電気を熱源とした炉で,現在金属工業や化学工業の方面に広く利用されている。電源には単相または三相の交流が用いられている。電気炉は燃料炉に比べ,非常な高温に到達させることができる点や操業が容易である点がすぐれている。電気炉は原理的には電気エネルギーを熱に変換して被熱体にそれを伝えるものであり,熱を伝える方式により,抵抗炉,アーク炉,誘導炉の三つに大別できる。
抵抗体に電流を流して発熱させる方式の電気炉で,直接抵抗炉と間接抵抗炉とがある。直接抵抗炉は被熱体自身が発熱体となるもので,図1-aのような構造をもっている。この炉では被熱体の周辺に熱・電気の絶縁材を充てん(塡)して熱の散逸と電流の迷走を防いでいる。人造黒鉛の製造炉はこの型に属する。間接抵抗炉は発熱体が被熱体とは別にあって,発熱体の熱が被熱体に伝わって加熱が行われる炉で,図1-bの(1)に炭化ケイ素の製造に用いられる炉,bの(2)に金属加工,ホウロウ加工などに用いうる炉を示す。
電弧炉ともいう。電極間または電極と被熱体の間にアークを飛ばし,その熱によって直接または間接に加熱を行う方式の炉で,放射式アーク炉,直接アーク炉,アーク抵抗炉がある。放射式アーク炉は図1-cのように被熱体の上部にアークをつくり被熱体を加熱するものである。直接アーク炉は図1-dの(1),(2)のように被熱体が電極の一つとなるもので,製鋼や合金鉄製造に最も広く用いられている。またアーク抵抗炉は図1-eのように電極を被熱体に深く挿しこんで電流を流す方式で,アークの熱だけでなく原料の抵抗加熱も相当ある。合金鉄の製造に用いられる。
低周波誘導炉は図1-fのように,変圧器の二次側にあたる部分に金属被熱体を置いたもので,高周波誘導炉は一次側のコイルに高周波電流を流して二次側の被熱体に渦電流を誘起して加熱するものである(図1-g)。高周波誘導炉は高級鋼の製造や非鉄金属の融解などに用いられる。
執筆者:笛木 和雄
屑鉄を原料にして鋼をつくる製鋼炉として最も広く利用されているのはエルー式アーク炉と高周波誘導炉である。エルー式アーク炉(図2)は直接アーク炉の一種で,単にエルー炉ともいう。1900年フランスのP.L.T.エルーによって発明された炉で,06年4t炉をアメリカでつくり,鋼の溶解を始めた。これがアーク炉を工業的に使用した最初である。円形または角形の炉殻を酸性または塩基性の煉瓦で内張りした構造になっている。2本または3本の電極を天井から垂直に挿入し,屑鉄を通してアークを発生させ,そのアーク熱と抵抗熱によって屑鉄を溶解させる。電極の昇降操作が容易であり,鋼浴の温度調節が自由で,熱効率がよく,耐火物の寿命が比較的長い。1回の製鋼量は5~150tの炉が多い。高周波誘導炉(図3)はアメリカのノースラップE.F.Northrupが誘導熱を利用する炉を研究し,16年にその構想を発表して無鉄心高周波誘導炉の基礎をきずいた。この炉では予定成分の鋼が容易に溶製できるので,高合金鋼の製造に使われる。容量は50kgから10tのものが多い。誘導炉を真空中に設置して溶解精錬する方法をVIM(vacuum induction melting)法と呼んでいる。
一般に電気炉法は,他の製鋼法たとえば転炉法および平炉法などに比べて,生産費は高くつくが優良鋼ができるため,特殊鋼および高級炭素鋼製造に用いられていたが,最近では,設備費が安いこと,屑鉄の品質に左右されないことから,普通鋼にも用いられはじめている。電気炉鋼は各種ステンレス鋼,耐熱鋼,構造用合金鋼,工具鋼,特殊合金鋼として,化学工業,自動車工業,航空機工業,機械工業などにおいて使用されている。
日本で最初の電気炉製鋼は,1908年松本市において,土橋長兵衛の独学の研究と実験により開始され,工具鋼および合金鋼が製造された。大量の電力を消費する電気炉製鋼が松本で開始された背景には,余剰電力を有効に利用しようとする意図があった。その後の特殊鋼の需要の増大に応じ,電気炉法は短期間に広く採用されていった。転炉法が平炉法を完全に駆逐したあとも,電気炉法は鋼生産量の一定比を占め,転炉法とその特徴を補足し合いながら着実にその役割をはたしている。
執筆者:宮下 芳雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電気エネルギーを熱源として加熱する炉で、実験室だけでなく、金属、機械、化学工業、窯業をはじめ広く用いられている。広義の電気炉を加熱方式で分類すると、抵抗炉、アーク炉、誘導炉、電子ビーム炉および熱放射を利用した炉などになる。一般に電気炉は、燃料を用いる燃焼炉に比べ、廃ガスの発生がなく炉内雰囲気の制御が容易であるとともに、温度制御などの操作も非常に容易で自動化しやすい。一方、電気エネルギーの熱への変換効率は悪く、高価であり、大規模な工業炉では電力費が問題となる。
[井口泰孝]
電気抵抗体に電気を流すときに発生するジュール熱によりこれ自体を加熱し、その熱で被熱物を加熱する。空気中で1200℃以下で使用される一般的な発熱体にはニッケル‐クロム、鉄‐ニッケル‐クロム、および鉄‐クロム‐アルミニウム合金がある。これ以上の温度では白金、白金‐ロジウム合金、炭化ケイ素、二ケイ化モリブデン、ランタンクロマイトがある。これらは1500~1900℃が限度であるが、さらに高温では小規模であるがジルコニア、トリアなどがある。真空中または非酸化性雰囲気ではモリブデン、タングステン、タンタルなどの高融点金属や黒鉛が使われ、実験室的には2000℃以上の高温炉もある。金属発熱体は加工が容易で、線、棒、板、メッシュ、円筒状など任意の形状のものが得られるが、非金属発熱体は、棒状、円筒状など一定の形状である。
以上は間接抵抗炉であるが、被熱物に直接電流を流し、そのジュール熱で加熱する直接抵抗炉もあり、カーバイド、人造黒鉛の製造、高融点金属の粉末成形品の焼結などに用いられる。
[井口泰孝]
黒鉛電極間または電極と被熱物との間でアークを発生させ、その熱により目的物を加熱する。間接アーク炉、直接アーク炉、アーク抵抗炉などがあり、大容量のものが多く、工業的に非常に広く使われている。また、不活性気体の高温プラズマを用いたプラズマアーク炉も工業的に特殊用途に用いられている。
[井口泰孝]
電磁誘導により、コイル内の電導性の被熱物または容器に電流を誘起させ、この渦電流によるジュール熱で加熱する抵抗加熱の一種である。金属、非金属の溶解、熱処理などに用いられる。
[井口泰孝]
高電圧で加速した電子を被熱物に衝突させること(電子衝撃electron bombardment)により局部的に高温が得られる。高融点物質の溶融や真空蒸着などに利用されている。タングステンのフィラメントを用い、対極として被熱物あるいはタンタルるつぼなどが用いられる。ただし試料の雰囲気は高真空である。アーク炉と違い制御は容易である。
[井口泰孝]
太陽炉と同じ原理、すなわち発熱部と試料のある炉の部分とが離れている形式の炉であるので、試料部の雰囲気調整は容易である。熱源として赤外線ランプを用いる赤外線イメージ炉では1400℃の温度が得られるものもある。炭素アークを用いるアークイメージ炉では3000℃以上の超高温が得られる。これらは回転放物面をもつ反射鏡あるいはレンズを利用して集光し、焦点に設置した試料を加熱する。本法は急熱、急冷が非常に簡単に行える。反応容器は透明石英を用いることが多く、加熱中の試料の状況を観察することが可能である。
[井口泰孝]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
電気エネルギーを用いた加熱炉の総称.その加熱方法は数多くあり,ニクロム線や炭化ケイ素などの抵抗体に通電して発熱させる抵抗加熱炉,アークにより加熱するアーク炉,高周波や低周波の誘導電流により加熱する誘導炉,プラズマにより加熱するプラズマ炉など,多くの形式のものが広く種々の工業分野において用いられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…すなわち製銑については,高炉の容量がますます大型化して有効内容積5000m3級の高炉が出現し,装入原料の整粒,後述する自溶性焼結鉱,ペレットの利用などの予備処理の強化,高温送風,酸素富化,送風調湿,さらに羽口からの燃料吹込み,高圧操業などが実施され,計測技術と計算機導入などと相まって,高炉の安定操業,生産性が著しく向上した。 製鋼技術では,工業用低廉酸素の利用により,酸素製鋼法が急速に普及し,平炉・電気炉への酸素の利用も著しく,従来の鉱石法では望みえなかった極低炭素までの脱炭が可能となり,燃料,電力原単位の低減,生産性の向上に大きな寄与をした。さらに転炉への酸素の利用は純酸素上吹転炉製鋼法(LD法)に発展し,従来の転炉鋼品質の改善,設備費・作業費の軽減と相まって,平炉法に代り製鋼法の主流となった。…
※「電気炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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