[1] 〘感動〙
① うれしいにつけ、楽しいにつけ、悲しいにつけて、心の底から自然に出てくる感動のことば。ああ。あら。
やれやれ。
※古事記(712)中・歌謡「やつめさす 出雲建が 佩ける太刀 黒葛
(つづら)さは巻き さ身無しに
阿波礼(アハレ)」
※万葉(8C後)三・四一五「家ならば妹が手まかむ草枕旅にこやせるこの旅人
怜
(あはれ)」
※源氏(1001‐14頃)帚木「人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、あ
はれとも、
うちひとりごたるるに」
② 下に願望、命令などの表現を伴って、願望の気持を表わす。ああなんとかして。ぜひとも。
※大観本
謡曲・三井寺(1464頃)「わらはをいつも訪ひ慰むる人の候。あはれ来れ候へかし語らばやと思ひ候」
※仮名草子・都風俗鑑(1681)三「あの理発にては、あはれ至善格物の
道理をしらせたや」
※読本・雨月物語(1776)
吉備津の釜「あはれ良
(よき)人の女子
(むすめ)の㒵
(かほ)よきを娶りてあはせなば、渠
(かれ)が身もおのづから脩まりなんとて」
③ はやし詞として用いる。
※催馬楽(7C後‐8C)我が駒「いで我が駒 早く行きこせ 待乳山 安波礼(アハレ) 待乳山 はれ」
[2] 〘名〙 (形動) ((一)の
感動詞から転じたもの) 心の底からのしみじみとした感動や感情、また、そういう感情を起こさせる状況をいう。
親愛、情趣、感激、哀憐、悲哀などの詠嘆的感情を広く表わすが、近世以降は主として哀憐、悲哀の意に用いられる。
① 心に
愛着を感じるさま。いとしく思うさま。また、親愛の気持。
※万葉(8C後)一八・四〇八九「めづらしく 鳴くほととぎす〈略〉聞くごとに 心つごきて うち嘆き 安波礼(アハレ)の鳥と 云はぬ時なし」
※源氏(1001‐14頃)
真木柱「うちながめて、いと心細げに見送りたるさまども、いとあはれなるに、もの思ひ加はりぬる心地すれど」
※土左(935頃)承平四年一二月二七日「かぢとりもののあはれも知らで、おのれし酒をくらひつれば」
※枕(10C終)一「からすの寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり」
③ しみじみと感慨深いさま。感無量のさま。
※源氏(1001‐14頃)
須磨「折からの御文、いとあはれなれば、御使さへむつまじうて、二三日すゑさせ給ひて」
※
徒然草(1331頃)一二五「あはれも醒めてをかしかりけり」
④ 気の毒なさま。同情すべきさま。哀憐。また、思いやりのあるさま。思いやりの心。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「命婦は、まだ
大殿籠らせ給はざりけると、あはれに見たてまつる」
※
今昔(1120頃か)二「
王宮を追出し事を哀れに思ひ出して」
※
吾輩は猫である(1905‐06)〈
夏目漱石〉一「憐れな声が糸の様に浮いて来る」
⑤ もの悲しいさま。さびしいさま。また、悲しい気持。悲哀。
※竹取(9C末‐10C初)「見れば、世間心細く、哀に侍る」
※新古今(1205)冬・七〇五「老いの波こえける身こそあはれなれ今年もいまは末の松山〈
寂蓮〉」
⑥ はかなく無常なさま。無常のことわり。
※栄花(1028‐92頃)鳥辺野「よろづにあはれなるたびの御祈をせさせ給へば」
※謡曲・
江口(1384頃)「およそ心なき草木、情ある人倫、いづれあはれを逃がるべき」
※枕(10C終)二〇八「
霊山は
釈迦仏の御住家
(すみか)なるがあはれなるなり」
※源氏(1001‐14頃)
橋姫「俗聖とか、この若き人々のつけたなる。あはれなることなり」
※
曾我物語(南北朝頃)三「つひに敵を思ふままにうち〈略〉あはれにも、いみじきにも、申つたへたるは、此人々の事なり」
[
補注]
語源を「あ」と「はれ」との
結合と説くものが多いが、二つの感動詞に分解しうるかどうか疑わしい。なお、「あっぱれ」は、「あはれ」が促音化して生まれた語形である。
あわれ‐が・る
〘他ラ五(四)〙
あわれ‐げ
〘形動〙
あわれ‐さ
〘名〙