対象喪失(読み)たいしょうそうしつ(その他表記)object loss

知恵蔵 「対象喪失」の解説

対象喪失

かけがえのないものを失うこと。それをどう体験するかが、メンタルヘルスにとっては重要である。愛情や依存対象の喪失(肉親との死別離別失恋子離れ、ペットの死等)、慣れ親しんだ環境の喪失(引っ越し、転校、卒業、転勤等)、身体の一部の喪失(手術や事故等)、目標や自己イメージ、所有物の喪失など、あらゆる事柄が含まれる。時間と共に心が整理されていくプロセスを、フロイト悲哀の仕事と呼んで正常と異常の研究の端緒を開き、ボウルビーは悲哀の心理過程(喪失への抗議、絶望、離脱)を乳幼児などの観察に基づいて研究した。キューブラー・ロスは、末期患者の心理的ケアに取り組み、死の受容に類似した過程を見出した。被災者や被害者の心理的な援助にも、悲哀の理解が必要。嘆き悲しむことができないと、精神的な問題が起こる要因となる。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内の対象喪失の言及

【悲しみ】より

…この対象は人物の時に強く現れるが,仕事とか生き甲斐,自分の身体等も含まれる。対象喪失にさいし,最初は,怒りや事実を否認することで対処しようとするが,それがどうしようもない事実として認めざるをえなくなった時に,無力感とともに悲しみが生じてくる。S.フロイトは,対象を失った危機を克服するのには,〈悲哀の仕事〉と呼ばれる悲しみを十分に表現できる作業が必要であると述べている。…

【精神分析】より

…しかしこのようなリビドー経済論的な見方は,現代の精神分析学においてはそれほど重視されてはいない。とはいえ対象喪失によって自我に戻ったリビドーが,捨てられた対象と自我との同一化をつくり出すために用いられるとした彼の鬱(うつ)病論は,今日広範な意義を獲得するにいたった対象喪失の精神力動学の基礎をなす考えである。 エロスに対立する一方の本能は,破壊本能すなわち〈死の本能〉である。…

※「対象喪失」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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