慢性化膿性中耳炎

EBM 正しい治療がわかる本 「慢性化膿性中耳炎」の解説

慢性化膿性中耳炎

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 慢性化膿性中耳炎(まんせいかのうせいちゅうじえん)は、中耳におきた炎症が長引いて慢性化したもので、急性の化膿性中耳炎治療が遅れたり、完全に治っていなかったりした場合におこります。
 中耳のなかで感染の範囲は広がっていきますが、激しい痛みはさほどなくなります。耳漏(じろう)(膿(うみ)の混じった耳だれ)がくり返しみられるのがおもな症状となり、鼓膜(こまく)に穿孔(せんこう)(穴が開くこと)ができるため低音が聞き取りにくいタイプの難聴(なんちょう)が現れ、これがゆっくりと進行していきます。
 治りきらないまま炎症が数週間にわたって続いているため、その間にかぜをひいたり、細菌感染が重なったりすると炎症が再び激しくなり、症状が悪化するといった状態をくり返すことが少なくありません。このような状態が続けば、いずれは鼓膜から内耳(ないじ)に音を伝える耳小骨(じしょうこつ)が侵されることになりかねません。
 抗菌薬で感染を抑えますが、症状が軽減したら、手術によって鼓膜の穴を修復することが勧められます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 細菌感染による中耳炎で適切な処置が遅れたり、痛みや耳漏が少なくなったりしたことで患者さん(あるいはその家族)が治ったと思って治療を放置した場合など、治療が不完全であることがおもな原因となります。また耳のけがによって鼓膜に穴が開いた場合にもおこります。少量であっても耳漏がくり返しでるということは、炎症が完全におさまっていないことを示しています。完治するまできちんと治療を続けることが大切です。鼓膜の穿孔は少しずつであっても拡大し、それによる難聴も進行することになります。

●病気の特徴
 子どものころ(就学前)にこのような慢性化する中耳炎が治りきらずに、両側の耳で難聴をおこしてしまうと、言葉の障害がおこってくることもあるので注意が必要です。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]原因となっている菌を特定し、適切な抗菌薬を用いる(1)~(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 慢性化膿性中耳炎では、点耳の抗菌薬が第一選択であることが質の高い臨床研究によって確認されています。経口の抗菌薬は、初期の治療の効果がない場合にも、有効性が明らかではありません。全身的な投与は原因となる菌が耐性菌となってしまい、薬が効かなくなることも考慮しなくてはなりません。確実な効果をもつ抗菌薬の選択が必要になります。

[治療とケア]鼓室(こしつ)を洗浄する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 鼓室の洗浄が有効であることを示す信頼性の高い臨床研究は見あたりません。しかし、原因となっている細菌の量を減らす目的のために行われることもあり、専門家の意見や経験から支持されています。(5)(6)

[治療とケア]感染した場所(感染巣)を手術によって除去する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 合併症を伴わない場合には、感染巣を除去する手術は最近では行われなくなりました。手術と手術以外の方法とでは結果に差がないことが、いくつかの臨床研究で確認されています。(10)

[治療とケア]症状が軽くなったら、鼓膜形成術を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 合併症を伴わない場合には、鼓膜形成術も近年では勧められなくなりました。鼓膜穿孔があっても自然に治癒することが多いため、手術以外の方法と結果に差がないことがいくつかの臨床研究で確認されています。(10)(11)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗菌薬
[薬用途]点耳用
[薬名]タリビッド(オフロキサシン)(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]シプロフロキサシン(本邦未発売)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ロメフロン(塩酸ロメフロキサシン)
[評価]☆☆
[薬名]ホスミシンS(耳科用液)(ホスホマイシンナトリウム)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 点耳(てんじ)の抗菌薬の効果についてはその有効性が質の高い臨床研究で確認されています。なお、シプロフロキサシンの有効性が報告されていますが、2015年現在、日本では点耳用が発売されていません。また、これまでの臨床研究では、慢性化膿性中耳炎における経口および全身的な抗菌薬治療の有効性は疑問視されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
急性中耳炎の治療が中途半端である場合におこる
 慢性化膿性中耳炎は、急性の化膿性中耳炎を治療しないで放置したり、途中で治ったと患者さんや保護者が勝手な判断で治療を中断してしまったりすることが原因でおこります。
 いったんは弱まるものの、炎症は数週間にわたって続きます。その間に、かぜをひいたり、細菌感染があったりすると、炎症はさらに悪化していくことになります。

耳漏が少量でもあれば治療を継続する
 炎症が慢性化することで、むしろ痛みは軽減し、自覚症状がなくなるので、患者さんや保護者は治ったと勘違いしやすいのですが、耳漏が少量でもあり、それをくり返しているのであれば炎症は継続しています。鼓膜穿孔が拡大し、徐々にではあっても難聴も進行することになり、とくに、幼児で両耳にこれがおこると、言葉の障害にもつながる可能性があります。化膿性中耳炎は急性のうちにきちんと治すのが大切です。

手術療法から保存的治療が第一選択へ
1980年代までは慢性化膿性中耳炎の基本的な治療は手術療法でしたが、深刻な合併症のない場合は、点耳の抗菌薬と鼓室の洗浄で経過をみる治療法と比較して、聴力など、長期的なその後の経過に差がないことが確認されました。

副作用の少ない抗菌薬を定められた期間確実に使う
 慢性化膿性中耳炎における点耳の抗菌薬と鼓室洗浄の有効性が確認されて以後は、これらの治療を3週間確実に行うことが勧められています。初期の治療で十分な効果が得られない理由としては、耐性菌による感染、真珠腫(しんじゅしゅ)の存在、治療の中断によることが多く、それぞれの場合に対し、適切な二次治療の選択が重要となります。

(1)Ohyama M, Furuta S, Ueno K, et al. Ofloxacin otic solution in patients with otitis media: an analysis of drug concentrations. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 1999; 125:337.
(2)Nwabuisi C, Ologe FE. Pathogenic agents of chronic suppurative otitis media in Ilorin, Nigeria. East Afr Med J. 2002; 79:202.
(3)Yuen PW, Lau SK, Chau PY, et al. Ofloxacin eardrop treatment for active chronic suppurative otitis media: prospective randomized study. Am J Otol. 1994; 15:670.
(4)Aslan A, Altuntas A, Titiz A, et al. A new dosage regimen for topical application of ciprofloxacin in the management of chronic suppurative otitis media. Otolaryngol Head Neck Surg. 1998; 118:883.
(5)Smith AW, Hatcher J, Mackenzie IJ, et al. Randomised controlled trial of treatment of chronic suppurative otitis media in Kenyan schoolchildren. Lancet. 1996; 348:1128.
(6)Aural toilet in infants. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1749-4486.2008.01866.x
(7)Nwabuisi C, Ologe FE. Pathogenic agents of chronic suppurative otitis media in Ilorin, Nigeria. East Afr Med J. 2002; 79:202.
(8)Yuen PW, Lau SK, Chau PY, et al. Ofloxacin eardrop treatment for active chronic suppurative otitis media: prospective randomized study. Am J Otol. 1994; 15:670.
(9)Aslan A, Altuntas A, Titiz A, et al. A new dosage regimen for topical application of ciprofloxacin in the management of chronic suppurative otitis media. Otolaryngol Head Neck Surg. 1998; 118:883.
(10)Balyan FR, Celikkanat S, Aslan A, et al. Mastoidectomy in noncholesteatomatous chronic suppurative otitis media: is it necessary? Otolaryngol Head Neck Surg. 1997; 117:592.
(11)Mishiro Y, Sakagami M, Takahashi Y, et al. Tympanoplasty with and without mastoidectomy for non-cholesteatomatous chronic otitis media. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2001; 258:13.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性化膿性中耳炎の言及

【中耳炎】より

…難聴と耳からの排膿(耳漏,みみだれ)がみられるが,痛みはほとんどない。鼓膜の穿孔だけの場合は慢性化膿性中耳炎,穿孔部から外耳の皮膚が中耳に入りこむと慢性真珠腫性中耳炎とよぶ。中耳に入りこんだ皮膚(これを真珠腫とよぶ)は,周囲の骨をしだいにこわす性質があり,髄膜炎や顔面神経麻痺などの合併症をおこすことがあり,化膿性中耳炎より危険が多い。…

※「慢性化膿性中耳炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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