一定の事項を一定の手続に従って登記簿という公の帳簿に記入すること。ある財産、あるいはある人に関する事実または法律関係を一般に公示するとともに、その内容を明確にするものである。このような登記制度は、ある財産につき、あるいはある人と取引関係にたとうとする人が不測の損害を被らないようにし、そうすることによって取引の安全を保障することで、重要な役割を果たしている。公示制度として登記のほかに登録がある。登記をする帳簿が登記簿で、登録をする帳簿が登録簿であるという帳簿の差異のほかに、登記が私権の公示を目的とするのに対して、登録は私権を公示する目的をもつこともあるが、主としてさまざまな行政上の目的から設けられることが多いという差異がある。登記は法務省の管轄する登記所で登記官が行う。
[高橋康之・野澤正充]
登記にはさまざまなものがあり、不動産登記、立木(りゅうぼく)登記、船舶登記、工場財団登記、夫婦財産契約の登記など、権利や財産の帰属や変動の公示を中心とするものと、商業登記、法人登記など、権利や取引の主体に関するものとに分けることができる。1999年(平成11)に創設(2000年4月より施行)された後見登記は、後者に属する。日常生活において登記というときには、不動産登記を意味する場合が多い。そこで、以下では不動産登記について説明する。
[高橋康之・野澤正充]
不動産登記法に基づいて登記するものは不動産(土地と建物)であるが、私権の目的となりえないもの(たとえば河川法でいう河川敷など)は登記の対象にならない。登記は不動産の権利関係を公示するものであるが、権利関係のすべてが公示されるわけではかならずしもない。登記が行われる権利は、所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、採石権であり、これらの権利の設定・保存・移転・変更・処分の制限、消滅について登記が行われる(不動産登記法3条)。たとえば、売買などで所有権を取得した場合や、債権者のために抵当権を設定した場合などが典型的な場合である。相続や時効によって権利を取得した場合にも登記が必要であるとされているが、この場合に登記がどのような意味をもつかについては議論がある。また、不動産の登記では、その不動産を特定する表示が登記されることは当然のことである。
[高橋康之・野澤正充]
(1)本登記(終局登記) すでに土地・建物の権利について変動があり、登記の申請に必要な要件がそろっている場合になされる登記で、記入登記、変更登記(および更正登記)、抹消登記、回復登記などがある。日常よく行われる保存登記や移転登記は記入登記の一種である。
(2)予備登記 本登記の内容が将来変更される可能性がある旨を公示する登記で、仮登記がある。
[高橋康之・野澤正充]
登記は原則として当事者の申請によってなされる(不動産登記法16条1項)。日常広く行われる所有権移転登記のために必要な書類は次のとおりである。
(1)所有権移転登記申請書
(2)登記原因を証する書面(売買契約書など)
(3)売り主の権利に関する登記済証(いわゆる権利証であり、売り主が買い主となった前回の売買契約書に登記所の登記済印が捺(お)されているもの。紛失した場合には保証書で代用される)、または、登記識別情報(パスワード部分のコピーを封筒に入れ、封をしたもの)
(4)売り主の印鑑証明など
なお、代理人による場合は登記申請についての委任状が必要である。
移転登記申請書には、登録免許税として、不動産価格(登記所で定められた価格で、取引価格より低いのが普通である)の1000分の20に相当する印紙をはる。司法書士に依頼するときは定められた手数料を払う。
[高橋康之・野澤正充]
登記は、有効に成立した権利関係をそのまま示すものでなければならない。したがって、権利関係が実際にはないにもかかわらず登記をしても、その登記は無効である。たとえば、偽造文書で他人の土地を自分の物としてかってに登記をした場合には、その登記は無効であってどのような効果も発生しない。また、当事者は、所有権の移転など、権利に関する登記を申請する場合には、その申請情報とあわせて、登記原因を証明する情報を提供しなければならない(不動産登記法61条)。そのため、たとえば贈与による移転を売買による移転であるとして登記をすることはできない。さらに、甲→乙→丙という順に権利が移転した場合に、その移転が甲→丙という順での移転であったように登記(いわゆる中間省略登記)することもできない。
[高橋康之・野澤正充]
登記は、不動産の権利関係を公示することによって、その不動産について取引関係に入ろうとする第三者に不測の損害が生じないようにする制度である。このような制度目的を実現するために、所有権の移転などの権利変動との関係で登記にどのような意味をもたせるかという点については、二つの考え方がある。一つは、ドイツやスイスのように、売り主・買い主間の意思表示のほかに登記がされて初めて所有権も移転するという成立要件主義(または効力発生要件主義)である。もう一つは、フランスのように、所有権は売り主・買い主間の意思表示だけで移転するが、第三者に対抗するためには登記が必要だとする対抗要件主義である。日本の民法は、フランス法に倣って対抗要件主義をとっている(民法176条・177条)。登記が対抗要件であるというのは、売り主甲と買い主乙との間では、乙は登記をしなくても自分が所有者であることを主張できるが、甲からその不動産を二重に買い受けた丙のような者に対して、乙は登記をしなければ自分が所有者であると主張することができないことを意味する。すなわち、登記をして初めて、買い主は自分が所有者であることを第三者に対して主張できるのである。それでは、登記さえしてしまえば買い主は所有権を確実に取得し、自分が所有者であることをだれに対しても主張できるかというと、かならずしもそうではない。売り主が初めから所有者でなかった場合には、たとえ買い主が売り主を所有者だと信じて取引し、登記をしたとしても、買い主が所有権を確実に取得できるとは限らない。
[高橋康之・野澤正充]
登記官吏が一定の登記すべき事項を公簿(登記簿)に記載すること,また,この登記簿上の記載をいう。登記の制度は,一定の事項を一般に公示することにより,その権利の内容を明確にし,取引関係に入ろうとする第三者に不測の損害をこうむらせないようにする制度で,取引の安全と円滑を図るために重要な役割を果たすものである。
日本における現行法上の登記の種類は,(1)不動産登記,立木登記,船舶登記,工場財団登記などの権利に関する登記,(2)夫婦財産契約登記のような財産の帰属に関する登記,(3)商業登記,法人登記などの権利主体に関する登記がある。なお,登記の中では不動産登記が中心的存在であり,国民生活にもっとも密接な関連を有していることから,単に,〈登記〉という場合は不動産登記をさすことが多い。
登記簿には,登記の種類に応じ,不動産登記簿(不動産登記法14~24条ノ2),立木登記簿(〈立木ニ関スル法律〉12~14条),船舶登記簿(船舶登記規則5~6条),工場財団登記簿(工場抵当法9条,18~20条),夫婦財産契約登記簿(非訟事件手続法119条),商業登記簿(商業登記法6条),法人登記簿(非訟事件手続法119条)などがあり,登記所に備え付けられている。登記簿には,原則として,バインダー式帳簿が使用され,一定の表紙および目録とともに登記用紙が編綴される。
日本には,公簿に一定の事項を記載するものとして,登記のほかに,登録(たとえば,住民登録,鉱業登録,医籍登録など)という制度があるが,登記と登録とは区別される。登記はもっぱら私権に関する公示を目的とし,登記所がつかさどるものであるのに対し,登録は私権に関する公示の作用を果たすこともあるが,各種の行政的目的の必要から活用される場合が少なくなく,登記所以外の行政官庁においてつかさどられている。
登記は,原則として当事者からの申請によってされ,登記所備付けの登記簿に記載され公示される。
つぎにこの登記の効力をいかにとらえるかが問題となる。すなわち,ある権利関係が生じた場合,当事者の意思表示のみがあればその効力は生じることとし,ただし,登記をしなければ当該権利関係の存在を第三者に対して主張することができないこととするか(対抗要件主義),あるいは,ある権利関係を生じさせるには当事者の意思表示のほかにこれを登記してはじめて効力が生ずることとするか(成立要件主義)である。日本においては,不動産所有権の移転などの不動産に関する物権の得喪変更は,登記をしなければこれを第三者に対抗することができないものとされ,登記を対抗要件としており(民法177条),また,会社の設立については,登記をすることによって会社が成立するものとされ,登記を成立要件としている(商法57条)。諸外国においては,登記を物権変動の効力発生要件とし,当事者間における効力の発生と第三者に対する対効力の発生とを画一的に取り扱い,取引の安全を図ろうとする立法例が多くある(ドイツ,スイスのほか,イギリス,アメリカ諸州などトレンス式登記制度を採用する諸国)。
登記簿には,一定の事実または法律関係が記載されるが,この記載事項は一応真実なものであるとの推定を受ける。この記載は,登記されたとおりの実体的権利関係が真実に存在することを前提として,登記されたものであるからである。ところが,登記がされてはいても,当該登記に対応する実質的権利が伴っていない場合がある。このような場合は,登記という形式が存在するだけで,実質的権利を伴っていないのであるから,当該登記は無効な登記として抹消されるべきものである。
ところで,この実質的権利が伴っていない登記を信頼して取引をした者がある場合に,この者をどのように取り扱うかが問題となる。
一つの考え方は,たとえ当該登記を信頼したとしても,この登記に対応する実質的権利は存在せず,登記は単なる対抗要件であり,物権変動を第三者に公示する作用を有するにすぎないから,当該法律関係に基づく権利を取得することはできないとするものであり,公示の原則と呼ばれるものである。しかし,登記を信頼して取引をしたところ,これが実質的権利を伴わないものであった場合に,これを基点として権利を取得することを目的とする法律行為をしてもその法律行為はすべて無効であるとすれば,取引の安全・円滑を著しく害することとなる。そこでもう一つの考え方として,登記を信頼して取引をした者は,たとえその登記が実質的権利を伴わないものであっても,当該権利につき真実の権利が伴っている場合と同様の法律効果を生じさせ,真正に権利を取得したものとしてその信頼を保護しようとする考えであり,公信の原則と呼ばれるものである。
公信の原則を採用して登記に公信力を与えるか否かは,政策問題ときわめて密接にからむものである。公信力を与えることとすると,真正な権利であるか否かを審査するために,登記官に実質的審査権を与える等の措置をし,登記手続をより慎重にする必要を生じ,一方,実質的審査権を行使することによりいきおい登記の迅速な処理が妨げられ取引の円滑性に重大な影響を及ぼすこととなる。また,公信力が認められた結果,真実の権利者が権利を失うこととなり,その権利保護のため国家補償等の制度の採用が必要となる等の問題を生じる。したがって,公信力を与えるか否かは,登記制度の実情を十分見きわめたうえ,決する必要がある。諸外国の中には登記に公信力を認める例もある(ドイツ,スイス,トレンス式登記制度を採用する諸国)が,日本では登記の公信力は認められていない。
執筆者:坂本 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…また,それらの音列自体をストップと呼ぶこともある。ストップの操作で音を配合することをレジストレーションregistrationというので,ストップのことをレジスターregisterということもある。パイプ・オルガンの代表的なストップには,ダイアパーソン,フルート,ガンバ,ミューテーション,リードなどがあり,大型では何十種類にも及ぶ。…
…登記料とは,土地を買ったり家を建てたりした場合,法務局へ登記しなければならないが,その登記手続に要する司法書士への報酬,登録免許税などの費用を総称する通称である。買主が完全な所有権を取得できるようにするのが売主の義務だとすると,これらいわゆる登記料は,売買契約上の売主側の債務の履行に要する費用であるが,取引の実際においては,登記料とくに登録免許税は買主の負担とする旨の特約が普通であり,それはほぼ慣習法化している。…
…登記の一種で,不動産の客観的状況およびその不動産に関する権利関係を不動産登記簿に記載して公示すること,またはその登記簿上の記載そのものをいう。 不動産登記は,不動産そのものの客観的状況を公示する〈表示に関する登記〉と,その不動産に関する物権の得喪・変更を公示する〈権利に関する登記〉に分けられるが,この表示に関する登記と権利に関する登記とがあいまって,不動産の取引に入ろうとする第三者を保護し,不動産取引の安全と円滑が図られることになる。…
※「登記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新