最新 心理学事典 「成人期」の解説
せいじんき
成人期
adulthood
【成人期の心理社会的課題】 エリクソンErikson,E.H.(1950)は,青年後期の心理社会的課題であるアイデンティティの確立に続く成人初期の課題として,親密性intimacy(特定の異性との長い親しい関係性を維持すること),中年期の課題として世代継承性generativity(次世代を育てること)を挙げている。成人期には,青年期のアイデンティティ形成の途上で模索・選択した職業や社会的役割・責任の遂行,配偶者の選択と家庭を築くこと,親として子どもの養育・次世代の育成と指導,さらに中年期以降には,老親の介護や看取りなど,多くの課題がある。
【成人期のライフプロセス】 かつて成人期は,ライフサイクルの中で安定した人生の最盛期とみなされていた。しかし今日では,少子高齢社会の到来,年功序列制・終身雇用制の揺らぎ,社会の変化のスピードの速さなど,成人期も不安定な要素を数多く内包する時期である。また発達・成長期としてとらえられてきた乳幼児期から青年期までと同様,成人期にも,一般の人びとに共通した発達的変容のプロセスが見られる。レビンソンLevinson,D.J.(1978)は,成人男性に対する綿密な面接調査に基づいて,成人期にも安定期と過渡期が交互に現われるプロセスを見いだしている。それぞれの年齢段階の特徴は,次のようなものである。
成人初期 ①おとなの世界への加入(22~28歳)。自分とおとなの社会をつなぐ仮の生活構造を作り,職業・異性・仲間関係・価値観・生活様式など初めて選択したものへの試験的な関与を行なう。②30歳の移行期(28~33歳)。現実に即した生活構造の修正。③腰を据えて没頭する時期(33~40歳)。安定期,仕事における自己を拡大し,仕事・家庭など自分にとって重要なものへ全力を注ぐ。
成人中期 ①人生中間の移行期(40~45歳)。重要な転換点,人生の目標・夢の再吟味,対人関係の再評価,体力の衰えへの直面。②中年期移行期(45~50歳)。安定感の増大,成熟・生産性,生活への満足感。③50歳の移行期(50~55歳)。現実の生活構造の修正。④中年期終期(55~60歳)。中年期の完結・目標の成就,安定性。
成人後期 成人後期への移行期(老年期への過渡期)(60~65歳)。老年期へ向けての生活設計。
【中年の危機midlife crisis】 40歳代を中心とする中年期は,人生半ばの過渡期として注目されている。ユングJung,C.G.(1931)は,中年期を人生の正午とよび,太陽が頭上を通過するときにたとえた。つまり影が今までとは逆の方向に映し出されるのである。「人生の午前」である人生前半期の発達は,職業を得,社会に根づくこと,配偶者選択,子どもの出産・育児などの外向きの自己確立に方向づけられているのに対して,「人生の午後」の発達は,そのためにこれまで抑圧してきた内なる欲求や自分自身の本来の姿を見いだし,それを実現していくことによって達成されていく。このプロセスをユングは,個性化の過程individuation processとよんでいる。
現代社会においても,中年期は,図に示したように,体力の低下,時間的展望の狭まり,自らの老いや死への直面,さまざまな限界感の認識など,生物的,心理的,社会的のいずれの次元でも大きな変化が体験される時期である。そして,その多くが喪失や衰退といったネガティブな変化であり,それらを契機に,自己のあり方や生き方・アイデンティティの問い直しと再構築が行なわれることが多い。
【家族関係family relation】 一般に家族は,男女の結婚によって成立し,配偶者の死によって消滅する。その営みのほとんどが成人期に経験されるものである。個人と同様に家族もまた時間の経過によって発達・変容していくものであり,それぞれの時期には,心理的課題と危機が存在する。それは家族ライフサイクルとよばれる。表は,夫婦関係を軸に見たわが国の典型的な家族発達段階stages of family developmentを示したものである。ただし,この様相はかつての安定期にみられた典型的な過程を示したものであり,現代社会では,晩婚化,少子化,生涯未婚化が進み,成人期の家族のあり方もこのような典型を標準化できない多様化が進行している。
親として生きることも,成人期の重要な側面である。表に示したステージⅡ.子の出産から小学校入学までの時期と,ステージⅣ.10代の子どもをもつ時期,ステージⅤ.の子どもが巣立つ時期は,家族システムや親としてのアイデンティティが大きく変容する時期である。
【職業生活】 青年期に学校卒業後,就職し,60~65歳の成人後期に退職するまで,多くの人びとにとって職業は生活の重要な位置を占める。成人初期の職業生活は,自ら選択した仕事に関心と喜びをもって傾倒していく時期であり,それが職能をアイデンティティの一環として自覚する職業アイデンティティvocational identityや社会的な信頼の獲得につながる。中年期の職業生活は,ある程度の地位が確立し,各々の職場の中堅として組織を支え,牽引することが求められる。しかし,中年期後期・現役引退期が近づくと,徐々に仕事を離れた後の生活設計が必要となる。職場の人間関係や仕事がすべてであるような生き方をしてきた人びとは,現役引退期に再度,生き方とアイデンティティの立て直しが求められる。 →青年期 →発達段階 →老年期
〔岡本 祐子〕
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