病的骨折(読み)びょうてきこっせつ(英語表記)Pathologic fracture

六訂版 家庭医学大全科 「病的骨折」の解説

病的骨折
びょうてきこっせつ
Pathologic fracture
(外傷)

どんな外傷か

 正常な強度をもっていない骨、すなわち病的な状態にある骨は、普通なら骨折を起こさないような軽微な1回の外力によって折れることがあります。これを病的骨折といいます。正常な骨に繰り返し外力が加わって発生する疲労骨折とは、その形態も経過もまったく違います。

原因は何か

 病的な状態を起こす原因としては、骨の腫瘍がんの骨転移化膿性骨髄炎(かのうせいこつずいえん)(骨が細菌に感染した状態)、骨系統疾患(こつけいとうしっかん)(先天的な骨の病気で、多くは遺伝性)、副甲状腺機能亢進症(ふくこうじょうせんきのうこうしんしょう)など難しい病気もありますが、最も一般的なのは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)でしょう。

 重い骨粗鬆症になると、つまづいただけで大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折を起こすこともありますし、明らかな外傷を受けた覚えもないのに、脊椎(せきつい)が次々に圧迫骨折を起こす例もめずらしくありません。なかには、階段を上るなどの日常の生活動作において少し脚に力が入っただけで恥骨(ちこつ)が折れる例もあります。

治療の方法

 病的骨折が発生してしまった後の骨折自体の症状治療は、一般の外傷性骨折のそれらと大きく異なるものではありません。ただし、病的骨折については原因になっている疾患の治療を併せて行う必要があります。

 なお、閉経後の女性に多い骨粗鬆症は、薬や運動療法でその発生や進行を予防できる可能性の高い疾患なので、閉経後の女性は定期的に骨塩量検査を受けることをすすめます。

竹田 毅

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「病的骨折」の意味・わかりやすい解説

病的骨折
びょうてきこっせつ
pathological fracture

骨の局所的疾患あるいは全身的疾患のために骨質がもろくなり、正常骨ではおこりえない軽微な外力によっておこる骨折をいう。原因となる全身的疾患には、骨系統疾患である骨形成不全症や変形性骨炎、副甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症などをはじめ、くる病や骨軟化症、老人性または閉経期後の骨粗鬆(そしょう)症などがあげられ、局所的疾患としては骨腫瘍(しゅよう)をはじめ、臨床的に多くみられる化膿(かのう)性骨髄炎や骨結核などの炎症性疾患のほか、長期間の固定による廃用性骨萎縮(いしゅく)などがある。

 症状としては疼痛(とうつう)が主であるが、その程度はかならずしも骨の損傷ぐあいとは関連せず、軽微なものから激痛まで多彩であり、激痛に対しては鎮痛剤の投与よりも患部の固定が効果的である。突然の痛みで気づくこともあるほどで、軽微な外傷による骨折に対しては病的骨折を考慮して全身的あるいは局所的疾患の有無を調べてみる必要がある。治療としては患部の固定をはじめ、原因疾患を治療することによって骨再生機能の回復を図る。

[永井 隆]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の病的骨折の言及

【癌】より

…腎癌などは,骨や頭皮など,とんでもない部位の転移巣で初めて癌の存在が示されることがままある。腎癌に限らず,なにかのはずみに簡単に骨が折れ(病的骨折という),検索してみると,癌の転移であることがわかる例は多い。脳出血や脳腫瘍で死亡したと思われていた患者が,解剖してみると肺の奥に肺癌があって,脳はその転移であったということも,まれならずある。…

【骨髄腫】より

…免疫グロブリンを産生・分泌する形質細胞が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍。主として骨髄で増殖し,各所の骨が侵されることが多いので,多発性骨髄腫multiple myelomaとも呼ばれ,単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク)の出現,骨病変などを特徴とする。腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄で主として結節状に増殖し,次第に骨皮質を融解・破壊して骨折(病適骨折)を起こす。 40歳以後の中高年者に多く,60~70歳代が最も多い。…

【骨折】より

…一回一回の外力はたとえ軽微であっても骨の同一部位に繰り返し加えられると,金属の疲労現象のようにその部に骨折が生じる場合があり,これを疲労骨折fatigue fractureという。また骨自体になんらかの病変があって,正常な骨であれば骨折しない程度の外力によって骨折を生じる場合を病的骨折pathological fractureという。骨折線の入り方からみると,完全骨折と不完全骨折に分けられる。…

※「病的骨折」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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