使用者の意思により労働契約を解消すること。労働者の意思によるものは退職と呼ばれる。通常、労働者の立場は使用者より弱く解雇は法律や判例により厳しく規制されている。労働契約法は客観的に合理的な理由がなく、社会常識に照らして妥当と認められない解雇を「無効」と規定。経営不振や事業再編などに伴う「整理解雇」は特に厳格で、経営維持のために人員整理が必要か、配置転換や出向など解雇を避ける努力を行ったかどうか―などの4要件を満たすことが求められている。
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使用者が労働者との労働契約関係を将来に向かって一方的に解消し,終了させることをいう。一般に,労働契約はあらかじめ定められた雇用期間の満了をはじめ,労働者の死亡,企業の倒産などによって終了するほか,とくに雇用の期間を定めていない場合においては契約当事者である労使いずれか一方の意思表示によっていつでも任意に労働契約を解消させることができる(民法627条1項)。そのうち,労働者の一方的意思表示による場合を任意退職(辞職),使用者からの一方的意思表示による場合を解雇,そして労使双方の合意による場合を合意解約と呼んでいる。もっとも,形式的には任意退職とか合意解約の形をとりつつも,それが実際には使用者の有形無形の圧力に基づいてやむをえずなされたという事情が認められる場合には解雇とみなされることもありうる。
使用者の行う解雇は,その原因ないし理由が使用者側にあるか,それとも労働者側にあるかによって,実際上,これをいくつかのタイプに分けることができる。たとえば,前者については経営難の打開,余剰人員の削減など,もっぱら企業財政上の理由から行われる〈整理解雇〉がある。この解雇は経済的観点から労働力の量的調整を図るという意味において集団的解雇とも呼ばれる。一方,後者については,病気・老齢などによる労働能力の喪失もしくは低下を理由に,主として生産性の維持・向上という観点から行われる〈通常解雇(普通解雇)〉,企業内外での盗取,傷害,横領等の非違行為を行った者(職場秩序紊乱者)に対し企業の秩序維持という観点から行われる〈懲戒解雇〉,また同じく懲戒処分として行われるが,その情状により退職金不支給等の不利益を課するまでには及ばないということから,被処分者の非違行為をさとして退職願の提出を勧告するという形で行われる〈諭旨解雇〉がある。こうした解雇は,いずれも基本的には労働者個々人の従業員としての適格性を問うという意味で個別的解雇と呼ばれる。しかし,いずれの場合であっても,およそ解雇というものが労働者の意思いかんにかかわらず,使用者から一方的に雇用関係を終了させるものであることからすれば,それは必然的に労働者本人ならびにその家族たちの生活に重大な影響を及ぼす。しかも,日本の雇用制度は定年制に代表されるような長期雇用慣行が基本であるから,解雇された労働者の再就職はなかなか困難であり,かりにそれが可能となった場合でも年功序列型賃金体系のために給与面において不利益をこうむる場合が多い。こうした事情もあって,実際上も法律上も,解雇については種々の観点から制限が設けられている。
まず,解雇事由の制限という点からは,労働者の国籍,信条,社会的身分を理由とする差別的解雇(労働基準法3条),監督機関に法令違反の申告をしたことを理由とする解雇(104条),正当な組合活動を理由とする不当労働行為解雇(労働組合法7条)などが禁止されている。また,公序良俗に反すると認められる解雇なども違法無効のものとされる(民法90条)。女性労働者に対する結婚退職制,若年定年制などによる解雇がその代表例である。次に,解雇の時期という点からは,労働者が業務上傷病にかかり療養するための休業期間中とその後30日間,ならびに女性労働者の産前産後の休暇のための休業期間中とその後30日間の解雇がいずれも禁止される(労働基準法19条1項)。かかる期間中の解雇は,打切補償が支払われた場合(81条)または天災事変その他やむをえない事由のために事業の継続が不可能となった場合においてのみ許されるにすぎない(19条1項但書)。なお,試用期間中の解雇については〈試用期間〉の項を参照されたい。以上のような解雇自体の禁止ということに加えて,法はさらに解雇の手続という点から,使用者が労働者を解雇するに際しては少なくとも30日以上前に予告するか,または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとしている(20条)。これらの規定に違反して解雇を行った使用者は処罰される(119条1項)。
以上は,いずれも法令による解雇制限であるが,このほかにもいわゆる労使の自主法規たる就業規則や労働協約のなかにも解雇制限規定が置かれることがある。すなわち,就業規則には通常解雇と懲戒解雇を区別しつつ,それぞれについての解雇事由が列挙されているのが一般である。また,同種の規定が時として労働協約にも置かれることがある。しかし,労働協約ではむしろ労働者(組合員)を解雇する際には組合と協議するとか,その同意を得るとかいった内容の規定(解雇協議条項とか解雇同意条項とか呼ばれる)を設けることにより使用者の解雇を制限する場合が多い。こうした規定に関して,一般に学説・判例は就業規則や労働協約中の解雇事由の列挙は,それ以外の事由によっては使用者は労働者を解雇できないとの限定的意味(限定列挙)に解すべきであり,またそのような就業規則や労働協約中の解雇基準は法規範としての効力をもつ(労働基準法93条,労働組合法16条)ことを理由に,これらの規定に違反して行われた解雇を無効と解している。
このように,実際の労使関係にあっては解雇は法令や自主法規中の各種規定によって大きく制限されている。しかるに,そもそもこうした解雇制限規定に違反さえしなければ使用者はいつでも自由に労働者を解雇することができるかということについては学説・判例上見解の対立が見られる。第1は,期間の定めのない労働契約の解消については,各当事者はいつでも自由にこれを解消しうるというのが基本原則(民法627条1項)なのであるから,労働者の側からする任意退職の自由と同様,使用者にも解雇の自由を認めるべきであるとする見解(解雇自由説)がある。この立場によれば,解雇はあくまでも民法上の私的自治の原則に基づく取引自由の一環として理解され,この法理は労働法によっても修正・変更を受けないものとされる。その結果,この場合の解雇をめぐる問題はあくまでも労働者の団結力を背景とするストライキ等の実力手段によるなど,もっぱら労使の勢力関係による解決にゆだねられるほかないこととなる。第2に,これとは反対に解雇にはそれを相当とする合理的な理由が客観的に存在することが必要であるとする見解(正当事由説)がある。その説くところは論者によって必ずしも同じではないが,基本的には憲法による生存権(憲法25条),勤労権(27条1項。労働権ともいう)の保障がその論拠となっている。そして,これによって使用者の解雇の権利自体に対する制約も可能とされる。第3に,解雇の自由を理論的に肯定しながらも,解雇の与える実際的不利益の大きさを考慮することにより,権利の行使一般に通ずる原理たる権利濫用の法理を媒介に実質的に解雇の自由を制限しようとする見解(権利濫用説)がある。この立場は実際にはその適用の程度いかんによっては解雇自由説に近くなったり,反対に正当事由説に近いものとなったりする。一般的にいって,学説・判例は,理論上は解雇自由説に立ちつつも,実質的には正当事由のない解雇は無効との立場をとっているということができよう。このことは整理解雇についても同様にあてはまる。むしろ,使用者側の経営上の都合だけでなんら労働者の責任によらない理由から行われる整理解雇についてはより厳しい制限がなされてしかるべきであろう。裁判所も整理解雇に関しては,(1)整理解雇を行うことが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものであること,(2)配置転換や一時帰休,希望退職者の募集等,整理解雇を回避するための措置が十分に尽くされたこと,(3)組合などに対し人員整理について十分な説明を行い,その時期,規模,方法等について誠実に協議したこと,(4)整理基準ならびにそれに基づく被解雇者の人選が公正・合理的であること,を適法性の要件としている。
日本の解雇制限の場合,諸外国においてみられるように個別的解雇につき社会通念上相当な理由のない解雇を無効とする立法(たとえば,西ドイツの1951年解雇制限法)や,また集団的解雇である整理解雇の規制について細かな規準を設けている立法(たとえば,西ドイツの前記立法のほか,フランスの1975年〈経済的事由による解雇に関する法律〉,イギリスの1978年雇用保護統合法など)は存在しないが,もっぱら権利濫用という解釈法理の適用を通じてかかる立法による解雇制限の場合と実質的に同等の効果を導き出しているというところにその特徴があるといってよい。
執筆者:奥山 明良
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使用者の一方的な意思表示によって労働契約を解消すること。解雇は、資本の蓄積過程に基礎づけられる。景気の変動に伴う企業の倒産や事業規模の縮小をはじめ、国際競争の激化に伴う事業所の閉鎖が解雇を呼び起こしてきた。解雇は、賃金所得の喪失を引き起こすことから、労働者の生存権の侵害を意味する。また使用者による労働力の選別や労働条件の抑制のてことして、労働者支配のうえでは中心的な役割を担っている。これらの影響は、日本における企業規模間の労働力移動が下向移動を主要な方向としていることから、とりわけて大きい。使用者の解雇の自由に制限を加えることが、労働組合の主要な課題の一つとして提起されたのは、このような背景においてである。
[三富紀敬]
西欧諸国では、解雇の規制に関する法制度が広く普及している。その法規定は、フランスの労働法典(1973年と75年に解雇規制法を挿入)、イギリスの雇用保護法(1975)、旧西ドイツの解雇制限法(1969)、イタリアの労働者憲章法(1970)などでなされている。このうちフランスでは、1968年5月の大闘争によって締結された「雇用保障に関する全国協定」を基礎に、73年には「期間の定めのない労働契約の解約に関する法律」(個別的解雇の規制。1973年法)が、75年には「経済的事由による解雇に関する法律」(集団的解雇の規制。1975年法)が制定された。このためとくに1975年法によると、「景気的または構造的な経済的理由」により30日の期間内に10人以上の労働者を解雇(集団的解雇)しようとする使用者は、従業員代表機関に対して、解雇の諸理由、解雇予定者数、関係職種、実施日程、解雇の回避、被解雇者数の削減、再就職のための手段の提供に関する措置を提示しつつ、解雇計画について諮問する義務を負っている。また、これには行政官庁の承認が必要とされ、使用者の申立て書には、解雇の諸理由をはじめ、解雇を回避し被解雇者数を減少させ、また従業員の再就職を容易にするために採用される措置などが記載されなければならない。さらに、事前の諮問を行わなかった使用者には、刑事上の制裁として解雇者1人につき1000フランから3000フランの罰金刑が科される。しかも、行政官庁は諮問手続の適合性、解雇理由の実質性、再就職および補償措置の十分性について判定するが、これへの手続違反に対しては、刑事上の制裁として解雇者1人につき先と同額の罰金刑が科される。このほか、民事上の制裁として、労働契約の乱用的な破棄を理由に労働者に対し損害賠償権の付与されることが規定され、また、解雇ののち1年間は行政官庁の許可なしには新規の採用を行いえないこととされている。
西欧諸国の解雇規制法も解雇を一般的に禁止しているわけではないが、従業員代表機関への諮問や行政官庁の承認を経ることから、解雇が社会問題になりやすく、また労働組合の反対運動も組織しやすいこと、刑事上、民事上の制裁と解雇後における新規採用の制限が、解雇を思いとどまらせ、もしくは規模を縮小する方向に作用することなどから、解雇への抑止的な効果を発揮している。このため使用者は、解雇規制の対象になる「期間の定めのない契約」を締結せず、主として「期間の定めのある契約」、パートタイム、臨時派遣契約の形態で労働者を採用する方向に、労働力管理の政策を変更しているといわれる。
[三富紀敬]
民法上は、期間の定めのない雇用契約はいつでも解約通告でき、その後2週間で雇用関係は終了するものと定めている(627条1項)。しかし、労働基準法(1947年制定)や労働組合法(1945年制定。現行法は49年改正法)では、このような解雇の自由に罰則付きで制約を課している。(1)労働者が療養のために休養する期間およびその終了後30日間、ならびに女子の産前産後各6週間の休業期間およびその後30日間における解雇の禁止(労働基準法19条)、(2)原則として少なくとも30日前の解雇予告、もしくは30日分以上の平均賃金の支払い義務(労働基準法20条)、(3)不当労働行為に該当する解雇の禁止(労働組合法7条4号)、(4)労働者が労働基準法違反の事実を行政官庁もしくは労働基準監督官に申告したことを事由とする解雇の禁止(労働基準法104条2項)、などがそれである。これらは、第二次世界大戦後の「民主化」の成果として、今日なお労働者保護の機能を果たしてはいるものの、明らかに大企業の野放図(のほうず)な「雇用調整」の規制を意図したものではない。このため日本では、解雇が企業もしくは事業所内だけで処理されやすく、「雇用調整」の一方的な進行を容認することになっている。また、解雇者に対する失業給付の期間延長が、一般的な権利としてではなく、公共職業安定所の行政指導による個別的な措置の枠内において実施される。
[三富紀敬]
『『季刊労働法』107号(1978・総合労働研究所)』▽『沼田稲次郎・青木宗也他編『労働法事典』(1979・労働旬報社)』▽『『日本労働法学会誌』55号(1980・総合労働研究所)』
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…広義には労働者の死亡以外の原因(一般に解雇を含む)で,広く労働関係が解消される場合のすべてを指す(例えば,労働基準法89条1項3号の就業規則の絶対的必要記載事項としての〈退職に関する事項〉にいう退職はこの意味で用いられている)。狭義には労働者の一方的意思表示によって労働関係を解消すること,すなわち辞職(ただしこの言葉は人事院規則では,公務員がみずからの意思により退職することをいい,依願退職ともいう)を意味し,使用者の一方的意思表示による労働関係の終了である解雇,さらには労使双方の合意に基づく労働関係の解消としての合意解約とは異なる。…
…(1)は,ある年齢まで働けば,企業はこれまでも賃金を払って役務(サービス)の対償を払うことは終わっているのに,さらに多額の退職金を払い,従業員の功労に謝意を示して老後の生活を保障する,と考える恩恵とみる立場である。(2)は,老朽従業員を若い従業員に代えるため,一定年齢を定めて解雇する制度とみる立場である。高年齢従業員の割合が増え,しかも技術革新・経営活動活性化の必要が強くなるにつれて,経営側は(1)より(2)の立場を強調し,生活については定年後の就業の場を提供・斡旋し,自立を援助するなどのことを行っている企業もある。…
※「解雇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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