訴状(読み)ソジョウ

デジタル大辞泉 「訴状」の意味・読み・例文・類語

そ‐じょう〔‐ジヤウ〕【訴状】

民事訴訟で、訴えを提起するときに、当事者法定代理人、請求の趣旨および原因などを記載し、第一審裁判所に提出する書面。
中世の訴訟で、訴人(原告)が訴えの趣旨を書いて幕府や領主に提出した文書。申し状。→陳状

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精選版 日本国語大辞典 「訴状」の意味・読み・例文・類語

そ‐じょう‥ジャウ【訴状】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 訴えごとを記した文書。
    1. (イ) 訴訟を起こすとき、裁判所に提出する文書。
      1. [初出の実例]「官司准其訴状。即下推不給所由。然後断決」(出典:令義解(718)公式)
      2. [その他の文献]〔宋書‐文五王伝〕
    2. (ロ) 中世、訴人が訴訟を起こす手続きとして、証拠文書などをそえて幕府の賦(くばり)奉行方に提出した文書。その書式は法で定められてはいなかったが、おおよそ類似の様式によっている(沙汰未練書(14C初))。申状・解状(げじょう)・目安ともいう。また最初の訴状を本解状・初問状、二回目の訴状を二問状、三回目のを三問状といい、二問状以下を重訴状・重申状という。⇔陳状(ちんじょう)訴陳状
      1. [初出の実例]「右就訴状、遣召文事、及三ケ度 猶不参決者、訴人有理者、直可裁許」(出典:御成敗式目(1232)三五条)
    3. (ハ) 願いごとをするとき、領主、支配者などに提出する書付け。願書。嘆願書。
      1. [初出の実例]「以此時彼二人赦免之事。自門中訴状之」(出典:蔭凉軒日録‐寛正六年(1465)二月一五日)
  3. 民事訴訟で、訴えの趣旨を記載して裁判所に提出する書面。〔民事訴訟法(明治二三年)(1890)〕

訴状の語誌

( 1 )文書様式としてのは「解(げ)」の系統を引くものである。書出しは「何某謹言上」「何某謹訴申」などで、書止めは「言上如件」「訴申如件」などが多い。宛名は書かないのが普通であるが、時代が下ると共に差出人名・宛名を記したものが多くなる。南北朝時代以後は、書出しに「目安」と記し、書止めに「目安言上如件」と記すものが見られるようになる。
( 2 )鎌倉幕府の訴訟制度では訴人が訴状を提出すると、被告人にそれに対する反論を書いた陳状の提出を求めた。この訴状・陳状の提出を三回ずつ行ない、理非を判断し、裁許状を発給した。裁許に対する再審請求の訴えを越訴(おっそ)状という。
( 3 )近世になると願書の形式をとり、書出しは「乍恐書付を以御訴訟申上候」、書止めは「乍恐可奉申上候、以上」などと記したものが多く、日下に差出人名を記し、宛名を明記している。したがって内容によって願書と訴状の区別をすることになる。

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改訂新版 世界大百科事典 「訴状」の意味・わかりやすい解説

訴状 (そじょう)

民事訴訟を提起する際に原告が管轄第一審裁判所に提出しなければならない書面(民事訴訟法113条1項)。これに対し,刑事訴訟検察官が公訴を提起する際に裁判所に提出する文書は,起訴状と呼ばれる。訴えの提起には,訴状に法定の事項を記載し(民事訴訟法133条2項),その作成者である原告またはその代理人が署名(または記名)押印し(民事訴訟規則2条),〈民事訴訟費用等に関する法律〉により訴額に応じた収入印紙をはり,被告の数だけの副本を添えて管轄裁判所に提出しなければならない。訴状が提出されると,事件を配付される裁判官(単独制)または合議体合議制)の場合はその裁判長が訴状を点検する。訴状に不備な点があれば,裁判官または裁判長が相当の期間を定めて原告に訴状の補正を命じる(137条)。裁判長はこの補正を促す場合に,裁判所書記官に命じて行わせることができる(規則56条)。補正に応じない場合,原告の訴状は受理されない。不備のない訴状は受理され,書記官によって副本が被告へ送達される。そのときに,裁判官または裁判長は口頭弁論期日を指定し,当事者双方を呼び出す(139条)。

 訴状には,だれが(原告)だれに対して(被告),どのような請求をするのかを記載するのであるが,具体的に何を記載しなければならないか,また,何を記載してもよいかは法定されている(133条2項)。記載しなければならない事項(必要的記載事項)は,(1)当事者および法定代理人,(2)請求の趣旨,(3)請求の原因,である。(1)については,原告またはその代理人の郵便番号,電話番号,ファクシミリ番号を記載しなければならない(規則53条4項)。(2)の請求の趣旨とは,訴えによって求める審判の内容の簡潔かつ確定的な表示のことであり,例えば,〈被告は原告に金100万円を支払えとの判決を求める〉などと表示される。(3)の請求の原因とは,請求を特定するに必要な限度の事実関係のことである。これらのほか,訴状には,請求を理由づける事実を具体的に記載し,かつ,立証を要する事由ごとに当該事実に関連する事実で重要なものおよび証拠を記載しなければならない(民事訴訟規則53条1項)。訴状に事実についての主張を記載するには,できる限り,請求を理由づける事実についての主張と,当該事実に関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない(53条2項)。さらに,証拠となるべき文書で重要なものの写しを添付しなければならない(55条2項)。不動産事件には登記簿謄本人事訴訟には戸籍謄本,および手形小切手事件には手形または小切手の写しを訴状に添付しなければならない(55条1項)。これら訴状の記載内容は,訴訟上は,請求の正当性を法律的に理由づける攻撃方法の提出を準備する意味を持ち,準備書面の記載と同じ取扱いを受ける(53条3項)。その他,訴状には,訴訟要件(管轄など)を基礎づける事実や証拠方法等が記載されるのが通常である。なお,簡易裁判所での訴えの提起においては,訴状の提出に代えて口頭で訴えを提起することができる(民事訴訟法271条)。しかも,〈請求の原因〉に代えて〈紛争の要点〉を明らかにすれば足りる(272条)。これは,原告が代理人を立てずに本人で訴え提起をすることを容易にするための制度である。
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訴状 (そじょう)

日本の古文書の一様式。一般に,自己の権利の正当性とその他者による侵害の排除を訴えて,上級の人格または機関に提出する上申文書。とくに中世,訴人(原告)が朝廷,幕府,本所などの裁判機関に提出した訴状が重要である。陳状とあわせて訴陳状という。その書式は,本来は解状の形式をひくが,多く書出しに〈某謹言上〉〈某謹訴申〉と記し,書止めに〈仍粗言上如件〉〈訴申如件〉などと記す申状の形式をとり,論人(被告)の名,対象となる物権や事柄,副進される証拠文書,訴訟理由などが列記される。書出しに差出者を記すので最後の日付の下に差出者を記さないこと,宛所(あてどころ)がないことなどが本来的な特徴である。また,中世の裁判では,三問三答といわれるように数回の訴陳状の応酬があるのが普通で,最初の訴状を本解状,初問状,2回目と3回目を二問状,三問状,後者を総じて重訴状,重申状といった。訴状が提出されると,担当の役人・奉行の確認(裏封などの形をとった)を経て,論人に交付された。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「訴状」の意味・わかりやすい解説

訴状(民事訴訟)
そじょう

民事訴訟において、訴えを提起するにあたり、第一審の裁判所に提出する書面のこと。刑事訴訟における起訴状にあたる。

 民事訴訟において裁判所に訴えを起こすには訴状を提出しなければならない(民事訴訟法133条1項、例外271条)。訴状には、法定の記載事項である当事者・法定代理人、請求の趣旨および原因などを記載しなければならない(同法133条2項)。また、訴状には、訴訟物の価額に応じて手数料を納付し、印紙を貼(は)らなければならない。不適式な訴状で欠缺(けんけつ)の補正できないものは裁判長の命令で却下される(同法137条)が、適式な訴状であれば、これ(副本)を被告へ送達しなければならない(同法138条)。

[内田武吉・加藤哲夫]


訴状(中世)
そじょう

中世の訴訟制度において、訴人(原告)が訴訟を起こすために提出する文書。証拠文書(具書(ぐしょ)案)が添えられた。解状(げじょう)、申状(もうしじょう)、目安(めやす)ともいう。書式は一定していないが、書き出しは「某謹言上(つつしんでごんじょうす)」「某謹訴申(つつしんでうったえもうす)」「某謹申(つつしんでもうす)」などで始められ、書き止めは「言上如件(くだんのごとし)」「申状如件」「訴申如件」などと記された。用紙はときに折紙(おりがみ)もあるが、普通、竪紙(たてがみ)が用いられた。中世の裁判は当事者主義的傾向が強く、訴人と論人(ろんにん)(被告)の文書を通しての応酬(訴陳(そちん)に番(つが)う)が重要な位置を占めたが、幕府法ではそれが3回まで認められた(三問三答。公家法は2回)。最初の訴状は本(ほん)解状・初問状、2回目は二問状、3回目は三問状といい、二問状と三問状は重訴状(かさねそじょう)あるいは重申状(かさねもうしじょう)ともいわれた。再審を請求する越訴(おっそ)状、裁判手続上の過誤を訴える庭中(ていちゅう)申状もある。

[黒田弘子]

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百科事典マイペディア 「訴状」の意味・わかりやすい解説

訴状【そじょう】

訴えの提起に際し,第一審裁判所に提出する書面(民事訴訟法133条)。ただし,簡易裁判所では口頭の提起も認められる。訴状には,紛争当事者,法定代理人を表示するとともに,原告の権利主張(請求)および紛争の実情を〈請求の趣旨〉と〈請求の原因〉に分けて記載するほか,準備書面の記載事項を記載し,この紛争解決のための手数料として,一定額の印紙をはる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「訴状」の解説

訴状
そじょう

裁判機構に対して訴訟をおこした者が提出する上申文書。公式令(くしきりょう)に定める上申文書の様式である解(げ)の系譜を引くもので,そのため充所(あてどころ)が書かれない場合が多い。用紙は原則として竪紙(たてがみ)を用いた。鎌倉幕府の訴訟制度では,訴状を受理した奉行人は,これに署判を加えて訴えられた相手方に下し,反論の上申文書(陳状(ちんじょう))を提出させ,これを3回くり返した。1回目の訴状を本解状(ほんげじょう),2回目・3回目の訴状をそれぞれ二問状・三問状とよんだ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「訴状」の意味・わかりやすい解説

訴状
そじょう
Klageschrift

民事訴訟法上,訴えの提起に際して裁判所に提出される書面。当事者,法定代理人,請求の趣旨および原因が記載されなければならない。訴状が提出されると,受訴裁判所の裁判長が必要的記載事項の有無を審査し,欠缺があればその補正を命じる。もし原告がこの補正命令に応じず欠缺が補正できない場合は,裁判長は命令をもって訴状を却下する。訴状が適式であれば,被告に送達され,訴訟手続が進められる。

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普及版 字通 「訴状」の読み・字形・画数・意味

【訴状】そじよう

訴訟の書。

字通「訴」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の訴状の言及

【裁判】より

…守護大名,戦国大名,国人の裁判のなかには〈調停〉の意味が濃い場合があり,近所之儀などと称される紛争解決原理となっている。重要なことは,中世では訴えが提起されたとき,裁判権者がその訴えに理ありと認めればただちに判決する手続(入門(いりかど)という)があり,訴状の右余白に承認文言を記す(外題(げだい))ような解決法があり,被告がこれに承服しないとき初めて理非の審理に入る方向が生ずる。鎌倉幕府下で緻密詳細な訴訟=裁判の手続法が展開するのは,中世の裁判の一側面なのであり,すべてをおおうものではない。…

【所務沙汰】より


[訴訟手続]
 原告を訴人,被告を論人,訴象対象地を論所という。訴人は訴状を提出し,問注所の所務賦(しよむのくばり)という担当奉行が形式的な要件の欠陥を審査したうえで受理し,賦双紙(くばりそうし)という帳簿に登録し,訴状(申状ともいう)に銘を加え(折りたたんだ訴状の端の裏の部位に案件を示す見出しと年号月日の数字を書くこと),引付方に送付して,訴が裁判所に係属したことになる。訴状が受理されると,裁判所は論人あてに問状(といじよう∥もんじよう)を発して答弁を求める。…

【返答書】より

…江戸幕府の民事裁判手続(出入筋(でいりすじ))における被告(相手方)の答弁書。訴状(目安(めやす))に裁判所の裏書(目安裏書,目安裏判(うらはん))が与えられ,これが原告(訴訟人)の手によって相手方のもとに送達されると,相手方は目安の内容に対する反駁を書面に記して裁判所に提出しなければならない。この書面が返答書で,通常は〈差日(さしび)以前着届(ちやくとどけ)〉(出廷期日の前に出府,到着した旨の届出)の際に目安とともに提出する。…

※「訴状」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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