デジタル大辞泉
「素」の意味・読み・例文・類語
す【素】
[名]
1 装わないで生地のままであること。また、他のものが加わらないでそのものだけであること。「化粧せず素のままで店に出る」
2 日本の音楽・舞踊・演劇などの演出用語。芝居用の音楽を芝居から離して演奏会風に演奏したり、長唄を囃子を入れないで三味線だけの伴奏で演奏したり、舞踊を特別の扮装をしないで演じたりすること。「素で踊る」「素で浄瑠璃を語る」
[接頭]
1 形容詞に付いて、非常に、ひどく、の意を表す。「素ばしこい」「素早い」
2 名詞などに付く。
㋐平凡な、みすぼらしい、などの意を表す。「素浪人」「素町人」
㋑ただそれだけの、ありのままの、純粋な、などの意を表す。「素顔」「素足」「素うどん」
そ【素】
1 染めてない絹。白絹。
2 数学で、二つの数・式の一方がそれぞれ他で整除できない関係にあること。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
す【素】
[1] 〘名〙
① 他の要素がつけ加わらない、ありのままのさまをいう。そのままであること。他の語と複合して、「素肌」「素手」「素足」「素顔」「
素焼」などと用いることもある。
※志不可起(1727)「何によらずかざりつくろひのなきを、すのままなど云、素の字也」
※
歌舞伎・三千世界商往来(1772)口幕「素
(ス)で貸しては、踏まれる事が、みすみす見えてあるわいの」
② 邦楽用語。
本式の演出に対する
略式の演出。芝居用の音楽を芝居から離して純演奏会風に演奏したり、
鳴物入りの長唄を三味線だけの伴奏で演奏したり、伴奏入りの声曲を無伴奏でうたったりすること。→
素語り・
素謡(すうたい)・
素唄。
③ 日本舞踊で、特別な
扮装(ふんそう)をせず、黒の紋付に袴
(はかま)、または
着流しで踊ること。
素踊り。
[2] 〘接頭〙 名詞などの上に付けて用いる。
① 多く人を表わす語に付いて、平凡である、みすぼらしいなど軽べつの意を添える。「素町人」「素浪人」など。
※浄瑠璃・新うすゆき物語(1741)下「す奴め邪魔ひろぐか。そこ退て勝負させい」
② ただ、それだけである、他の要素が加わらない意を添える。「素一分」「素一本」など。
③
状態や
様子を示す語の上に付けて、そのさまを強調する意を添える。「素寒貧」「素早い」「素頓狂」など。
そ【素】
〘名〙
① 彩色を施してない生地。しろぎぬ。生絹。
※雑俳・軽口頓作(1709)「時による・素を引事も浦の網」 〔古詩‐為焦仲卿妻作詩〕
※菅家文草(900頃)一・翫秋花「素片還慙芳意素、紅房温対酔顔紅」 〔詩経‐召南〕
③ かざりけのないこと。いつわりのないこと。また、素直なこと。
④ もって生まれたもの。本質的なもの。どだい。
したじ。たち。
※
華族の海外留学を奨励し給へる
勅諭‐明治四年(1871)一〇月二二日「女教の素あるを暁り、育児の法をも知るに足るべし」 〔
呂氏春秋‐審分覧〕
※玉葉‐寿永二年(1183)六月九日「客星変異之時上奏、先年若其事黙止者、此時可レ被レ遂歟、於二旨趣一者、偏在二叡慮一、但政道之反レ素、是其肝心也」
⑥ 数学で、数または整式の関係の一つ。いくつかの数または整式のどの二つの
最大公約数も1のとき、それらの数または整式は互いに素であるという。
そ‐・す【素】
※
貧乏物語(1916)〈
河上肇〉一一「貧賤に素しては貧賤に処し〈略〉一切の境に入るとして自得せざるなきは君子のことである」
すっ【素】
〘接頭〙 名詞・動詞・形容動詞の上に付いて、下にくる語の意味を強調する。東京語はじめ関東で多く用いられる俗な言い方。「すっとんきょう」「すっ影」「すっとぶ」など。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
素 (す)
日本の音楽や舞踊で用いることば。〈素〉の意味はもともと,飾り気がなく,それ自身ということで,音楽の面では〈素唄(すうた)〉〈素謡(すうたい)〉〈素浄瑠璃〉〈素語り〉〈素で演奏する〉などと用いられる。長唄に関していえば,芝居から離れた純演奏会様式のものを〈素唄〉といい,また囃子なしで,三味線の伴奏だけで奏することを〈素〉ともいう。能では伴奏なしにうたうことを〈素謡〉と称するし,浄瑠璃では,人形芝居や歌舞伎から離れ,演奏会様式で純粋に音楽を味わうものを〈素浄瑠璃〉,三味線の伴奏なしに浄瑠璃を語ることを〈素語り〉などと呼ぶ。また,舞踊では特別な衣装をつけず,普通の服装のままで踊ることを〈素踊〉という。
執筆者:加納 マリ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報