〘形口〙 うと・し 〘形ク〙
① 交渉、交際が深くない。親しい間柄でない。縁故関係がうすい。疎遠だ。
※琴歌譜(9C前)長埴安振「川上の川榛(はり)の木の宇止介(ウトケ)ども舂米持(つきしねもち)は親族(うから)とぞ思(も)ふ」
※源氏(1001‐14頃)幻「うとからぬ人々二三人ばかり御前にて破(や)らせ給ふ」
② 相手を避けたい、相手から遠ざかりたいとする
気持やそぶりを表わす。心の隔てをおこうとする。よそよそしい。
※枕(10C終)三六「枕がみなる扇〈略〉とりて見などして『うとくおぼいたる事』など
うちかすめ、うらみなどするに」
③ (②から転じて) その物に対して煩わしい、いとわしいと思う。
※古今(905‐914)雑上・八八〇「かつみれどうとくもあるかな月影の至らぬ里もあらじと思へば〈
紀貫之〉」
④ (主に「…にうとい」の形で) ある事に対する関心のよせ方が少ない。あまり心が傾いていない。
※百座法談(1110)三月二六日「大聖文殊の三世の智母とましますが、これにうとくおはすべきにもあらず」
⑤ (「…にうとい」などの形で) ある事についての知識や理解が不十分である。そのことがよくわかっていない。不案内だ。精通していない。
※玉塵抄(1563)二四「それは礼記にうといことぞ」
※
滑稽本・
浮世床(1813‐23)初「おれは俗事に疎
(ウト)いからとんと解せぬ」
⑥ 物事の状態で欠けるところがある。機能が不十分だ。
(イ) 間が抜けている。知恵がまわらない。
※評判記・
赤烏帽子(1663)山本万之助「うとき事は、云におよばず、面躰に顕れたり、うとき者は御茶ひろきとの世話あれど、それさへ違て取得なし」
(ロ) からだの働きがにぶっている。耳がよく聞こえないことや目がよく見えないことにいう。
※
浄瑠璃・大経師昔暦(1715)中「おばば『あれ合点のいかぬ。何者やら』と、うとき老眼すかして見る」
(ハ) いい加減だ。不備だ。
※浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)五「野面の石垣麦藁塀(むぎはらべい)要害うとしと申せ共」
[語誌]「うと」は、「うつろ」「うつほ」の「うつ」と同じく、空虚・からっぽを意味する。いやな対象についての
嫌悪感や無関係でいたいという気持を表わすこともあるが、情意の面は「うとましい」を使うのが普通。
うと‐げ
〘形動〙
うと‐さ
〘名〙