特定の個人や集団,あるいは階級,民族,社会など複数の行為主体の間で,ある主体が--たとえば自己の目標達成を阻害するとか自己の感情と相いれないとか,自己にとってなんらかの妨げとなる(もしくは妨げになると思われる)--他の主体それ自体を排除したり他の主体の行為を妨害し停止させるという意図のもとで,相互に両極的な形をとって対立しあう相互作用形態をいう。たとえば国家間の戦争,学問上の論争,法廷での訴訟などがそれである。要するに闘争においては,(1)相手(敵国,論敵,訴訟相手など)の戦闘力,学説,法律行為上の妨害などを排除,妨害,停止することが相互作用の直接目的であり,(2)対立主体(当事者)のうち少なくとも一方は他方を,自己の否定すべき相手として意識している。こういう意味での闘争は,広く対立oppositionとか抗争struggleと呼ばれる相互否定的な作用形態のうち,最も否定的性質の激しいものとして代表的な位置を与えられてきた。
これに対して,たとえば受験競争や会社の昇進競争などのように,一般に〈競争〉と呼ばれる形態では,複数の行為者の間で相互に他の行為主体を排除したり,その行為を妨害し停止させることが直接の目標ではなくて,あくまでも結果的に生じるかもしれない事態にすぎない。つまり競争の場合には,上記の例でいえば入学するとか昇進するというような,なんらかの客観的な目標や望ましい事態を他者と並行して追求し,それを達成することが直接の目的なのである。けれどもこうした区別はあくまでも学問上の分析手続のなかで論じられているものであって,たとえば昇進競争の過程やその結果においてライバル相互の激しい敵意の交換や露骨な妨害行為がみられることもあるし,企業が市場や顧客を獲得しようとする競争では競争とは名ばかりの対立現象を呈することもある。また身近なところでは,格闘的な競技のように〈競争的闘争〉とでもいうべき混合的な形態もある。
闘争という現象はそれ自体として歓迎される事がらではないが,人間の生き方や社会の成立ちを現実に即してとらえようとする限り,避けて通ることのできない要素である。歴史のダイナミズムを階級闘争の観点から説明したマルクス主義の古典的な理論もよく知られている。闘争にどのような形態の相違がみられるか,またそれがなにゆえに生じるのか,それがどういう経過をたどるのか,ということについては,それぞれの状況に応じた具体的な展開がみられるが,闘争と社会のしくみとの関係についても種々の論議が積み重ねられてきた。かつては,それが人類の進歩に貢献するとか,国家の形成を促すとかいうように安易に考えられたこともある。ジンメルが《社会学》(1908)で示した社会学的闘争論を受け継いだコーザーLewis A.Coserは,たとえば〈外敵と闘う集団は内部の凝集性を高める〉というように,闘争がなんらかの条件のもとで,社会関係や集団あるいは社会の構造に安定性や弾力性や統合性を与えることもありうると考え,《社会的闘争の機能》(1956)で16の基本的な命題を掲げ,闘争の積極的な役割を評価している。
執筆者:新 睦人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…それを抽出することによって,より高い抽象度をもったコミュニティまたは共同体という用語の意味内容ばかりでなく,コミュニティ(共同体)がいかなる条件に支えられて生み出されるかという点についても理解を深めることができる。 第1に指摘できることは,連帯と闘争との相互増殖性という点である。闘争が連帯を生む。…
※「闘争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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