一産業内の全労働者を組織対象とする労働組合をいい,現代労働組合の基本的形態である。初期の労働組合は一般に職業(職能)別組合(クラフト・ユニオン)として熟練労働者の間で組織され,低熟練労働者は排除されていたが,大量生産工業の発展にともない,万能工的な熟練労働者に代わって,未熟練労働者を企業内で訓練してしだいに上位の職務に配置する方式が一般的になったため,熟練・不熟練の区別なく団結することが必要になった。鉄道・石炭産業など,労働市場が地域的に限定されていて使用者側が強い交渉力をもっていた場合には,最初から産業別組合が結成されたこともある。ヨーロッパでは20世紀初めから,アメリカでは大不況後の1930年代から,自動車,電機産業など新産業を中心として形成され,しだいに大部分の産業に及んだ。産業別組合は,労働条件をめぐっては,使用者あるいは使用者団体と団体交渉を行って,文書の形で労働協約を結ぶことが一般的であり,交渉手続も制度化されていることが多い。全従業員を組織することを目標にしているので,ユニオン・ショップ制を使用者に認めさせる方向をとっており,先進国ではそれが広く実現している。労働条件の交渉にとどまらず,産業に関する政府の政策にも発言し,労働法制についても積極的な活動を展開する。これらの目的を実現するため社会主義的政党と緊密な関係を保つ傾向がある。
日本の労働組合は企業別組合として組織されているため,労働者が直接に産業別組合に加入する例は,全逓など,産業それ自体が独占的公営事業として運営されている場合に限られている。一般には企業別組合が産業ごとに連合する連合体(産業別連合体)の形態をとっており,単産(単一産業別労働組合の略)と呼ばれているが,最終的な意思決定は企業別組合に残して,相互の連絡・調整を行うにとどまっている。したがって統一行動をとる場合も,加盟組合の批准を経て権限移譲を受ける必要があり,決定事項についても加盟組合に対する強制力は小さい。財政は加盟組合の財政から加盟費を集めて運営されるが,欧米の産業別組合の多くが組合員の納入する組合費の大半を中央に集中しているのに対して,日本では2割程度が産業別連合体に上納されるにとどまっている。産業別連合体は春闘など全国的規模での労働組合活動において最も重要な役割を果たしており,要求,交渉,妥結の各段階について企業別組合の足並みをそろえており,労働条件の平準化にある程度効果を上げている。これらの活動は産業別統一闘争として計画されており,財政や人事の年度が変わる春季に集中的に行われることから,〈春闘〉と呼ばれている。産業別連合体への企業別組合の結集度は産業によって異なるが,産業別交渉の定着が進んでいるため,労働条件の統一性については高まっている。
→労働組合
執筆者:栗田 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
職種や熟練度の違いにかかわりなく、同一産業に従事する全労働者を一つの労働組合に組織するものであり、一産業一組合がモデルとなる組織である。それに対して、職業別労働組合(クラフト・ユニオン)は、特定の職業や職種の熟練労働者を中心に組織される。
産業別組合は資本主義の独占段階に対応して成立・発展した。すなわち、生産過程の機械化を中心とする大量生産方式の発展に伴い、旧型職種や熟練の解体が進行し、大量の半熟練・不熟練労働者が生産過程に導入された。一方で巨大企業内で分立する職業別組合は弱体化し、ここに、同一産業における労働条件や作業環境の共通性を基礎とし、職種や熟練度の違いを越えて一つの組合に組織する産業別組合という組織形態が必要かつ有効なものとなった。イギリスでは1913年設立の全国鉄道労働組合がもっとも早かった。アメリカでは1920年代から1930年代にかけて、職業別組合主義にたつアメリカ労働総同盟(AFL)の一部を改組し、広範な不熟練労働者の組織化を図る運動が高まり、使用者側の弾圧に抗しつつ、1938年に産業別組合会議(CIO)が結成された(1955年に合同してAFL-CIOとなる)。産業別組合は資本主義の独占段階の組合組織として今日支配的地位を占めている。なお、日本の産業別組合は、一部の例外を除き個人加盟の単一組合ではなく、企業別組合の産業別連合体または協議体である。こうした日本の産業別組合は、単位産業別組合(単産)とよばれている。
[早川征一郎]
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…職人組合が独自の居酒屋を経営する問題や,病気や死亡した職人ならびに異国から遍歴してくる職人の世話をめぐる問題が,ツンフトから職人組合が独立していくきっかけとなっていった。職人組合がこのように他国の職人に開かれた組織をつくっていたことは,今日の西欧の労働組合が企業別組合ではなく産業別組合である歴史的背景となっているのである。【阿部 謹也】。…
…つまり労働組合は,一定の範囲の労働市場の労働者を組織して,使用者が労働組合と取引することなしには必要な労働者を獲得できない状態をつくり出し,そのうえで労働条件の交渉を行うのである。その労働市場の範囲のあり方にしたがって労働組合の形態は,職業別組合(クラフト・ユニオン),産業別組合,一般組合,あるいは日本に多い企業別組合というような,さまざまな組織形態に分かれる。この労働市場のあり方は時代により国によって異なるため,労働組合の組織形態もこれらの条件にしたがって変化している。…
※「産業別組合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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