法衣(読み)ホウエ

デジタル大辞泉 「法衣」の意味・読み・例文・類語

ほう‐え〔ホフ‐〕【法衣】

僧尼の着用する衣服もと戒律に定められた五条などの袈裟けさをいったが、日本ではさらにこの下に着用するものをも含めて総称する。法服ころも。ほうい。
[類語]袈裟

ほう‐い〔ホフ‐〕【法衣】

ほうえ(法衣)

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精選版 日本国語大辞典 「法衣」の意味・読み・例文・類語

ほう‐いホフ‥【法衣】

  1. 〘 名詞 〙ほうえ(法衣)
    1. [初出の実例]「法衣(ホウイ)〈高良本ルビ〉自然に身にまとって肩にかかり」(出典:平家物語(13C前)六)

ほう‐えホフ‥【法衣】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。僧尼の着る衣服。もと律法に定められた五条・七条・九条ないし二五条の三衣をいったが、日本ではさらにこの三衣の下に着用する俗服などをも含めた総称。法服。ころも。のりのころも。ほうい。〔醍醐寺本元興寺伽藍縁起并流記資財帳(747)天平一九年〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「法衣」の意味・わかりやすい解説

法衣
ほうえ

如法(にょほう)の衣服の略称。法服、僧服、僧衣、衣(ころも)ともいい、僧尼が着ける衣服のこと。インドにおける意味は、僧伽梨衣(そうぎゃりえ)(9~25条の布で製したもの)、鬱多羅僧衣(うったらそうえ)(7条)、安陀会(あんだえ)(5条)の三衣(さんえ)をさし、四角の衣服の意味から「方衣」ともいう。日本の禅宗では、三衣のなかの僧伽梨衣だけを法衣という。広くは上半身を覆う偏衫(へんざん)、腰より下をまとう裙子(くんず)、上下を一つにした直裰(じきとつ)など、僧の身に着けるものすべてを仏法の衣服として法衣と称した。したがって、後世にはインドの仏教教団で着用した袈裟(けさ)から、かなり変遷しており、広い意味まで含むようになった。

[川口高風]

インド

インドの俗人の衣服は、衣財(えざい)を細かく割截(かっせつ)しない白衣であったが、それは熱帯地であるため、色彩も淡泊なものを尊び、寒冷を防ぐというよりも身体を覆うだけのものであった。それに対し、仏教の出家者は壊色(えじき)(濁った色)の三衣(さんえ)を制定し特異性を強調したが、それは欲望の根源である渇愛(かつあい)を打ち消すためであった。つまり、割截しない一枚の布では、欲望がおこるため、それを小さく切り、一枚の長い布と短い布をつなぎ合わせて1条とし、5条つないだもの(布を10枚縫い合わせる)を安陀会といった。これは、寺内で掃除など雑行のときに着用し、もっとも身近に着けた。次に、7条つないだもの(布を21枚縫い合わせる)を鬱多羅僧衣といい、誦経(じゅきょう)したり講義を聞くときに着けた。僧伽梨衣(9~25条)は、さらに細かく布を割截したもので、そのうち9~13条は長い布を二枚、短い布を一枚、15~19条は三長一短、21~25条は四長一短に区画した。そのため、25条衣は125枚の割截した布が必要である。なお、僧伽梨衣は王宮や集落に入って乞食(こつじき)説法するときに着けた。衣財は、在家者の用いるものを避けるのが本意であるが、綿布、絹、麻、羊毛など身近に手に入るものでよく、在家者が不用で糞塵(ふんじん)に捨てたものならなんでもよかった。また、在家者から施されたものもよい。そして、三衣のほかに右肩を覆う僧祇支(そうぎし)と、下半身を覆う裙子もあって、三衣と合わせて、比丘(びく)、比丘尼の五衣(ごえ)といった。

[川口高風]

中国

仏教が中国に伝播(でんぱ)すると、インドの三衣だけでは、寒冷に耐えうることができないため、出家者も一般人の衣服に類したものを被着し、その上に仏制の三衣を着けるようになった。すなわち三衣は、衣服の意味でなく、ただ仏教の出家者を表示するだけとなった。そのため衣服と三衣とが区別せられ、衣服は偏衫や裙子の変型してできた法衣となり、三衣は袈裟とよばれるようになった。たとえば、安陀会は小さな略式の絡子(らくす)と変型し、法衣として、別に直とつが生まれた。また仏制による壊色の袈裟は律衣(りつえ)とよばれ、朝廷から五正色(せいじき)を取り入れた華麗な袈裟は、賜衣(しえ)とする制度も生まれた。さらに、衣財も絹を禁じ、綿布を用いなければならないという道宣(どうせん)、義浄(ぎじょう)の衣財論争も生じた。そして、本来、袈裟が風によって地に落ちるのを防ぐための鉤紐(こうちゅう)も装飾的に美化され、象牙(ぞうげ)や金環の付属品をつけるまでに発展した。

[川口高風]

日本

仏教が日本に伝来すると、皇室を中心に受容され、僧侶(そうりょ)も国家の規定による人となり、法服も皇室に関係深い貴族の服装に準じて規定された。したがって、貴族の官服や俗服が僧侶の法服に転用され、さらに、仏教の宗派が生まれるや、法衣の様相も宗派によって異なりをみせた。大きく分けると、〔1〕天台、真言、浄土、浄土真、日蓮(にちれん)宗などに用いられるものを教衣といい、〔2〕直裰を中心に絡子を両肩から胸間に垂らす禅衣、〔3〕偏衫や裙子を中心に、紫衣や緋衣(ひえ)は用いないが、三衣を着用する律宗の律衣の3種に分類することができる。

 このように、元来は、俗人が捨てた布を拾い、截断して縫い合わせ、壊色にした三衣が中国や日本に伝来すると、気候、風土の異なりから、三衣の下に着ける下着や官服、俗服などまでが種々の法衣となり、「ころも」と称して袈裟と区別するようになった。そのため、鎌倉時代には、道元(どうげん)が『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』「袈裟功徳(けさくどく)」「伝衣」の二巻を著し、正伝の仏法の袈裟を説いたのをはじめ、江戸時代になると、各宗派で戒律遵守(じゅんしゅ)が強調され、正伝の仏袈裟に帰るべき復古運動が展開されて、鳳潭(ほうたん)、光国、飲光(おんこう)、諦忍(たいにん)、祖道、面山、黙室、来禅らによって、多くの袈裟研究書が著され、仏法衣を追究した。

[川口高風]

『井筒雅風著『法衣史』(1974・雄山閣出版)』『川口高風著『法服格正の研究』(1976・第一書房)』


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改訂新版 世界大百科事典 「法衣」の意味・わかりやすい解説

法衣 (ほうえ)

僧尼の着用する衣服。袈裟(けさ)も広義には法衣に属するが,狭義には袈裟の下に着る衣服を法衣とか衣(ころも)といい,その種類や着衣の様式,材質,色合いは多種多様である。(1)褊衫(へんさん)という短衣の上着に,裙子(くんす)という下裳を着ける様式。仏教伝来以来あり,鎌倉時代には主として禅家の間で上下を縫い合わせた直綴(じきとつ)を着用するようになった。(2)褊衫と裙子に擬したもので,上体(ほう),下体に(も)を着る様式。奈良時代からあり,天台宗真言宗に用いられた。赤色袍裳,香袍裳,黒袍裳,布袍裳の別がある。なお平安時代から,絹で仕立てた白色の同形式の鈍色(どんじき)も着用された。(3)裘代(きゆうたい),素絹(そけん),打衣(うちぎぬ),(かさね),空袍(うつほ)など平安時代に登場した裳付の法衣。(4)特異な法衣として,修験鈴懸(すずかけ)や時宗の阿弥衣(あみぎぬ)がある。法衣の材質は麻,絹,綿,紙などがあり,色合いは僧尼令では木蘭,青碧,皁(くろ),黄や壊色(えじき)以外を禁じた。中・近世から今日も広く着用される直綴の色について《和漢三才図会》には,平僧は黒衣,和尚・上人は色衣,勅許の者のみ紫衣,門跡・僧正は緋,禅僧には紅衣もあり,法橋(ほつきよう)・法眼(ほうげん)・法印は黒衣の肩背に白い月形があると記す。真宗には白衣もある。
衣帯(えたい)
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百科事典マイペディア 「法衣」の意味・わかりやすい解説

法衣【ほうえ】

僧や尼の着用する衣服。元来は三衣(さんえ)と称し,釈迦の制定にかなったものという意で如法衣(じょほうえ)ともいった。一説に三衣は襦袢(じゅばん)と割截衣(かっせつえ)(在家の人の捨てた衣服を裁断し条目に縫い合わせたもの),壊色(えしき)(衣服の色を濁したもの)であった。中国,日本に伝来して,袈裟(けさ)が形式化する過程で,袈裟の下に着る〈ころも〉を意味するようになり,各宗の僧の階級によって種々の制が設けられた。これを衣体(えたい)と総称する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「法衣」の意味・わかりやすい解説

法衣
ほうえ

僧侶,尼僧が着用する制服。律典に定められた5条,7条,9条の三衣を意味したが,日本ではさらにこの三衣の下に着用する色服も総称する。禅宗では,金襴の衣をさす。

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普及版 字通 「法衣」の読み・字形・画数・意味

【法衣】ほうい

僧衣。

字通「法」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の法衣の言及

【衣帯】より

…衣帯は宗・派により名称,形状,用途が異なることが多いので,ここでは共通する事項についてのみ述べる。衣帯の基本は法衣(ほうえ)(いわゆる衣(ころも))と袈裟(けさ)で,それに被(かぶ)り物,履き物,持ち物等の付属品が加わる。衣帯を着けるには,下着として通常,白小袖(しろこそで)を着用し,その上に袴(はかま)の類をはき,法衣を着け,袈裟を掛けるが,袴類を用いない衣帯もある。…

【袈裟】より

…僧伽梨は大衣,重衣ともいわれ正装衣に,鬱多羅僧は上衣として礼仏や説法の聴聞に着用し,安陀会は内衣と称して日常の作業や肌着用に用いられた。仏教の北方流布とともに,規定の三衣のみでは身体の保温がたもてないために,下着を着用することになり,これは後に法衣(ほうえ)となった。インドの僧団生活で必需品であったこれらの三衣は,中国,日本では法衣の上に着用し,僧尼の身分を象徴するものとして,装飾化され,法会・儀式や集会などに着用されるに至った。…

※「法衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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