先天性甲状腺機能低下症(読み)せんてんせいこうじょうせんきのうていかしょう(クレチンしょう)(その他表記)Congenital hypothyroidism (Cretinism)

六訂版 家庭医学大全科 「先天性甲状腺機能低下症」の解説

先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
せんてんせいこうじょうせんきのうていかしょう(クレチンしょう)
Congenital hypothyroidism (Cretinism)
(子どもの病気)

どんな病気か

 生まれつき甲状腺のはたらきが弱い病気で、重症から軽症まで症状の出方はさまざまです。発生頻度は出生児3000~5000人に1人と推測されています。

原因は何か

 胎児期に発生の異常で甲状腺が無形成や低形成に陥ったもの(欠損性)、舌根部(ぜっこんぶ)などにとどまったもの(異所性(いしょせい))、甲状腺ホルモン合成の障害(甲状腺腫性(こうじょうせんしゅせい))があります。まれに中枢性(下垂体性(かすいたいせい)視床下部性(ししょうかぶせい))の機能障害によるものもあります。近年、原因遺伝子の検索が進んでいます。

症状の現れ方

 新生児期早期には黄疸(おうだん)遷延(せんえん)(持続)、便秘臍(さい)ヘルニア巨舌(きょぜつ)、かすれた泣き声手足の冷感などがあり、長期的には知能低下発育障害が問題になります。現在日本では、新生児マススクリーニングが行われており、症状が現れる前にほとんどが発見されます。ただしマススクリーニングで発見できない症例TSH遅発上昇型など)の報告もあります。

検査と診断

 生後5~7日に、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定によるマススクリーニングが行われます。遊離サイロキシン(FT4)の測定を同時に行う地域もあります。TSHが高値であると、再採血あるいは精密検査になります(図52)。精密検査では、TSH、FT4などの再検査、大腿骨遠位端(えんいたん)骨格X線検査図53)、甲状腺の超音波検査(図54)などを行います。

 一過性甲状腺機能低下症との区別のため、母親の甲状腺疾患(母親がバセドウ病の場合には抗甲状腺薬内服の有無)、胎児造影、イソジン消毒、コンブの食べすぎなどによるヨード大量曝露(ばくろ)の有無などの確認が重要です。

治療の方法

 生後2カ月以内の甲状腺機能は知能予後に極めて重要と考えられるので、機能低下が疑われればまず治療を開始することが基本です。1日1回甲状腺ホルモン薬のレボチロキシンナトリウム(チラーヂンS錠、散、10~15㎍/㎏/日より開始、成人では2~3㎍/㎏/日で維持)の内服を行います。病型診断は、3歳以後にいったん内服を中止して、123I甲状腺摂取率、シンチグラム唾液/血液ヨード比、ロダンカリ放出試験などによって行われます。

病気に気づいたらどうする

 マススクリーニングで精密検査の通知が届いたら、すみやかに指定された医療機関を受診します。

杉原 茂孝



先天性甲状腺機能低下症
せんてんせいこうじょうせんきのうていかしょう
Congenital hypothyroidism
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 生まれつき甲状腺が十分に形成されなかったり、甲状腺ホルモンを合成する過程に先天性の異常があったりして、甲状腺ホルモンが不足する病気です。

症状の現れ方

 甲状腺ホルモンは、新生児期から乳幼児期にかけては脳の発育に必須であり、これが不足すると知的発達の障害を来します。また、甲状腺ホルモンは骨、肝臓など、体の多くの臓器・組織の機能を維持するのに重要です。そのため、生まれた時から甲状腺ホルモンが不足していると、知的障害のほか、活動性の低下、低体温、心拍数の減少・心機能の低下、遷延性黄疸(せんえんせいおうだん)哺乳(ほにゅう)不良、体重の増加不良などの症状を示します。

 新生児期に発見されて治療を受けないと、知的障害や低身長などの成長発達障害を示します。この状態になったものはクレチン病と呼ばれ、治療しても完全には正常になりません。したがって何よりも、早期の診断と適切な治療開始が必須になります。

検査と診断

 現在、日本では先天性甲状腺機能低下症の早期発見のための検査が、新生児マススクリーニングに組み込まれています。生後3~5日めの新生児の足の裏のかかとから少量の採血をして乾燥濾紙(ろし)に染み込ませたあと、この血液を検査センターに集めて甲状腺刺激ホルモン(TSH)を検査します。この検査でTSHが異常に高ければ、先天性甲状腺機能低下症の可能性があるので再検査になり、さらに疑いが強くなれば小児内分泌科専門医の診察を受けます。

治療の方法

 甲状腺ホルモンの服用だけで大丈夫です。甲状腺機能低下症の臨床症状が出る前に治療が開始されれば、知能に関しても正常な甲状腺機能をもつ子どもと変わりなく育つことがわかっています。

病気に気づいたらどうする

 先天性甲状腺機能低下症の発生頻度はおおよそ出生数4000人に1人ですが、現在では新生児マススクリーニングにより早期に発見されるので、知能障害を起こすような症例はまれになりました。内分泌専門の小児科医にかかるのがよいでしょう。

阿部 好文


先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
せんてんせいこうじょうせんきのうていかしょう(クレチンしょう)
Congenital hypothyroidism
(遺伝的要因による疾患)

どんな病気か

 先天的な甲状腺ホルモンの不足のために、体の発育や知能が障害される病気です。甲状腺が母胎内でうまく形成されない場合や、甲状腺ホルモンを合成する酵素の異常によって発症します。

症状の現れ方

 新生児期をすぎると不活発、便秘嗄声(させい)(しわがれ声)、巨舌(きょぜつ)臍(さい)ヘルニア、低体温、乾燥肌などの症状を示し、やがて、低身長、特有の顔貌(がんぼう)、知能障害が認められるようになります。

治療の方法

 甲状腺ホルモン薬の早期治療により、知能障害を予防することが可能です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典(旧版)内の先天性甲状腺機能低下症の言及

【クレチン病】より

…先天性甲状腺機能低下症のことで,甲状腺ホルモンが先天的に不足している疾患。日本での頻度は出生5000~6000人に1人とされている。…

※「先天性甲状腺機能低下症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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