そううつ病(読み)そううつびょう(英語表記)manic-depressive illness

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

そううつ病
そううつびょう
manic-depressive illnessmanic-depressive psychosis

そう(躁)病あるいはうつ(鬱)病が、通常周期的におこる精神障害の一群をいう。従来、そううつ病統合失調症(精神分裂病)とともに、二大精神病といわれてきたが、今日では、現実検討力が著しく障害された狂気を意味しやすい精神病に属させるのは適当でないということから、これにかわって感情病affective illnessまたは感情障害affective disorderという診断名がよく用いられる。そううつ病は定義のように、そう病あるいはうつ病が周期的におこり、やがて欠陥を残さずに健康な状態に移行するのが普通である。[高橋 良]

分類

そう病に比べてうつ病の頻度が数倍も高く、うつ病のみを呈する場合は単極うつ病とよばれる。同一人にうつ病とそう病とが繰り返す症例は循環型といわれるが、今日では、そう病をもつそううつ病は、そう病のみを呈する場合も含めて双極感情病とよんでいる。そううつ病は一般に20歳代以降に発症するが、10歳代後半から発症するものは双極感情病が多い。しかし、そううつ病のうちでは双極型が約1割であり、大部分を単極うつ病が占めている。双極型では最初の3、4回の病相までにそう病を呈する場合が大部分であるために、単極うつ病の診断は比較的早期から可能である。ただし、初回のうつ病は、うつ病‐単一病相として別にしておくのが妥当である。近年は、都市化、工業化、核家族化など社会の構造変化に伴うストレスの増大、人口の高齢化などによってうつ病の発症頻度が増えているが、それはもっぱら単極うつ病であり、今日、生涯発病危険率は10人に1人といわれるほどになっている。[高橋 良]

症状

うつ病の基本障害は、生命的気分の減退、気分の抑うつ、活動性の低下であり、しばしばみられる症状は、悲哀感、憂愁、喜びや楽しみの能力低下、注意集中の困難、決断困難、積極性の低下、行為のおっくうさ、落ち着きのなさ、食欲や性欲の低下、体重減少、睡眠障害などである。なお、不安や焦燥感が目だってきたり、希望喪失、寄る辺のなさを強く感じ、自殺願望をもったり、自己無価値感、自責感から罪責妄想、貧困妄想、疾病妄想をもつようになるなど、重症の場合もある。これは従来メランコリーといわれてきたもので、50歳以降の退行期に初めて発症するうつ病に多くみられる。
 メランコリーMelancholie(ドイツ語)はうつ病の古語であり、古代ギリシアのヒポクラテスが唱えた体液学説(血液、リンパ液、黄胆汁、黒胆汁の基本的体液の調和を健康の源と考える説)に基づくもので、恐怖や苦悩が長く続くのは黒胆汁(メランコリック)の過剰によるとし、これをメランコリーとよんだ。近代精神医学の基礎をつくったクレペリンは当初、50歳以後に出現する抑うつ状態をメランコリーとよんだが、最後には、そううつ病の抑うつ期をいうようになった。
 そううつ病はいまだに原因が明確にされていないが、生体内の病的過程による内因性の病気と考えられ、それには遺伝と体質が重要視されていた。内因性のうつ病の場合は、(1)抑うつ気分が死別反応で体験される感情などとは異なる生気的な抑うつで、楽しいできごとによっても変化しない特質をもつ、(2)午前中のほうが午後よりぐあいが悪い、(3)早朝から目が覚めてしまう、(4)行動のおっくうさが強いか、焦燥感が強い、(5)食欲減退や体重減少が明白である、(6)罪責感が強い、などの特徴が認められるのが典型的であるが、前述のように、近年増加しているうつ病は内因性の特徴をもつとは限らず、より軽症のものが目だっている。
 そう病は、気分と思考および行動面でうつ病とほぼ反対の状態を示し、気分は爽快(そうかい)、高揚、あるいは怒りやすく、誇大観念、連想の亢進(こうしん)、決断の早さがみられ、これに対応して活動性が増加し、多弁、多動となるほか、睡眠欲求が減り、食欲や性欲が亢進してくる。病者自身はうつ病の場合とは異なり自己の病気に悩むことが少なく、病識をもちにくい。そう病が重症になるにつれて干渉・命令的な行動がみられたり、逆らう者に対して攻撃的になり、抑制が欠け、浪費や社会的脱線行為に走ったりする。いっときも落ち着かず興奮状態になることもある。
 そう病も、うつ病も、軽症の場合は正常人にもよく了解でき、ごく軽症で短時日のものでは正常人の感情の波と区別するのがかならずしも容易でない。したがって、そう病については前述の症状が1週間以上続くもの、うつ病は2週間以上続くもの、と決めるのが便利であり、今日の精神医学はその方向にある。統計上、うつ病の持続期間は2、3週から数か月に及び、そう病はうつ病より短い。[高橋 良]

成因・誘因

そううつ病の成因には遺伝的要因、環境要因、体質や性格などが関与しているが、双極感情病のほうが遺伝要因の強いことが調べられている。しかし、それでも遺伝によって決定的に発病するわけではなく、双生児法による研究から、環境によって遺伝子の表現はかなり影響されるものと考えられている。双極感情病は生物学的にまとまった一群であるが、単極うつ病になると、性格や環境によって発病が強く規定されるもの、産褥(さんじょく)期や退行期などの生物学的要因の強いものなど、種々の群があり、異種の群からなっているものと考えられる。しかしながら、そううつ病の発症にはほとんど100%の誘因が認められており、一方、病者の人格にはまじめ、きちょうめん、凝り性、完全癖、熱中性、秩序愛などのうつ病親和性性格が特徴的に認められ、誘因と人格とが絡み合って病気に陥る状況が認められる点から、そううつ病は生物学的要因によって自然発生的におこるものではないことがわかる。
 発病の誘因は、転居、昇進、職場転換、愛の対象の喪失など、従来の自己の役割の変換を要求される状況が多く、心身のストレスと過労を介して病気に陥るものと考えられる。このような社会心理的要因がそううつ病の病的機序をおこす過程はいまだ明らかでないが、今日、病的機序と考えられている脳の情動中枢の生化学的変化、とくにアミン伝達機構の異常をおこす引き金となるものと考えられる。
 このアミン伝達機構というのは、そう病では脳内アミンの増加、うつ病ではその減少を想定する仮説によるもので、そううつ病の病的機序として有力視されている。すなわち、うつ病では脳内の情動と睡眠に関係する中枢のモノアミン神経細胞にノルエピネフリンやセロトニンの欠乏がおこり、その結果、化学伝達が不十分になって抑うつ状態をおこし、そう病では反対にノルエピネフリンが増加、あるいはその前駆体であるドーパミンの増加が考えられるというものである。これに基づき、抗うつ剤はモノアミンの処理を抑えて有効量を増やすことによりうつ病に効果を示し、抗そう剤の炭酸リチウムはノルエピネフリンの分解を促進してそう病に有効に働くとされている。しかし、このアミン増減説も、細かい面でいまだ多くの問題点を残しており、仮説的段階にあるといえる。
 そう病とうつ病の症状はほぼ反対であるが、その両症状が混合した病像を呈する場合も双極型にみられることがあり、これを混合病相とよぶ。この混合病相の存在をはじめ、病前性格と発病誘因の共通性、うつ病とそう病とが短期間の正常期を挟んで同一人に繰り返す症例の存在などから、そう病とうつ病の発病機序にも共通因子が存在することが推測される。このことは治療の面からみても重要である。[高橋 良]

治療

発病後はそう病、うつ病ともに心身の休息をとり、抗そう薬、抗うつ薬を服用することによって治癒が可能である。3回以上病相を反復する例では、リチウムやカルバマゼピンなどの服用により再発を予防できる。難治例もあるが、それは薬物療法のみでなく精神療法と家族への指導を十分に行い、治癒を妨げる社会心理的葛藤(かっとう)を除くことによって、そううつ病の約90%は治癒させることができる。[高橋 良]

予後

一般に単極うつ病より双極型のほうが予後はよくないが、今日優れた薬物が多数開発されており、その作用機序も分子レベルで解明されつつあるので、病気の本態もやがて解明される日がくると思われる。[高橋 良]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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