一切(読み)ひときり

精選版 日本国語大辞典 「一切」の意味・読み・例文・類語

ひと‐きり【一切】

〘名〙
① 一度切ること。一回で切ること。
※清原国賢書写本荘子抄(1530)八「天然と其ままなる処一きりにきってのくべし」
② 一つの区切り。一段落。
※花鏡(1424)序破急之事「破にていろいろをつくして、急は、いかにもただひときりなるべし」
芝居見世物などの一幕あるいは一節
※談義本・化物判取牒(1755)四「近所の手代は芝居の一切り、あるひは枕箱でたばこ飲で」
④ 一区切りの時間。ひとしきり。ひとっきり。
多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「一時(ヒトキリ)お島の琴の調があって」
⑤ ひときりあそび(一切遊)。
咄本・出頬題(1773)呼出し「爰の遊びもヱヱが、二切りはつひへ、一切りはみじかし」
⑥ 過去の、ある一区切りの時期。一時期。ひところ。ひときれ。
※落語・昔の詐偽(1897)〈三代目春風亭柳枝〉「二宮当貞様と云ふ漢家医師御坐いまして、一時(ヒトキリ)行はれましたる先生で御坐います」

いっ‐せつ【一切】

[1] 〘名〙 =いっさい(一切)(一)
※歌謡・改正哇袖鏡(1859)富士や浅間の「片ときわするるひまもなく、いっせつからだもやる気になったわいな」
[2] 〘副〙 =いっさい(一切)(二)
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「されば此御所を退て他所へ出させましまさんこと一切(イッセツ)有べからず」
洒落本傾城買四十八手(1790)見ぬかれた手「『ときにこんばんはおひとりかへ』『此ごろは連(つれ)は一切(セツ)ないのさ』」
[補注]「切」は「きる」の意に用いるとき「セツ」と発音される。「一切」の「切」は「すべて」の意であるから「サイ」と発音すべきであり、「イッセツ」と発音するのは本来は誤り。

いっ‐さい【一切】

[1] 〘名〙 物事のすべてをさしていう。全部。残らず。すべて。いっせつ。
※菅家文草(900頃)四・懺悔会作「一切衆生煩悩身、求哀懺悔仰能仁
徒然草(1331頃)一二八「すべて一切の有情を見て、慈悲の心なからんは」 〔法華経‐化城喩品〕
[2] 〘副〙 (下に打消の語を伴う。「に」を添えることもあった) 全く。一つも。いっせつ。
史記抄(1477)一七「一切に承引もつかまつらねども」
浮世草子・好色万金丹(1694)三「此男の手に入る事を一切(イッサイ)よろこばず」
[補注]もと仏典の訓読から生じた語。「一切経」「一切衆生」などの「一切」であって、打消の表現を伴わない(一)の方が本来的な言い方。

ひと‐きれ【一切】

〘名〙
① 一つの切れはし。一片
平家(13C前)四「織り延べを一きれもえぬ我れ等さへ」
② 一回だけの男女情交。かりそめの情事
※浮世草子・色里三所世帯(1688)下「此君おりおりの薬喰(くすりくひ)に薄(うすう)して一きれづつ壱ケ月に七夜づつあふ物ならば」
※山家集(12C後)下「ひときれは都を捨てて出づれども巡りてはなほきその懸橋」

ひとっ‐きり【一切】

※真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉一〇「大病で、〈略〉一時(ヒトッキリ)は六ケ(むづか)しかったから」

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デジタル大辞泉 「一切」の意味・読み・例文・類語

いっ‐さい【一切】

[名]全部。すべて。ことごとく。「会の一切をとり仕切る」「一切を忘れてやり直す」
[副](あとに打消しの語を伴って)全然。まったく。いっせつ。「謝礼は一切受け取らない」「今後一切干渉しない」
[類語]残らず全部全体全般総体万般万端万事全数総数総量全額満額総額総高一切合切有りたけ全て洗いざらいくまなく根こそぎ虱潰し何もかもことごとくなべて悉皆しっかい余すところなく漏れなく逐一ちくいちすっかりそっくり一から十まであまねく満遍ない丸ごとごっそりすっぽりいちいち細大漏らさず何でもかんでも根掘り葉掘りそっくりそのまま徹頭徹尾残り無く通じて総じてつぶさにこぞって丸丸身ぐるみ全一ぜんいつ全的全面的軒並み一通り一渡りごそっと一つ一つおよ有りと有る有りとあらゆる全容全貌おんぶにだっこオールラウンドすることなすこと何から何まで一部始終裏表網羅丸きり丸っきりあるがまま一揃ひとそろ一式十把ひとからげひとまとめありったけ総なめ一向全然全くさっぱりまるきりまるで少しもからきしちっとも皆目まるっきり何らとんといささかも毫も微塵も毛頭更更何もなんにも何一つ一つとして到底とても全くもってどだいてんで寸分一寸寸毫毫末夢にも

いっ‐せつ【一切】

[副]いっさい(一切)」に同じ。
「―存ジマセン」〈和英語林集成

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

普及版 字通 「一切」の読み・字形・画数・意味

【一切】いつさい

すべて。

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