沃懸地(読み)イカケジ

デジタル大辞泉 「沃懸地」の意味・読み・例文・類語

いかけ‐じ〔‐ヂ〕【沃懸地】

蒔絵まきえ地蒔きの一。金または銀の粉を密に蒔いた上からをかけ、研ぎ出したもの。金粉を用いたものは金地・金溜地きんだみじともよばれる。

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精選版 日本国語大辞典 「沃懸地」の意味・読み・例文・類語

いかけ‐じ ‥ヂ【沃懸地】

〘名〙 蒔絵(まきえ)技法一つ。うるし塗りの器面全体に金粉または銀粉を蒔きつめて、その上から漆を塗り、磨きあげて地としたもの。いかけ。
今昔(1120頃か)一九「鋳懸地に蒔たる硯の様も厳(いつく)しく」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「沃懸地」の意味・わかりやすい解説

沃懸地
いかけじ

蒔絵(まきえ)加飾法の地蒔(じまき)の一種。金粉や銀粉を沃(そそ)ぎかけた地という意で、濃く蒔き詰めているので、近世では金(銀)地、金溜地(ためじ)ともいう。また1390年(明徳1)の『熊野新宮神宝目録』には浴掛地(いかけじ)と記載してある。平安時代におこったことは、『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に、1029年(長元2)関白左大臣頼通(よりみち)が白河院の調度品に沃懸地を施したとあり、また公家(くげ)の儀仗太刀(ぎじょうたち)や武器に施工したのがあることからも証明される。鎌倉時代に盛んに行われ、鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)の籬菊螺鈿蒔絵硯箱(まがきにきくらでんまきえすずりばこ)や松平不昧(ふまい)公旧蔵(現東京国立博物館蔵)の片輪車螺鈿手箱(かたわぐるまらでんてばこ)、三嶋大社の梅蒔絵手箱など代表的遺例が数多く伝世している。

[郷家忠臣]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「沃懸地」の意味・わかりやすい解説

沃懸地
いかけじ

蒔絵の地蒔き技法の名称器物表面に漆を塗り,金,銀の鑢粉 (やすりふん) を全体あるいは一部分に蒔き詰めた地をいう。平安時代に始り,鎌倉時代に盛んになって,室町時代には浴掛 (懸) 地とも書いた。近世になると粉が細かくなり,金地,金溜 (きんだみ) ,粉溜 (ふんだみ) などと称した。

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世界大百科事典(旧版)内の沃懸地の言及

【漆工芸】より

…それぞれ,時代や地域によって多くの種類が生み出された。蒔絵には平蒔絵,研出(とぎだし)蒔絵,高蒔絵,消蒔絵,梨地,沃懸地(いかけじ)などの技法がある。沈金は漆面を線刻し金箔を埋めたものである。…

【蒔絵】より

…研ぎ出すと銀地に墨絵が浮き上がる。(2)地蒔 沃懸(いかけ)地,金地,平目地,平塵(ひらちり)地,梨地,塵地,石目(いしめ)地などがある。これらは塵地を除いて研出蒔絵に併用されるか,単独で研ぎ出される。…

※「沃懸地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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