横笛(読み)ヨコブエ

デジタル大辞泉 「横笛」の意味・読み・例文・類語

よこ‐ぶえ【横笛】

管を横に構えて吹く笛の総称。日本では、神楽笛竜笛りゅうてき高麗笛こまぶえ篠笛しのぶえ能管などをいう。おうてき。ようじょう。→縦笛
[類語]縦笛草笛葦笛麦笛角笛

よこぶえ【横笛】[人名・書名]

平家物語に登場する女性。建礼門院雑仕ぞうし平重盛の臣斎藤時頼滝口入道)に愛され、出家した時頼のあとを追って尼となった。
源氏物語第37巻の巻名。光源氏49歳。柏木一周忌と、柏木遺愛の横笛を夕霧から預かった源氏の複雑な心情などを描く。

よう‐じょう〔ヤウヂヤウ〕【笛】

《歴史的仮名遣いは「やうでう」とも。「横笛おうてき」が「王敵」に音が通じるとして読み替えたもの》「よこぶえ」に同じ。
「腰より―抜き出だし、ちっと鳴らいて」〈平家・六〉

おう‐てき〔ワウ‐〕【横笛】

よこぶえ。
雅楽に用いる笛の一。竜笛りゅうてき。「王敵」に音が通じるとして「ようじょう」と読むことが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「横笛」の意味・読み・例文・類語

よこ‐ぶえ【横笛】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 横にかまえて吹く笛の総称。〔名語記(1275)〕
    2. 特に、雅楽の唐楽に用いる笛の一種。首端を横にして吹くもので、歌口のほかに七孔あり、長さ一尺三寸二分八厘(約四〇センチメートル)。催馬楽や朗詠などの伴奏楽器としても用いる。龍笛(りゅうてき)。おうてき。〔十巻本和名抄(934頃)〕
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 「源氏物語」第三七帖の名。光源氏四九歳の二月から秋まで。親友柏木の死後、柏木の北方落葉宮とその母一条御息所を見舞った夕霧が、御息所から柏木遺愛の横笛を贈られることを中心に、柏木没後の模様を描く。
    2. [ 二 ] 平家物語に登場する女性。建礼門院に仕え、平重盛の臣斎藤時頼(滝口入道)に愛されたが、時頼が出家したため後を追い尼となる。
    3. [ 三 ] 邦楽の曲名。[ 二 ][ 二 ]の悲恋物語を題材としたもの。
      1. ( 1 )長唄。明治二〇年(一八八七)頃、三世杵屋正治郎作曲。三宅花圃作詞。
      2. ( 2 )長唄。明治二七年(一八九四)三世杵屋六四郎(後名二世稀音家浄観)作曲。作詞は菊園主人。研精会派の曲。

おう‐てきワウ‥【横笛】

  1. 〘 名詞 〙 雅楽の唐楽に用いる笛の一種。一名、龍笛(りゅうてき)。首端を横にして吹く笛で、長さ一尺三寸二分八厘(約四〇センチメートル)。催馬楽、朗詠などの伴奏楽器としても用いられる。おうじゃく。→ようじょうよこぶえ。〔色葉字類抄(1177‐81)〕〔李益‐従軍北征詩〕

横笛の語誌

( 1 )「随筆・綿所談‐二」にはワウテキは「王敵」に通じるので避けられたとの説もあり、「横笛」の音読みに変化形が多い。
( 2 )平安末期の「更級日記」(鎌倉時代の定家写本)には「ゐやう定(ぢゃう)」の例がある。「伊呂波字類抄」(室町時代初期写)にも「ヰャウチャウ」の読みがある。院政期の「色葉字類抄」には和訓「ヨコフエ」のほか、字音語として「クヮウチ(ャ)ク」「ワウチャク」「クヮウテキ」「ワウテキ」の四種の読みが見える。


よう‐じょうヤウヂャウ【横笛】

  1. 〘 名詞 〙 ( 歴史的かなづかいは「やうでう」とも。「横笛」の字音「おうてき」が「王敵」に通じるのを忌んで読みかえたものという ) =おうてき(横笛)
    1. [初出の実例]「箏のことかきならされたる、ゐやう定の吹きすまされたるは」(出典:更級日記(1059頃))

おう‐じゃくワウヂャク【横笛】

  1. 〘 名詞 〙おうてき(横笛)〔色葉字類抄(1177‐81)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「横笛」の意味・わかりやすい解説

横笛 (よこぶえ)

平曲・能・長唄の曲名。

(1)平曲。平物(ひらもの)。フシ物。平維盛(これもり)は,都の妻子が気がかりでひそかに屋島の戦線を離れ,高野山に滝口入道(滝口・横笛)を訪ねた。この僧はもと館に仕えた武士で,若いころ横笛という女と恋をした。滝口の父親は出世のためにもっと身分の高い女と結婚しろと意見をする。滝口は,人生はせいぜい七,八十年,そのうち盛りは二十年ほどだから,いやな女と添うことはできないが,好きな女と添うのでは父の意志に背くことになると考えて,剃髪してしまった(〈折リ声・サシ声・中音(ちゆうおん)〉)。横笛はそれを聞き,嵯峨野に滝口の行方を尋ねた。頃は2月中旬で,春風にも,立ちこめる霞にも,朧月(おぼろづき)にもひとかたならぬ哀れさが感じられた(〈三重(さんじゆう)〉)。やっと往生院の中にそれらしい坊を尋ねあてたが,滝口は人違いだと言って横笛を帰してしまい,また訪れることがあってはと,高野山に入ってしまった。横笛もその後尼になり,2人は和歌を交わしたが,横笛はまもなく奈良の法華寺で世を去った(〈サシ声・中音等〉)。維盛が滝口を訪れたとき,まだ30にもなっていない滝口が,やせ衰えて老僧のように見え,その行い澄ました姿がうらやまれるほどだった(〈初重〉)。滝口の一徹な性格と,横笛の優しさとを対照的に描き,曲節のうえにもそれを反映させている。

(2)能。三番目物鬘物(かつらもの)。非現行演目。作者不明。シテは横笛。出家した滝口(ワキ)の住む嵯峨野の往生院を横笛(前ジテ)が訪れるが,会ってくれないので,帰路大堰川(おおいがわ)に身投げをする。滝口の弔いに横笛の霊(後ジテ)が現れ,舞を舞うなどするうち,ついに成仏する。
執筆者:(3)長唄。横笛が滝口の住む嵯峨野を訪れるくだりを叙したもので,2曲ある。一つは作詞三宅花圃。作曲3世杵屋(きねや)正治郎。明治20年代の作。他は作詞菊園主人。作曲3世杵屋六四郎。しっとりとした情趣のある作品である。
執筆者:


横笛 (おうてき)

(1)雅楽の楽器名。竜笛(りゆうてき)ともいい,その項目を参照されたい。(2)歌舞伎陰囃子(かげばやし)の曲名。能管のみで奏する曲。雅楽の横笛の音色を模した曲で,公家・大名等の邸宅で,死に別れをする役などがしみじみと述懐する場面に用いる。(ゆか)のめりやすと併奏することが多い。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横笛」の意味・わかりやすい解説

横笛(よこぶえ)
よこぶえ
transverse flute 英語
Querflöte ドイツ語

横に構えて吹く楽器の総称。細長い管状の楽器で、通常、リードをもたない。「笛」という語も一般的には「横笛」とほぼ同義に用いられるが、尺八やリコーダーなど縦吹きの笛と区別する際には「横笛」という語が使われる。日本の横笛は竹製が多く、一つの吹口(ふきぐち)と複数の指孔をもつだけの単純な構造であるが、その反面、奏法上の技巧が発達している。雅楽の竜笛(りゅうてき)、高麗笛(こまぶえ)、神楽笛(かぐらぶえ)、能の能管、歌舞伎囃子(かぶきばやし)や民俗音楽の篠笛(しのぶえ)、明清楽(みんしんがく)の明笛(みんてき)などのほか、ヨーロッパのフルートも横笛にみなされる。これらの横笛は個々の音楽ジャンル内では単に「笛」とよばれることも多く、雅楽では竜笛のことをとくに「横笛」とよぶ場合もある。

[藤田隆則]


横笛(竜笛)
おうてき

竜笛

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横笛」の意味・わかりやすい解説

横笛
よこぶえ

単に笛とも呼ばれる。日本の伝統的な管楽器。雅楽や日本古来の祭式歌舞などに使用される神楽笛竜笛 (りゅうてき) ,高麗笛 (こまぶえ) ,能楽や長唄などに使用される能管,長唄や種々の民俗芸能などに用いられる篠笛の5種がある。

横笛
よこぶえ

能の曲名。『平家物語』の滝口入道と横笛の悲恋物語を取上げた能。現行曲にはないが,廃曲に何種かある。『滝口』『滝口横笛』『鵆 (ちどり) ヶ淵』とも呼ばれる曲では,滝口をワキ,横笛をシテとする劇能としている。ほかに『幽霊横笛』ともいう曲や,乱拍子をもつ別曲もある。御伽草子にも,『横笛草紙』がある。また高山樗牛の『滝口入道』にも描かれる。長唄に同名の曲が2つある。

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音楽用語ダス 「横笛」の解説

横笛

最も代表的な横笛は、雅楽の唐楽で用いられる竜笛である。全長は約40cmで、竹製、歌口と7つの指孔がついている。上3孔を左手の人差指、中指、薬指で、下4孔を右手の親指以外の4本で押さえる。“フクラ(和)”は息を柔らかく吹き入れて低い音域の音を出すことで、“セメ(責)”は息を細く強く吹き込んで、フクラのオクターブ上の音を出すことである。旋律には細かい装飾音が多く、オクターブの跳躍進行も織りまぜるために様々な技法がある。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「横笛」の解説

よこぶえ【横笛】

長野の日本酒。酒名は、平家物語における斎藤時頼と建礼門院官女・横笛との悲恋物語にちなんで命名。精米歩合39%で仕込む大吟醸酒「深水」をはじめ、純米酒、本醸造酒、普通酒などをそろえる。原料米は山田錦、美山錦、ヨネシロ。仕込み水は霧ヶ峰高原の伏流水。蔵元の「伊東酒造」は昭和33年(1958)創業。所在地は諏訪市諏訪。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「横笛」の解説

横笛 よこぶえ

?-? 平安時代後期の女官。
建礼門院の侍女。平重盛の家臣斎藤時頼(滝口入道)との恋愛が時頼の父にみとめられず,出家した時頼を追う。「源平盛衰記」では時頼に拒絶されて大堰(おおい)川に投身したとする。「平家物語」でも諸本によりその最期はいろいろにつたえられている。

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朝日日本歴史人物事典 「横笛」の解説

横笛

生年:生没年不詳
『平家物語』巻10に登場する建礼門院の雑仕。恋人斎藤滝口時頼との仲を身分の低さ故に時頼の父に認められず,先に出家した時頼を追う。横笛の最期については『平家物語』諸本によって異なり,様々な伝承のあったこと,高野聖の活動との関係が想定されている。

(櫻井陽子)

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百科事典マイペディア 「横笛」の意味・わかりやすい解説

横笛【おうてき】

竜笛(りゅうてき)

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「横笛」の解説

横笛
よこぶえ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛永16(江戸・村山座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の横笛の言及

【楽器】より

…しかし人類が道具を用いるようになって以来,木や骨による〈打ちもの〉,乾燥した木の実などによる〈がらがら〉を知っていたことは十分考えられる。旧石器時代になると,ブル・ロアラー(うなり木),法螺(ほら)貝および笛が現れ,新石器時代にはスリット・ドラム,一面太鼓,楽弓,パンの笛(パンパイプ),横笛,木琴,ジューズ・ハープ(口琴),葦笛など,豊富な種類の楽器が作られるようになった。さらに金属を用いるようになると,鐘やチター系弦楽器が現れる。…

【笛】より

…〈ふきえ(吹柄,吹枝)〉の意から生じたともいわれる古来の言葉で,元来は吹いて鳴らす楽器一般を指し,吹奏楽器とか管楽器など近代の用語とも範囲がほぼ重なる。しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。…

【フルート】より

…元来ノンリードの木管楽器の総称であるが,狭義には西洋音楽に用いられる横笛を指す。本項目では狭義のフルートについて扱う(広義のものについては〈〉の項目で記述する)。…

【滝口・横笛】より

…《平家物語》巻十〈横笛〉に語られる悲恋物語の主人公。屋島を脱出した平維盛が,高野山の滝口入道を訪ねて出家し,また彼を善知識として那智沖で入水するが,滝口入道が登場する初めに,その発心由来譚として語られるのが〈横笛〉の章段である。…

【横笛草子】より

…渋川版の一。建礼門院の御所に使いとして参上した三条の斎藤滝口時頼は,容顔美麗な横笛という女房を一目見て恋い焦がれ,和歌に託して思いのほどを告げる。たびたび文を取り交わし,契りを結ぶ仲となるが,2人の仲を裂こうとする父に従わず,滝口は勘当を告げられる。…

【笛】より

…〈ふきえ(吹柄,吹枝)〉の意から生じたともいわれる古来の言葉で,元来は吹いて鳴らす楽器一般を指し,吹奏楽器とか管楽器など近代の用語とも範囲がほぼ重なる。しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。…

【竜笛】より

…竹製の横笛の一種。横笛(おうてき)ともいってこれを〈やうでう(ようじょう)〉と読むことがあり,竜吟,竜鳴とも呼ばれた。…

※「横笛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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