつける(懐)

な‐つけ【懐】

〘名〙 (動詞「なつける(懐)」の連用形の名詞化。「なづけ」とも) なつかせること。
※躬恒集(924頃)「春の野に荒れたる駒のなづけには草葉にみをもなさんとぞ思ふ」

なつっこ・い【懐】

〘形口〙 「なつこい(懐)」の変化した語。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「懐(ナツ)っこい言をいふ口と腹とは反対で」

ほほ【懐】

〘名〙 ふところ。懐中。
※仮名草子・竹斎(1621‐23)上「文を受け取ほほに入」

なつこ・い【懐】

〘形口〙 人見知りしないで、すぐ人になつくさま。人なつこい。なつっこい。〔浜荻(仙台)(1813頃)〕

なず・ける なづける【懐】

〘他カ下一〙 ⇒なつける(懐)

なつかし【懐】

〘形シク〙 ⇒なつかしい(懐)

なつかし‐・ぶ【懐】

〘他バ四〙 =なつかしむ(懐)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android