世界大百科事典(旧版)内の幕離れの言及
【幕】より
… 演劇学者の郡司正勝は,〈幕のもっとも古い形は,もと注連縄(しめなわ)であったのだとおもう〉という重要な指摘を行い,そのような系譜のなかに,注連を染め出した山伏神楽の〈注連幕〉から,勧進田楽,猿楽などの〈水引幕〉,能の揚幕,さらには歌舞伎の引幕までを位置づけているが,郡司によれば,〈幕は見物の前をさえぎるものでなく,幕は登場してくるものが,それを力としてそれをうしろに出現するもの〉であったという(〈創造への形式――演出と演技の発想――〉,《かぶきの発想》(1959)所収)。そして,このように幕に対する特殊な感情があったがゆえに,いわゆる〈幕離れ〉にはいろいろな演出が考えられた。たとえば,能の《船弁慶》における後ジテ知盛の亡霊の出には,まず半幕(半分ほどの高さまで巻きあげる)にしてその姿をみせ,〈あら珍しやいかに義経〉と子方を見てからそこでいったん幕をおろし,ふたたび幕の全体をあげて早笛(はやふえ)の囃子(はやし)に乗って一気に走り出る,という演出がしばしば行われる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」