年金、医療、介護、子育てといった社会保障制度の運営にかかる経費。高齢化の進行や医療技術の進歩により年々増えている。2022年度予算では、一般会計総額107兆5964億円のうち36兆2735億円を占め、個別の歳出項目の中で最も大きい。新たな政策による増加分などを除き、給付を受ける高齢者が増えることで必要となる増加額を「自然増」と呼んでいる。
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社会保障は連帯感による相互扶助の精神に基づいて、老齢、疾病、失業などの原因による生活上の困難から、社会の構成員が互いに守り合うシステムであり、この経費を国家財政に計上したのが社会保障費(社会保障関係費)である。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
日本の国家財政(一般会計)における社会保障関係費は、(1)生活扶助、医療扶助などにかかわる生活保護費と、老人福祉、児童保護などの社会福祉費をあわせた生活扶助等社会福祉費、(2)厚生年金、国民年金、国民健康保険などの社会保険費(年金給付費、医療給付費、介護給付費)、(3)少子化対策費、(4)公衆衛生、医療の保健衛生対策費、そして(5)雇用労災対策費からなっている。以上が狭義の(一般会計の)社会保障費であるが、広義にはこれに恩給、戦争犠牲者援護費が加わる。2022年度(令和4)一般会計当初予算において広義の社会保障関係費は歳出総額の33.8%を占めており、最大の歳出項目となっている。
(1)の生活保護費は、ほとんど、地方公共団体が支出する保護費に対する国の補助であるが、2000年代に入ってから、高齢化と不況の深刻化に伴い、生活保護費は急増しつつある。また、社会福祉費の中心は老人福祉費であるが、このほか国民年金特別会計から支出される老齢福祉年金などとあわせて広義の老人福祉費を構成する。(5)の中心は雇用保険である。社会保障費中で最大のものは(2)であり、従来の公的年金(厚生年金、国民年金)と国民健康保険に、2001年(平成13)4月新たに介護保険が加わった。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
第二次世界大戦後、先進国の多くは福祉国家への道を選んだ。その結果、社会福祉水準は著しく上昇したが、1973年のオイル・ショック前後から、社会保障費増大→税・保険料負担増大→民間経済圧迫と、これに伴う財政赤字増大に各国とも悩まされるようになり、社会保障制度(とくに公的年金)の見直しと縮小が行われるようになった。
社会保障の収入・支出関係には、積立方式と賦課方式がある。前者は税・保険料で得た収入を基金に積み立てて運用した収益から年金等を支払うものである。後者は基金がなく、働いている人から税・保険料をとり、それを直接年金として支払うものである。1980年代、アメリカの大統領レーガンはレーガノミクスといわれる経済政策を展開したが、それはアメリカの経済停滞の原因の第一が過少貯蓄であり、それをもたらしたものの一つに社会保障の賦課方式があるとするものであった。すなわち働いている人と企業から徴収される社会保障税が、そのまま老人に支払われる結果、マクロ的に前者でなされた貯蓄が後者で消費されるためであるとした。このため自助による積立方式、すなわち働いているうちに私的に貯蓄積立てした累積を、引退後に個人年金として受け取ることを奨励した。レーガノミクスは、こうして福祉国家から、財政規模の小さい民間経済の活力を生かす効率国家への転換を目ざしたもので、社会的公正より経済的効率を重視したものといえよう。同様の改革はイギリスの首相サッチャーによっても行われた。
日本の社会保障制度は、田中角栄内閣によって、福祉元年として1973年度(昭和48)に大幅に拡大され、以後、歳出予算の当然増経費となった。その後、オイル・ショック以降の低成長のため税収は停滞し、財政赤字が拡大した。さらに高齢化社会の到来による年金と医療費の増大は、積立方式から賦課方式への転換を必至として、1985年度の社会保障制度の大改訂を出発点に、以後、各種社会保障給付水準の引下げと国民負担増大の方向に向かいつつある。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
国民の租税負担を示すものとして、その国民所得に対する租税負担率がある。同様に社会保障負担の国民所得に対する社会保障負担率があり、両者を合計したものを国民負担率という。日本の国民負担率は2021年度の推計で、前者25.4%、後者18.9%、計44.3%である。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は2019年には28.4%であるが、この比率の上昇に伴い、前者はともかく、後者はしだいに増大していくであろう。なお、主要国とかりに比較してみると、2018年で、アメリカでは前者が23.4%、後者が8.4%、計31.8%、イギリスでは前者が37.0%、後者が10.8%、計47.8%、ドイツでは前者が32.1%、後者が22.8%、計54.9%、フランスでは前者が42.7%、後者が25.6%、計68.3%である。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
『健康保険組合連合会編『社会保障年鑑』各年版(東洋経済新報社)』▽『国立社会保障・人口問題研究所編『社会保障統計年報』各年版(法研)』
社会保障制度の実施に要する費用をいう。これには直接に受給者に対して現金または現物の形で支給される給付費のほかに,施設の整備費,運営費や事務費が含まれているが,ふつう給付費をさしている場合が多い。社会保障費は,疾病,老齢,遺族,障害,貧困などの事故別や,公的扶助,社会保険,公共保健サービスなどの制度ないし仕組みの種類別,もしくは健康保険,厚生年金保険,船員保険など個々の制度別,医療,年金,その他など給付内容の種類別に分類されて作成され発表されているが,社会保障の定義や範囲,分類方法などはそれぞれの国際機関や各国政府によってまちまちで,必ずしも一様ではない。このためILOは,第2次大戦後,社会保障費についての統一基準を設定し,加盟国に質問表を出し,これを集計して1952年から《社会保障の費用The Cost of Social Security》として3年ごとに結果を公表している。日本では社会保障制度審議会による《社会保障制度に関する勧告》(1950)において将来の社会保障制度の体系を示したことから,そのための費用と財源調達の財政計算が必要になり,59年に《社会保障統計年報》が同審議会事務局から創刊され,以来,細目にわたる統計年報が公表されている。
現在公表されている社会保障費の代表的な統計には,前出のILO〈社会保障の費用〉のほか,厚生省の社会保障給付費,社会保障制度審議会事務局の社会保障費,経済企画庁〈国民経済計算〉における社会保障費がある。また国の一般会計における〈社会保障関係費〉があるが,これは社会保険や児童手当に対する国の負担金や補助金,個人に対する扶助費や手当,国の直轄する社会福祉施設の費用などであり,社会保障費の一部にすぎない。
社会保障費の対国民所得比は1960-70年代の20年たらずの間に2~3倍に急増したが,その中心をなしているのは年金(表)である。これは人口高齢化と年金保険の成熟化による当然の帰結であり,日本も81年には,ついに年金が医療を追い越して首位につき,先進国型の社会保障に移行した。財源構造では,社会保険型の国で国庫負担やその他公費負担の構成比が相対的に高まり,公共サービス型の国で保険料の構成比が相対的に高まるなど,低経済成長のもとで財源構造にも部分的な調整傾向が現れている。人口高齢化による社会保障への需要の増大と,低成長による社会保障の供給の停滞をどう調整していくか,社会保障の政策目標,社会保障と関連諸政策との相互調整等について,各国が大きな課題に直面している。
→社会保障
執筆者:地主 重美
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