刑事訴訟法は、逮捕された容疑者に証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合、検察の請求を受け、裁判所は10日間の身柄拘束を認めることができると規定。必要ならさらに10日間延長される。勾留決定に不服があれば容疑者側は準抗告できる。検察は勾留中の取り調べ内容などを踏まえ、起訴するかどうかを決める。起訴後も、保釈が認められない限り勾留が続く。
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被疑者・被告人を拘禁する裁判およびその執行をいう(刑事訴訟法60条以下,204条以下)。勾留は,刑が確定する前の被疑者・被告人の逃亡・証拠隠滅を防止するために行ういわゆる未決拘禁であって,刑罰としての意味はない。同音の拘留は刑罰の一種であり,両者はまったく別のものである。古くは未決拘禁と拘禁刑(自由刑)との区別は意識されていなかったが,今日では両者は明確に区別され,原則として刑罰は刑務所,勾留は拘置所で別々に執行され,別々の処遇が与えられる。
勾留は,被疑者・被告人が犯罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があり,(1)住居不定,(2)罪証隠滅のおそれがある,(3)逃走のおそれがある,のいずれか一つにあたる場合に行うことができる。ただし,一定の軽微な事件については,(1)以外の場合は勾留できない。勾留するには憲法上裁判官の令状が必要とされ(憲法33条),勾留状が発せられる。また憲法は,勾留する際には,理由を告げ,弁護人に依頼する権利を与え,要求に応じて理由を公開法廷で示すものとしている(34条)。そこで,勾留は被疑者・被告人に被疑事実を告げてその言い分を聞いたのちでなければできないものとされ(勾留質問),被疑者・被告人には弁護人選任の便宜が与えられており,また,勾留されている被疑者・被告人には〈勾留理由開示〉の手続が設けられている(別に人身保護法がある)。勾留理由開示は,被疑者・被告人および弁護人が出頭した公開の法廷で裁判官が勾留の具体的理由を告げる手続で,被疑者・被告人・弁護人その他の開示請求者は,これに対して意見を述べることができる。この制度は,英米法の人身保護令状the writ of habeas corpus(ヘビアス・コーパス)および予備審問preliminary examinationの制度を参考にしたものであるが,英米法ではそこで拘禁の当否が裁判されるのに対して,日本では勾留したのちに理由を説明して意見を聞くもので,その結果,勾留の理由・必要がないことがわかれば勾留を取り消すことになり,基本的に性格を異にしている。
起訴前の被疑者の勾留は,逮捕したのちに検察官が請求し,裁判官が勾留状を発して行う。起訴前の勾留期間は10日を限度とし,検察官は,その間に公訴を提起しないかぎり,被疑者を釈放しなければならない。ただし,やむをえない事由があるときはさらに10日間まで勾留期間を延長することができ,内乱罪・騒擾(そうじよう)罪などについてはさらにまた5日間まで延長できる。起訴前の勾留には保釈は認められない。公訴提起後の被告人の勾留期間は2ヵ月である。とくに継続の必要がある場合は1ヵ月ごとに更新できるが,一定の重い事件,罪証隠滅のおそれのある場合,氏名や住所が不明の場合などを除き,更新は1回しかできない。第一審で禁錮以上の刑の言渡しがあると,上訴審では更新回数の制限はなくなる。
勾留は,確定前の〈無罪の推定〉を受ける者に対してなされるものであるから,逃亡・証拠隠滅の防止という勾留の目的をこえた自由の制限や防御活動への不当な制約になってはならない。しかし,現在の実務では,とくに起訴前の勾留が,逃亡・証拠隠滅の防止のためというよりはむしろ捜査機関が被疑者を取り調べて自白させるための手段になっており,勾留を利用して被疑者に密着した取調べが行われている。これが,被疑者の自由や防御活動への大きな制約になっている。たとえば,捜査機関が,被疑者と弁護人との接見交通の日時などを指定できることを利用して,被疑者を弁護人とほとんど会わせずに長期間取り調べたり,別件逮捕・勾留をして取り調べるというようなことも起こっている。さらに,現在,被疑者を代用監獄である警察の留置場に勾留することが認められているため,警察は被疑者を自分の完全な支配下において厳しく取り調べることができる。これが被疑者の自由を制約し,虚偽の自白を生み出し,誤判の温床になっているという批判が強い。
勾留は,被疑者・被告人に与える苦痛・不利益がきわめて大きいから,短いにこしたことはない。憲法も不当に長い拘禁を禁じている(38条2項)。勾留が長くなるのを防ぐ方法としては,勾留期間を設けるドイツ方式と必要的保釈(権利保釈)を認める英米方式があるが,現行法は両者を併用している。しかし,法改正によって必要的保釈の例外が著しく拡大され,勾留更新の回数制限が緩和されたため,あぶはちとらずになってしまった。なお,勾留の理由や必要がなくなったとき,勾留が不当に長くなったときは,勾留の取消しまたは保釈をしなければならない。また,適当な場合は,勾留の執行停止もできる。
勾留は刑罰ではないが,これを受ける者にとっては自由刑とあまり変わらない苦痛になる。そこで,法は,一定の場合に,これを本刑に通算することを認めている。また,無罪になった者は,国に対して補償(刑事補償)を請求できる。
執筆者:平川 宗信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
被告人または被疑者を、訴訟の遂行を全うする目的で、刑事施設に拘禁する裁判およびその執行をいう。被告人の勾留を起訴後の勾留とよび、被疑者の勾留を起訴前の勾留とよぶことがある。刑事訴訟法は、被告人の勾留に関する規定を被疑者の勾留に準用するという規定の仕方をしている。
被告人の勾留の要件は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、(1)被告人が定まった住居を有しないとき、(2)被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、(3)被告人が逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、である(刑事訴訟法60条1項)。一定額以下の罰金、拘留または科料にあたる事件については、(1)のときに限る。被告人の勾留の期間は、公訴の提起があった日から2か月である。とくに継続の必要がある場合は、具体的にその理由を付した決定で、1か月ごとにこれを更新することができる。ただし、一定の必要的保釈除外事由にあたる場合を除いては、更新は1回に限る。被告人の勾留は、原則として被告人に対し被告事件を告げてこれに関する陳述を聴いたあとでなければ、これをすることができない(同法61条)。これを、勾留質問とよんでいる。被告人の勾留は、勾留状を発してこれを行わなければならない(同法62条)。勾留状の執行は、原則として検察官の指揮により検察事務官または司法警察職員がこれを行う。勾留状を執行するには、これを被告人に示したうえ、できる限り速やかに、かつ直接、指定された刑事施設に引致しなければならない。
被疑者の勾留の要件も被告人のそれと同じである。被疑者の勾留の期間は原則として10日であり、裁判官はやむをえない事由があると認めるときは、検察官の請求により、通じて10日、特殊な重大事件ではさらに通じて5日を超えない限度で勾留期間を延長することができる(同法208条、208条の2)。逮捕後の手続として、制限時間を遵守して検察官が勾留の請求をしたときは、勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所または裁判長と同一の権限を有する(同法207条)。すなわち、被告人の勾留に関して刑事訴訟法が裁判所または裁判長に認めている規定が、捜査段階で勾留の請求を受けた裁判官にも準用されることになる。ただし、起訴前の保釈は認められていないので、保釈に関する規定は準用されない。裁判官は前記の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がなかったり、制限時間を遵守しなかったときは、勾留状を発しないで、ただちに被疑者の釈放を命じなければならない。
被疑者の勾留の場所は刑事施設である(同法207条1項、64条1項)。刑事施設には、いわゆる警察留置場も含まれる。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)が、刑事施設に収容することにかえて、警察に設置された留置施設に留置することができると規定しているからである(同法15条1項)。これを代用刑事施設とよんでいる(かつては、代用監獄とよばれていた)。したがって、被疑者の勾留の場所は、刑事施設の一種である拘置所の場合と警察留置場の場合とがあるが、実務では、被疑者の勾留の場所は代用刑事施設とされる場合が多い。勾留に関する処分に関連して、憲法第34条後段の趣旨に従った勾留理由開示の制度、接見交通権およびその制限、勾留の取消し、勾留の失効、保釈、未決勾留の本刑通算の制度などがある。
[内田一郎・田口守一]
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…監獄法はまた,刑事被告人・被疑者や死刑囚などを拘禁する所を拘置監と称する。刑事訴訟法では勾留と呼ばれる刑事被告人等の身柄拘束を,〈拘置〉と呼ぶ新聞報道などの用例は,これに由来する。【吉岡 一男】。…
…勾留のこと。勾留自体,刑が確定する前の拘禁であるが,〈未決〉の点をとくに強調してあえてこう呼ばれることがある。…
※「勾留」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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