六訂版 家庭医学大全科 「膵島腫瘍」の解説
膵島腫瘍
すいとうしゅよう
Islet cell tumor
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)
どんな病気か
膵臓にあるランゲルハンス島(膵島)に由来する腫瘍(
膵島はグルカゴン、インスリン、ガストリンなど、少なくとも8種類の異なるホルモンを分泌します。この膵島にできる膵島腫瘍は膵腫瘍全体の1~3%とされ、過剰に産生するホルモンによって症状の出る症候性(機能性)腫瘍は10万人に1人以下と非常にまれです。
インスリンを過剰に産生するインスリノーマ(70%)がいちばん多く、次いで多いのがガストリンを過剰に産生するガストリノーマです。
検査と診断
症候性(機能性)腫瘍の診断は、血液中のホルモンを測定することによって行われます。一方、ホルモンを産生しない非機能性腫瘍(膵島細胞がんを含む)は、膵がんと同様の症状や近年の画像診断の発達により、検診で偶然に見つかることが多くなってきています。
膵島腫瘍は、一般的に血管が豊富であるために、局在診断法として腹部超音波検査(US)、腹部CT、超音波内視鏡検査、腹部血管造影、カルシウム負荷試験(インスリノーマ)、選択的動脈内セクレチン注入法(ガストリノーマ)などが有用です。
良・悪性の診断は病理組織学的に困難なことが多く、臨床的に転移巣を認めて、初めて悪性と診断されることが大半です。
症候性(機能性)腫瘍は後述する症状が現れて、精査を進めるうちに、原因疾患である膵島腫瘍が見つかる場合がほとんどです。
治療の方法
治療は、いずれも外科的切除が第一選択になりますが、切除不能例(悪性で他に転移を認める場合や腫瘍の局在診断ができない場合)は、薬物療法(ディアゾキサイド、サンドスタチン、抗がん薬のストレプトゾトシン、5FU、アドリアマイシン)を行うことがあります。
以下、主要なものについて、その特徴を解説します。
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明らかなホルモン過剰症候を示さないため、症状は膵がんと同様に、腹部
高分化型は非常にゆっくりと大きくなり、切除できれば5年生存率は約70%と報告されていますが、低分化型は非常に進行が早く予後不良です。
インスリノーマは、血中の糖濃度を下げるインスリンを過剰に分泌します。人口100万人に4人程度の発生頻度で、50~60代の女性に多く発生します。90%は良性の腫瘍(
症状としては、インスリン過剰による低血糖症状が主で、たとえば意識障害、
また、診断にあたっては、空腹時の血中インスリン濃度/血糖値比が0.3以上であることが指標となります。
●ガストリノーマ
ガストリノーマは、ガストリン産生腫瘍で、ガストリンによる①難治性の消化性潰瘍、②胃酸分泌の著しい亢進、③膵島腫瘍を3主徴とするゾリンジャー・エリソン症候群ともいわれます。40代に多く、やや男性に多い傾向がみられます。
発生は膵:膵外性の比が1対2で、とくに十二指腸壁内での発生が最も多くみられます。悪性例、多発例が多く、診断時にすでに肝・リンパ節転移を認めることがほとんどで、インスリノーマとは対照的です。多発性内分泌症(MEN)Ⅰ型を合併することがあります。
症状としては、過酸・消化性潰瘍に伴う腹痛、水様性下痢がみられます。
診断にあたっては、血中ガストリン値が高いことが指標となります(多くは500pg/ml以上)。
ガストリノーマで手術ができない例には、ストレプトゾトシンの投与や経動脈的
●グルカゴノーマ
グルカゴノーマは、グルカゴンというホルモンを産生する腫瘍で、グルコースの血中濃度(血糖)を高め、特有な皮疹を引き起こします。約80%は悪性ですが、ゆっくり大きくなり、15年以上生存する可能性があります。腫瘍は3㎝以上のことが多く、発症は50代が中心で、患者さんの約80%は女性です。
症状としては、
診断にあたっては、血中グルカゴン値が高いことが指標となります(多くは1000pg/ml以上)。
竹田 伸, 中尾 昭公
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報