気分が高ぶる「そう」状態と、落ち込むうつ状態が交互に現れる精神疾患。別名「そううつ病」。うつの期間の方が長く受診にもつながりやすいため、うつ病と診断される人も多いという。気分を安定させる薬物療法が治療の中心。
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日常的にみられる気分の浮き沈み以上に、気分が高まるそう(躁)状態や落ち込んだうつ(鬱)状態が、それぞれ一定期間続く精神疾患である。そう状態というのは、非常に元気がよくなってなんでもできると思いこむような状態で、気分爽快で自分ひとりでなんでもどんどんできるように感じられたりする。
[大野 裕 2020年7月21日]
そう状態がみられる状態は、以前はそううつ病とよばれていたが、現在は、そう病エピソード(病相期)とうつ病エピソードの二つの極端な気分の波が現れてくることから、その症状をより正確に表現するために双極性障害とよばれるようになった。そう病エピソードとうつ病エピソードの間の期間は症状が認められず、通常の生活機能を維持できていることが多い。
双極性障害とうつ病はともに気分の変調を主症状とすることから気分障害と総称されることもあったが、双極性障害は遺伝的にはうつ病よりも統合失調症に近いということから、別の疾患として扱われるようになっている。
双極性障害は双極I型障害、双極Ⅱ型障害、気分循環性障害の三つに分けられる。このように分けられているのは、いずれの状態もそうとうつの症状を示す時期があることは共通しているが、症状の重症度が違い、治療法に若干の違いがあるためである。これらの状態は一生続くことが多いが、治療によって症状を和らげて充実した生活を送れるようになる可能性も十分にある。
[大野 裕 2020年7月21日]
双極I型障害は、以下にあげるようなそう症状が、入院を必要とするほど強くなる時期(そう病エピソード)が認められる疾患である。
(1)自尊心が極端に肥大していて、明確な根拠がないのに、自分には特別な才能がある、他人より優れている、といったことを信じている。
(2)睡眠欲求が減少する(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる、寝なくても大丈夫だと思う)。
(3)普段よりも多弁であったり、追い立てられるようにしゃべり続けようとしたりする。
(4)考えが飛んだり、またはいくつもの考えがぶつかったりしていることを自覚する。
(5)注意散漫で、ちょっとした外的刺激に注意が向いてしまう。
(6)一気にたくさんのことをする計画をたてたり、よく知らないトピックに対して次々と企画をたてて取りかかろうとしたりする。
(7)自動車の無謀な運転や無分別な性活動、根拠のない投資など、困ったことになる可能性が高い快楽的活動が増える。
双極I型障害と診断されるのは、気分が異様に高揚し続けたり、易怒的になったりした状態のために入院が必要になったり、少なくとも1週間持続したりして、上記の症状のうち三つ以上(気分が単に易怒的な場合は四つ)はっきりと存在していて、そのために生活や仕事に支障が出ている場合である。こうしたそう病エピソードがある人の場合は、基本的にうつ病の項目で示した抑うつエピソードを体験する時期が存在しているために、双極性障害とよばれている。
双極I型障害の好発年齢は10代後半であるが、小児や高齢者が発症することもある。国際地域調査によれば、双極性障害を罹患する人の割合は2~13%弱とされている。罹患率に男女差はないが、女性のほうが急速交代型や抑うつ症状が多いと報告されている。
急速交代型は、そう病エピソードと抑うつエピソードがめまぐるしく交代し、1年に4回以上、エピソードが認められる状態をいう。男女比は、双極性障害の場合には女性と男性の割合がほぼ同じであるのに対して、急速交代型の場合は女性が70~80%と多くなっている。
急速交代型は、心理社会的なストレスをきっかけに生じたり、甲状腺(せん)機能低下症、多発性硬化症などの神経学的疾患、精神遅滞、頭部外傷などに関連して生じたりするほか、抗うつ薬による治療によって生じることもある。急速交代型は長期にわたって続くことがあるので気分安定薬を使って辛抱強く治療を続ける必要がある。
双極I型障害には、不安症や注意欠陥多動性障害、物質障害などが併存することがあり、半数以上の人がアルコールや薬物の使用障害を併発している。また、自殺リスクも高いので注意が必要である。
[大野 裕 2020年7月21日]
双極Ⅱ型障害は、少なくとも1回の軽そう病エピソードと2週間以上の抑うつエピソードとが認められる場合に診断される。軽そう病エピソードの症状はそう病エピソードと似ているが、そう病エピソードが1週間以上の症状の持続を必要とするのに対して、軽そう病エピソードの持続期間は4日間以上となっている。双極I型障害と違ってそう病エピソードが認められないために、問題が多発したり入院が必要になったりすることはない。
双極Ⅱ型障害の好発年齢は双極I型障害よりも少し遅く、10代後半から20代前半であるが、高齢になって発症することもある。一般に抑うつエピソードで始まることが多く、受診動機も抑うつエピソードであることが多いために、最初はうつ病と間違われることも多い。
双極Ⅱ型障害の75%に不安症が併存し、物質使用障害や摂食障害が併存していることも多い。自殺リスクも高く、双極Ⅱ型障害の約3分の1は少なくとも一度、自殺企図を行っている。
双極I型障害および双極Ⅱ型障害には家族負因が認められることが多い。女性の場合には、出産が軽そう病エピソードのきっかけになることもある。
[大野 裕 2020年7月21日]
比較的軽症の双極性障害であり、軽そう病症状と抑うつ症状の気分の波を2年以上(10代の場合は1年以上)にわたって規則的に繰り返し、その半分以上の期間で症状が認められ、症状が認められない期間が2か月以上続いていない場合に、気分循環性障害と診断される。
気分循環性障害の軽そう病症状と抑うつ症状の気分の波は、軽そう病エピソードや抑うつエピソードの基準を完全には満たさないほどの程度である。ほかの人には気分屋のようにみえるが、本人の心理的苦痛は大きく、人間関係や仕事での支障があることから受診にいたる。
[大野 裕 2020年7月21日]
双極性障害は治療可能であるが、症状が軽快した後も予防のために治療を続けることが望ましいとされている。治療は、薬物療法などの生物学的治療が中心であるが、精神療法などの心理社会的治療も重要である。
薬物療法は、双極性障害は炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどの気分安定薬を使って行われる。抑うつ状態には抗うつ薬も使われるが、急速交代型の発症を誘発するリスクもあるので、専門医と相談しながら慎重に使っていく必要がある。薬物療法が奏功して症状が消失することもあるが、薬物療法を中止するとふたたび症状が現れることもあるので、治療薬の変更や中止は、専門医と相談しながら行う必要がある。
精神療法もまた、精神症状を和らげ、再発を防ぎ、人間関係を改善し、生活の質を高めるために重要な役割を果たしている。双極性障害に焦点をあてた精神療法には、家族焦点化療法、対人関係・社会リズム療法による認知行動療法などがある。それらは、それぞれ違ったアプローチではあるが共通している部分も多く、それには以下のようなものがある。
(1)起床時間、食事時間、入眠時間などを中心に規則正しい生活を送る。
(2)バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠など、健康的な生活を送る。
(3)同じ精神的問題を抱えて生活している人たちと連携をする。
(4)そう病エピソードや抑うつエピソードが始まるサインに気づき、早めに主治医に相談をする。
[大野 裕 2020年7月21日]
双極性障害は、従来、躁うつ病と呼ばれていた病気に相当します。双極とは「2つの極」という意味で、双極性障害は躁病の極とうつ病の極の両方をもつ気分障害という意味です。
うつ病相のみの
躁病相が確認されれば、双極性障害の診断はさほど困難ではありません。しかし、うつ病相のみの場合は、その2~3割が経過を追うと双極性に転じるので注意が必要です。とくに20歳以前、あるいは20代で発病するうつ病の場合は、慎重に経過をみていく必要があります。
双極性障害はⅠ型とⅡ型に分けられます。その違いは、躁病相が中等症以上である(Ⅰ型)か、軽躁であるか(Ⅱ型)にあります。うつ病相は両者に違いはありません。
双極性障害の原因はいまだ解明されていませんが、うつ病と同様、疾患
疾患脆弱性を規定する因子は複雑ですが、そのひとつに遺伝があり、双生児での一致率(一方が発病した場合、他方も発病する率)は8割ともいわれています。しかし、他の2割は遺伝以外の要因であり、遺伝と環境要因の両方で規定されると考えられています。
双極性障害の症状は、躁病相とうつ病相で対照的です。それぞれの病相の代表的な症状を表9に示したので参照してください。
これをみると、ほとんどの症状は躁病相とうつ病相で正反対であることがわかります。時に躁病相とうつ病相の症状が混じり合って同時に現れることがあり、これを混合状態と呼びます。
双極性障害は未治療の場合、躁病相、うつ病相合わせて生涯に10回以上の病相を繰り返しますが、繰り返すにつれて病相の持続期間は長くなる一方、病相と病相の間隔は短くなります。なかには1年に4回以上病相を繰り返すケースもあり、これをラピッドサイクラーと呼びます。
双極性障害は、患者さんの結婚、職業、生活にしばしば深刻な影響を招く原因となります。離婚率も高く、健康な対照者の2~3倍とされています。また、自殺率も高くなっています。
双極性障害の治療は単極性うつ病と同様、薬物療法、心理療法、社会的サポートの3本柱で行われますが、薬物療法は単極性うつ病と基本的に異なります。
双極性障害では、気分安定薬(日本では炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンの3種類が使用できる)を中心に用いるのが原則で、激しい躁状態には鎮静効果のある抗精神病薬を、また程度の重いうつ状態には抗うつ薬を用いますが、これらはあくまでも付加的なものです。
また、双極性障害の6割は気分安定薬の長期使用により、新たな病相を予防することが可能なので、予防に重点を置いた治療計画が必要です。
樋口 輝彦
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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